おまえ三島由紀夫の腹切りどう思う

痛そうだなって感じかね、いや、本当にあんな事をつい最近までやってた、ってことを改めて思い知らされてそれがびっくりだよ。とはいえ結果を見るとどうも犬死にっぽいな、何せ今誰があれを覚えてるんだよ

そうだろ?だいたいオレが三島由紀夫の腹切りなんて発言をしただけで何か我々と無縁な遠い昔というか、思い出したくない古くさい過去って雰囲気がただようもんな。しかしそれが彼の狙ったところかもね。つまり、当時もう既にずたずたになって虫の息だった日本の息の根を止めてやろうとしたんじゃないかな、このていどなら楽に死なせてやるのに人手はいらん、俺一人で十分だ、とそう思わなかったかな。そして結果はその通りになった

歴史は繰り返さないってことか、いい言葉だよ。しかしおまえの言うとおりだとすると、あれは当時の現代と刺し違えたように一見見えるが、実はそうじゃなくて文字通り、愛するからこそ殺した、すなわち心中に近いってことになるな

心中かあ、古くさい言葉だよな

ああ、まったく古くさい

じゃ、今の時代にふさわしい何かもっと別の言葉ってあったっけ。いや、それよりも僕らにとってそれこそ三島由紀夫が生きていた時代を本当に理解しようとすることに何か意味があるのだろうか、それより100年ぐらい古くなるといいんだよな、史実として学問になる

もちろん生き残りってのはいつでも居るがな、僕らの目に見えている東京では、もうほとんどのものがストレンジャーだ。すなわち流行のテンポが速すぎて現れた次の瞬間にストレンジャーってわけさ。それこそが東京が他の世界の人たちからうらやましがられるゆえんさ。いま俺達はなぜかパリのホテルで話しているが、この石の国を見ろよ

ああ、初めて来ると、何といいところかと思うが、しばらく暮らしていると、あまりに千篇一律な変わらぬヨーロッパ的情緒がハナについてきて嫌になることがあるな

それに比べて東京はどうだ、あれはパリなんかと比べると「節操がない」と言ったときのレベルが違う。まあ数歩は先を行ってるよ

どっちがいいかって、そうだれでも問いかけたくなるよな。おまえはどっちがいい

うーん、そりゃね、パリの方がいいって言おうかな、どうしようかな。でもさフランス人は新しもの好きで有名で、とんでもないものを作ったり発明したりするが、やっぱり何か古いものと何だか分かんないけど調和しているように見えるんだがなあ

とにかく快適、という感覚が発達してるんだろう。あの、最新のものを扱っていても、実に取り澄ましたような感覚は日本にはないな。そういう意味ではやはり東京はアジア的感覚が色濃いよ、それがパリにしばらくいると分かる気がする

ああ、でもまあ正直言って早く東京に帰りたいよ、で、新宿あたりのあの超絶バカげた街作りの中でうさでも晴らしたいね

おまえさ、東京は最悪だ、日本は嫌いだっていいながらやっぱり好きなんだろ

そう言われても仕方ないか

いやもっと正しく言ってやる。それはホームシックってやつだよ、これってもう死語だろ?でもねおまえはそうなんだよ。やっぱり東京で生まれ育ったせいで、あのでたらめな東京のそのでたらめさがいつの間にかおまえに必要な空気になってるってわけだ

正直に言ってやると、俺は現代東京より前の三島由紀夫の日本が、実は虫ずが走るほど嫌いといって一向に差し支えなしさ。つまり俺は古い日本には最大限の尊敬と憧憬を捧げているが、生活のレベルでは我慢ならないほど嫌いだ

変な奴だな、で、現代東京は生活に必要な空気だが、その空気が信じられないほど軽薄で、何の重さも持っていないことに対して始終文句を言ってるってわけか

ま、俺が嫌いなのは教育を受けたバカ共だ、朝日新聞のどこを開いてもまあそんな程度だ、でもさ、そいつらには我慢ならないが、そいつらの作ったものが東京という街全体を形作っているとするとさ、それはね、結構もっとそんな下らない教育なんかと無関係な、それこそさっき言ったアジア的本能が期せずして出て来た結果かもしれない、となるといくらか頼もしく思うよ

そうか、ま、東京にそうやって甘くなるのもやっぱりパリに2週間も暮らしているからさ、やっぱり住み慣れたところがいい、っていう誰にでもある感覚なのさ

はっは、ま、仕方ないか、これじゃ日本から逃亡しようとしている自分の先が思いやられるよ

言ってるだけで無理かもよ、ま、だめでも俺は責めないけどおまえ立場ないぜー

そうだな、意外と失敗して自分の人間性の限界を思い知ってそれで終わり、となったら、あーーいやだなあ

ま、見てみましょ、どうなるか



元祖どうでもいいこと7