久しぶり
1年ぶりだな
恒例の年末ひとりごと。どうだ、やるか
やるよ。去年はたしか、今回こそは短く切り上げるって宣言して、ほんとに短く終わったっけ
なんでそうしたんだっけ
忘れたけど、たしか、このどうでもいいことシリーズがなんだか定番になっちゃって、当初の目的から離れてきたから、少しでも昔に戻るためじゃない?
当初はうつ病対策だったもんなあ
そうだよ、いい歳になって会社をリストラされて、ほんの短い期間ではあるけど路頭に迷ったときだよ
路頭には迷わんだろ、生活する金はあったし
うん、まあ、極端だが、うーんと、またしゃべりにくいことを思いついたぞ
なんだ
この文って公開してるだろ? ってことは読者がいるだろ? ってことは自分に正直にしゃべれないってことだよ
そういうことを考えないのが、当初のオレたちの豪胆なところだったのにな
世間知らずの無知蒙昧ともいうがな
で、なにを思いついたって?
うん。オレたち、正直、エリートだろ? 小学生のころからお勉強ができて、いい大学入って、NHKっていう大企業入って、順調に出世して、転職してキャリアアップして。そういう身からすると、いくら金はあったところで、リストラで職を失うショックってのは、それ相応のものだったな、って思ってね。でも、こんなこと言うとひがまれるかもな
そりゃそうだろうな。そんな順調な人生じゃない、本当に苦労をしてきた人だったら、オレたちのリストラなんて、てんで甘いし、へでもないだろうしな
ま、とにかくだ、豪胆だった若いオレたちは、あのリストラ事件で、あるていどは目が覚めたと言っていいだろうな
そのころだったな、このどうでもいいことを再開したのは。きわめて弱っていたあの頃が、思い出されるよ
プライドずたずた
そうだ、思い出した。そのリストラ後ほどなくだったか、リストラ中だったか、そのときに、なぜだかオレがNHKで絶好調だったときに行ってた英会話教室の年下の女の子からたまたま連絡があって、飲みましょう、とか言って会ったっけ
ああ、そんなこと、あったなあ
新大久保の韓国料理屋へ行ったっけ。あれは、思い出すたびに冷や汗ものだな。できることならやり直したいわ
ははは! まだ気にしてんだ! ま、オレもだ。ははは!
うん、年下の女の子相手に、世間は大変だ的な、愚痴みたいな中途半端なこと、だいぶ言ったっけ
カッコ悪いなあ
で、オレがあまりにネガティブなことばかり言うから、彼女、昔の英会話教室時代の話をして、あのときは、あの教室の、自分や友達とかが、林さんに憧れてたんですよ、って真顔で言ってくれたっけ
ああ、ああ、そうだろうよ。オレがいちばん自信満々だったころだからな
でも、最後までいいところを見せられず、疲れた中年みたいに振舞って、それで駅の前で別れたっけ
それも今ではいい思い出だよ。って言葉はよく慰めに使われるけど、ぜんぜんそういう気になれんな
慰めは無用って感じだな
さてと。なかなかに自虐的に始まったが、このままいくのか
そうだな、オレにとって自虐はすでに板についた感があるが、人前でやると、なんともみじめだ。止めた方がいいだろうな
いや、でもね、今の時代は自虐が許されない時代だから、かえっていいんじゃないか? オレたちのお定まりのマイノリティに身が置けるじゃないか
必然的にマイノリティ側になってしまう、と思ってはいるが、ホントのところは分からないな
ま、とにかく、今の時代のキーワードは、ポジティブ、元気、健康、前向き、積極的、ソーシャライズ、コミュニケーション、グローバル、と、こうだろ? どうよ、これって
どの言葉も、震え上がるぐらいに嫌いだな。
オレたちの今書いてる、この内容、それらのキーワードと見事にすべて逆を行ってるだろ。オレたち、潔いな
そりゃ、潔いさ。武士の嫡男だもん
ははは、かつて親父にそう言われたからすっかりその気か
ま、水呑み百姓の可能性もある。でも、オレはそれでも武士の子として生きるよ。七人の侍の菊千代みたいに
それだけが最後の砦、ってのも狭いもんだな。ほかにないのか
ほかは、えーと、酋長の娘の子供
お袋だな?
うん、親父がよく、お袋のことを酋長の娘って言ってたっけ。もしそうだとすると、オレたち、その酋長のいいとこのお坊ちゃん
そうそう。オレたちの楽観的性格はすべて、そっちから来てるしな
それがなかったら、オレたち自虐で潰れてるよ、マジで
ま、とにかく、なんで世の中は、ああ、正義、正義、ってわめいてるんだろうな、心底、嫌になるな
正義じゃないものを見つけて吊るしあげて断罪して除去すれば、社会は限りなく進歩して行くとでも思ってるんだろ。考えの浅い、おめでたいやつらだ
ま、関わるのは止めるんだな
でも、そうも行かない。周りにたくさんたくさんいるしな、その正義の人が。いつもいつも、どんな問題が目のまえにあっても、正しい側にしかつかず、いつも公平で、平等で、博愛な、正しいことしか言わない人たち
あれ見てると、ほとんど本能かな、と思うよ
ま、オレたちは、そういう「正しいもの」を今まで忌み嫌ってきたのは間違いないけど、でも、ひょっとすると、それって20世紀で終わるべくして終わるはずの遺物かもしれない、と疑ったことって、無い?
