久しぶりだな

ああ、久しぶりだ

スウェーデンに住んでから、オレたちこうやってしゃべったっけ

どうだったかな、しゃべってないような気がするな。しかし、半年たったな。長いような短いような

うん、どうでもいいがやはり異国というのは異国だな。しょせんはやはり分からないし、解け入ることのできない、一時的に訪れた場所って感じがするよ

そうだな。よく、外国に住んで、その国について「こうこう、こういう国だ」なんていうことを偉そうに言えるようになるには5年から10年はかかる、って書いている人を見かけるな

ああ、俺たちもスウェーデンに来て、日本に比べてこれこれこういうところがあって、と、ずいぶん人にもしゃべったしネットにも書いたりしたが、あれはしょせん半年にも満たない滞在の感想というだけで、それほど当たってはいない、ということだな

まあ、およそそれが正しいだろうな

半年たって、最近はどうだよ

そうねー、もうすでにスウェーデンはこれこれこういう国だ、とか言うのに飽きてきた感じがあるな

以前に言ってたことが当たってなかったってことか

いや、そうじゃなくて、それなりに当たってはいるよ、でも、結局やつらは俺とは違う人種だっていうことだけで、すでに十分だってことかな

どういう意味だ

つまり、違う、ってだけで、もういいんだよ。「どう違う」という詮索の必要をあまり認めなくなったということかな

なぜだ

さあね。実際に彼らと付き合ってみると、違うということだけ本当に分かっていればそれで十分だっていうのが分かってきたんだろうな。

ふーん

つまり、人と人が面と向かって、さて何かやりましょう、分かりあいましょう、なんてときはさ、俺とあなたの人格の違いはこれこれで、育ちの違いはあれこれで、であるからにして、それに起因する誤解をまず解くために、お互いに分かり合う下地を作りましょう、とかとかなんとか、なんていう方法論は不要だし、たいして功を奏さない、ってことかな。

なるほど、つまり、おまえらしく、結局、効率で行動するのがイヤだって言ってるんだな

お互い心があればそれで十分。それ以上のお互いの背景なんて知らなくったって別にいい、ってことさ。混乱を招くだけだよ。まあ、これは俺の元来の歴史嫌いから来てるのかもな

おまえな、いい歳して歴史嫌い、なんていうことを公で言うと、あんまりよくないぞ。その一言でおまえのことを軽薄な人間だと切り捨てる人間が社会にいてもおかしくない

別にいいよ。考えてみると俺たちも54歳だ。現在のクローズドな社会で自分の評判が多少悪くなったって、もうそんなに社会生活に支障が出るとも思えないだろ。そうこうしてるうちに引退さ。公の場での発言を過度に気にするのは、まだあと20年ぐらいサラリーマンやって30年ぐらい住宅ローンを返さないといけない人たちがすることさ。俺たちはもう、そんなのからは卒業しようぜ

まあな、賛成しとくよ。ところで、半年間、スウェーデン人と付き合ってきて、さいきんどうよ

それなりに楽しいよ

いい人たちだってことか?

どこの国へ行ったって、同じさ。さっき言ったように、本当に違う人種だって前提から始めて、それで、面と向かって会っているときにめいめいの心が通じれば、それで必要かつ十分だ。そういう意味じゃ、外国人にいい人も悪い人も、ない。だいたいが「外国人」と「いい悪い」にはなんらの相関も無いってことさ。

まあ、おまえは、その「相関」を云々する人たちをいつも忌々しく見ているからな。知ってるよ

むかしさ、俺たちの生まれ育った大森の駅前に信濃路っていう超大衆メシ屋があっただろ?

ああ、あそこ、よく行ったな

あそこは24時間だから、飲んだ帰りとかによく寄ったけど、案の定、中国人やらなにやら安いアジア人を雇ってたよな

ああ、それで、日本人のおっちゃんが、そのバイトのアジア人をこき使ってたな

ああ、俺は店に行くたびカウンターに座っていつもそれを観察していたが、たしかにこき使ってた。でもね、いじめてたわけじゃない。おっちゃんたちは、そもそも最初に、自分たち日本人とバイトの安いアジア人は徹底的に違う人種だっていう前提から始めてたよ。もう、あれは本能みたいなもんだ。

なるほど、おっちゃんたちにはいわゆる差別ってのがはなから無かったな。叱ったり、時々は無駄話をしてたり、ごく自然に付き合ってたな

そうさ、おっちゃんたちだって、あんな場末のメシ屋でシフト制で働いてるんだ、貧しさってことじゃアジア人たちと同じようなもんだ。なので、彼ら本能で行動するんだよ。それがはたから見ていてすごくすっきりさわやかで、酔っ払ってソバ食いに入った若かった俺は、行くたびに心の故郷を見るようにして彼らを見ていたよ

そうだったな。そうしてみると俺たちもあのころからノリは変わってないな

ああ、確かに。人間で醜いのはいつでも中途半端に学のあるやつらさ

ははは、そろそろ放言か

あ、いや、この手の話に俺はことのほか、弱いな。すぐに涙もろくなったり、不要に腹が立ったりする

ま、いつものことさ。ところでスウェーデン人はいいとして、スウェーデンの土地はどうだ

俺たちのいるのはゴットランド島で、世界遺産の街とはいえ田舎だからな、まあそれなりに退屈だな

それでも自然はすばらしいよな

ああ、それに異論はない。ここの自然の美しさは超一流だ。ただね、やっぱり半年いて気がつくことがあったよ

なに?

自然の変化がなんだか早くて急激で落差が大きいってことだ。特にここは島だからかな。天気の変わり方が尋常じゃなく早い。晴れと雪を15分ごとに繰り返していたり、雪が積もって白一色になったと思えば、翌日に太陽が出て数日ですっかり雪が解けて消えてしまったり。まだいくらでもあるんだが、とにかく変化の触れ幅が大きく、それも急激にそうなる印象だな

そうそう。日本とはずいぶん違うよな

日本だって、たしかに同じように急激なこともあるよ。でもね、なんだかその情緒がずいぶんと違うよな。日本はね、やっぱり徹底的に春夏秋冬の四季の国さ。こっちの自然は美しいけど、ちょっと凶暴な感じがするな

なるほどね。それにしてもこれから俺たちどうするつもり?

さあね。成り行きに任せるかな

ところで今日はなんでこんな駄文を書いてるかっていうと、カミさんが隣のリビングでぐーぐー寝てるから、だよな

うん、すでに缶ビールを久々に4缶も飲んでるし、もうすぐ深夜の12時だし

そろそろ寝るか

ああ、もう一本飲みたいけど、やめとくか

それがいいよ。じゃ、お休み

うん、また明日



新どうでもいいこと17