YouTubeを見ていると、ロックギターにしてもロックドラムにしても、若い子たちが(いや、子供ですら)、ものすごいテクニックで演奏しているのが、次から次へと出てきて、参るよね。
もう、だいぶ前からだけど、ロックミュージックもクラシック音楽化したなあ、と思っている。音楽理論と演奏法と教育法が完全に確立していて、きちんと学習さえすれば、先人たちのレベルに誰でも達することができるようになった。僕のジェネレーションのように、先生も本もなく、自己流で苦心して身につけた人間から見ると、もう、あれよあれよ、という感じで、意外とこういう事態になるの、早かったな、と思う。
実際、たとえば、音楽で仮りに彼らと戦っても、勝てないことの方が多そうだ。プレイヤーの平均レベルがここまで上がってしまうと、戦いのレベルも格段に上がる。そうなると、クラシックと同じで、極めて高度な表現力の部分で切磋して、競い合う話になるだろう。しかし、ロックのそういうの、だれが判断するんだろうね?
それにしても、これもしょっちゅう言われることだけど、ロックって音楽は元来反体制の音楽なのだけど、確立してしまったら体制側になるんで、そもそも矛盾してしまい、変なことになる。そんなのは昔の話で、反体制はロックからラップかなにか(あるいは今はまた別のがあるの?)に移ったってことで、ロックはそういう面倒からすでに解放されているのかもしれない。
最近、こういうこと書いてると、むかし話をどうしても思い出しちゃうのは歳なんだかなんなんだか、まあ、還暦だし許されるか(笑)
で、思い出したのだが、僕は何であれ、昔から、糞真面目に粛々と何かをやっている場にいると、タイミングが悪い場合、無性に腹が立ってきて、自分が抑えられなくなることが、たまにだけど、ある。
だいぶ昔にやってたバンドだったんだけど、ある時、そこに、メンバー募集かなんかで連絡してきたギタリストが来たことがあった。真面目そうな男で、几帳面なギターを弾くやつだった。スタジオでしばらく一緒にジャムセッションした。
何曲か目にJohnny B Goodeをやったのだが、やっぱり彼、几帳面に糞真面目にうつむき加減にギターを弾いている。僕は何が気に入らなかったのだかわからないのだけど、だんだんそういう演奏をしていることにむらむらと腹が立ってきて、二回目のソロの時に暴走し、音量を全部10にしてピックで弦を無茶苦茶に引っ掻き回し、周りを無視して暴れまわり、ピックはバリバリに割れて跡形もなく、それでも指で弦を無茶苦茶に弾いてたので、右手の指の爪が割れて血が噴き出し、右手血まみれのままギターを床に放り投げ、それでようやく演奏が終わった。僕ははあはあと肩で息をしてるし、周りのメンバー茫然。真面目な若者茫然。ただ、その中に一人だけコーラス要員の女の子がいて、その子がすぐに僕に駆け寄って、僕の右手をとって「だいじょうぶ?」って言って、バッグからバンドエイドかなんか取り出して、手当てしてくれた。
はっきりしているのは、僕はバカそのものだが、その子は本当に優しい、いい娘だった。
もう今はそんな元気はないと思うが、しかしみなさん、ひょっとするといつかステージで突然発狂するかもしれないので、気を付けた方がいいですよ。でも、歳のせいで、そんときは途端に心臓マヒでバタっと倒れてあの世ゆき、というハッピーエンドで終わるかもしれんが。もしそうなったら、それは憤死というんだな。かのイヴ・クラインのように。
月別アーカイブ: 2019年1月
相性
だいぶ昔、とある街に住んでたころ、とある呑み屋つながりの人々とあれこれ遊んでいたことがあり、そのときの話。その呑み仲間のなかに、明るくて元気でよくしゃべるおばちゃんがいて、あるとき、そのおばちゃんに誘われて、家に皆で遊びに行ったことがあった。おばちゃんはバツイチかなんかで、そのころ彼氏ができて、その彼氏がむかし飲食店で板さんやってたから、料理を作ってくれるというのである。
で、台所から次々と料理が出てきて、たしかにどれもおいしかったのだけど、その料理が見事なぐらい、中流以下ぐらいの「ある層」をターゲットにした料理で、高級店では出て来ない味だけど、安めし屋とかの味でもない。食べてて、あまりにその「層」がはっきり感じられて、なんだか感心してしまった。不思議なもんだなあ、って思って。
ちなみに、その彼の歳はたぶん40半ばで、おばちゃんと付き合う前は仕事をしてたけど、おばちゃんの家で一緒に住み始めたとたん仕事を辞め、毎日プラプラしていたそうだ。要はヒモを決め込んだわけだ。おばちゃんはわりといいところで仕事してて、実入りもいい。その彼、ホームパーティーでエプロンして料理作っちゃいるけど、話を聞くとわりとろくでなしっぽい。でもちょっと男前で愉快な楽しい人だった。
それで、そのおばちゃんだけど、ものすごく人の世話を焼くのが好きな人で、いろいろ男と関係も多いらしかったが、まいどまいど、そういう、世話しないといけない男とくっついちゃうそうだ。本人、なんでいつも私が面倒見なきゃなんないのかしらねえ、早くラクしたいわ、とかけっこう愚痴を言ってた。で、それから一年ほどして、風の便りで、おばちゃんが彼氏と別れたらしいっていう噂を聞いた。
料理人とその料理、世話焼きおばちゃんとろくでなし男、などなど、世の中って相性って、あるんだなあ。っていうか、世の中、相性だけでできあがってるのかもね。