たまにあるよ。というのは、世の中があまりに正しいもので溢れてるからね。で、その正しいものを信奉しないやつらは、今度は、はっきりと人類の敵みたいな風なふるまいや、言動をしている。ネオナチとかね、オルトライトとか、トランプ支持者とか、ずらずらずらずら出て来ること出て来ること
となると、オレたちは、正しいことが好きな世間から見ると、そっちに分類されるはずだろうな
それは勘弁だな。でも、残念ながら、そうなってしまうことが多いな。忌々しいが
ああ。だからといって、おまえ、戦うか?
うーむ、そこは微妙だな。たぶん戦わずに逃げるだろうな
あっしにはかかわりのねえことでござんす、と
木枯らし紋次郎ね
でも、あの紋次郎はさ、そんなこと言うくせに最後には思いっきり関わっちゃうんだよな。オレたち、それに近いかもな
ああ、この前もドイツ人の若い彼に呼ばれて、ちょっと論争じみたことをしたが、まあ、閉口した。あの真面目さ、正しいことしか興味のない様子、間違ったことは全力で正さないといけない、という頑迷さ。まだ若いのにお堅くて、真面目で、フレキシブルさ、ねえなあ、って思ったっけ
Jordan Petersonのことが発端だろ? もう、ホント、みんなめんどくさい。あの人、急激に有名になっちゃって、あの人もそれなりに困ってるかもな。彼、そんなことはおくびにも出さないが。
ああ、彼のスローガンのひとつは、Speak up、そして、闘え、だからね
うん、そこがオレと違うな。オレたちめったに闘わないからな。Peterson先生については、バッシングしている人々は、彼について最近知っただけで、たいして彼の思想を分かってないと思うな
うん
だから、もうちょっと勉強して、それから出直して来るんですな、ってとこかな
でも、Petersonを誤解する人が現れたら、それを分かっているおまえが、補足しながら、そういう人々を説得するべきじゃないのか?
あっしにはかかわりのねえことでござんす
逃げるか
逃げるよ。逃げないでか
卑怯じゃないか
なんとでも言え
Peterson先生はそういうとき、逃げるな、闘え、って言ってるぞ
毛唐の言うことは、聞かん
おまえ、それ差別用語だろ
そういや、30年前のNHK技研の二宮部長は、部会の席で堂々と「あいつら毛唐の考えてることは違うからね」とか言ってのけてたっけな。あとで、先輩の一人がそっと、二宮さん、公の場で差別用語使っちゃだめでしょ、ってオレに耳打ちしてたっけ
うん。いい部長、そしていい時代だったな
ま、とにかく、その場合、オレは東洋人であるという権利を行使させてもらうよ
ところで、もう、日本じゃとっくに来年じゃねーか
あ、ホントだ。いつのまにか夜の7時。ってことは日本は、えーと、夜中っていうか、朝方の3時じゃねーか
オレたちは来年までまだ5時間もあるよ。余裕だな
さてと、日本も来年になったことだし、今年の反省とか、来年の抱負とか、ないのか、え?
そーねー。反省ねー。いまさら反省しても遅いだろ。すぐ来年になっちゃうし
まーな。でも、2018年っていう年の特殊性って、ない?
それはなんとなくあるな
なに?
なんとなくだけど、両陣営に分化しつつあるような、気がする
何と何に?
わからない。なにかとなにか
それじゃ、分からないな
うん。漠然とだよ。ただ、さっき言った、正しい、とか、正義、とか、あの我慢のならないPolitical correctnessとか、そういうものについて行く人々と、そのカウンターに位置する人と、いよいよ分離してきている、というのはあるかもよ
あのさあ
なんだ
このどうでもいいことを書く前に、おまえ、さっき買い物の自転車乗りながら、スウェーデンについてネガティブなこと書くか、書くまいか、どうしようかなとか考えてただろ。あれ、どうすんの?
もう長くなったから、いい。書かなくて。どう思う?
書かなくても別にいいけど、おまえ、今年一年は、いよいよスウェーデンが嫌いになってしまった年、ってさっき自転車乗りながら考えてなかったっけ?
バラすなよ。スウェーデン愛の人が怒るだろーが
怒ったって、いいじゃん
まあな。でも、止めとくよ。本当に書きたくなったら、こんなだらだら雑談じゃなくて、きちんとした意見として文章で書くよ
いい子ちゃんねえ
エリートだもん
エリート嫌いなくせに
エリート嫌いなのにエリート。オレたちも救われないな。そういう性格なんだな
でも、とにかく、予告ぐらいしとけよ。なんでスウェーデンが嫌いなんて、言うんだよ
うーん、スウェーデンには悪いところが全然ない。それが嫌い、ってことかな
天邪鬼ってことか
いや、正しいことばっかりなのが、嫌になっちゃったんだよ。さっきの話と同じだよ。およそ、「なにか」が正しいことだけで出来上がっていたとき、その「なにか」に対する態度は二つになるのだろ? 一つは、その正しさをそのまま信じてその「なにか」の一部になること。もう一つは、その中に入らないこと
ってことは、おまえはスウェーデンで生活して仕事までしてるのに、その中に入ることを拒否するんだな?
だから言っただろ、闘う気はないって。だから拒否なんていう強い態度には出ないよ
じゃあ逃げるしかないじゃないか。逃げるところ、あるのかよ、オレたちに
ねーな
だめじゃん
だめなんだよ。困ったな。あのね、もし、その「なにか」が正しいことばかりでできていない場合、その仲間になれるんだよ。なぜかっていうと、正しくないこともあって、それが気に入れば、それで安心して中に入れるだろ?
おまえさあ、オレはお前だからなに言ってるか分かるけど、お前みたいなことを言っても理解してくれる人は皆無だぜ? お前のその言葉を聞いたら、そんなことないですよ、スウェーデンにだって正しくないことはたくさんたくさんあります。正しいことだらけなはずないじゃないですか、とか言われて終わるぜ
オレが言ってるのは、正しいことと正しくないことの比率のことじゃない。正しいことだけで出来ている世界を目指そうとする傾向のことだ。それが気に入らないって、言ってるんだよ
そんなこと言って、だれが分かるかよ
だからもっと正規に説明するために、いつか書くよ、って言ってんだよ。さらさらと言えるようなことなら、苦労しねえっつーの
まあな。でも、その、仲間になるか、ならないか、ってわかるよ。しょせんは西洋ってことだろ?
そう。極東のアジア人にはなじまなかったってことさ
正しい社会が目のまえにあったとき、それに同化するか、通り過ぎるかしか、方法がない、ってのはなかなか深い洞察じゃねーか
そうか。自分が自分を褒めても、嬉しくもなんともないな
同化、すなわち、教化、そして、改宗、ってことだな?
まーな。一人芝居、もう、止めようぜ
ああ、白々しくなってきた。ま、いつか、っていうかもう来年の2019年しかありえないけど、書くんですな
すごく長くなるだろうな。めんどくせえな。でも、そういう本を書くべきお年頃かもな
ま、それが2019年の抱負か
勘弁しろよ、そんな糞マジメな抱負なんて、いやだよ
じゃ、なにすんの、来年
そうねえ、すでに、もう何冊も本を書く作業と計画が進行中だから、そっちを先にやって、で、BLUESを練習してライブの構想練って、仕事は仕方ないからそこそこにやって、就活はもう疲れたから一時休止するよ
まだしばらくスウェーデンか。あきらめるしかねーか
チャンスは寝て待つことにしよう
他になんか言いたいことある? もう、すでに、だいぶ長いが
もちろん! 山ほどあるさ。でも、きりがないから止める
そうだな、えーと、来年まで4時間。だらだら飲んじゃいるが、そろそろ、買ってきたワイン、開けようよ
Riojaね、ちょっと待って。とってくる
値段高めのスペインのリオハかあ、これこそ、現世の天国だな
ああ。これ、さすがにおいしいなあ、いつもの3リットルのパックワインとはぜんぜん違うや。スペインの風景がフラッシュバックするよ
本当だな。初めて行った海外のスペイン、30年前、街中のバルで飲んだリオハワインの味は忘れがたいよな
大げさだけど、思想から何から何まで、あれがすべて、という気がするな
ああ。それ、現世の肯定のことだろ?
うん
世界は美しい。どんなに苦悩に満ちていてもうつくしい
空海だな
そう、空海
澁澤さんの高丘親王の中にも出てきたっけ、空海。オレがいちばん好きなシーンだ
そう。そういう素晴らしい人たちがオレたちの祖先にいたってだけで、それだけで十分に、生きるって素晴らしいことだ
そういう感動癖に取りつかれるってのは、酔ってる証拠だぜ
まだ、それほど飲んじゃいないが
ま、あと少しリオハを堪能して、それで寝ようぜ。元旦は、今年は餅があるから、お雑煮を作って食べよう
お雑煮なんて6年ぶりだな
だろ? 楽しみに寝るんだな。たかがお雑煮だが
でも、そうするよ!
新どうでもいいこと28