うんこのように酔っぱらったときは、おまえどうする?

そうさね、昔は故意にロマンチシズムに浸ったものさ、思い出すね、うんこのように下らない色々な事事をね、線路の上を歩いて深夜の空を見上げて天使の光を探そうとしたりさ

はっはっは天使の光だ?ばかもん!はっはっは

でもさ、若いころのそれ風のあほくさいロマンチシズムもさ、今じゃ”故意”に浸ろうとしたんだろうが、とかたずけたくなるがな。とはいえ、そういえば、外国行き飛行機に12時間も乗ると最初の内そんなバカげた気分になることがあってちょっとびっくりだよ

は?飛行機がどうしたって?

あのね、この前飛行機で酒飲みながら、あきもせず「罪と罰」を読んだんだよ

おまえアホなやつだな、いい加減にしたらどうだ

ま、いいじゃないか、おれにとってあれはバイブルだからさ、いつも真ん中へんを読むばっかりで最初から読むってことがないんだ。けどその時は1ページ目から読み始めたんだよ、そしたらね、これはもう「涙の谷」って感じだったよ

あのね、涙の谷になるというのは精神不安定な証拠、というか肉体的に弱ったときの単なる生理的防御反応なのだ、本気にするなよ、忠告しとくけど

そんなこと分かってるわい、このバカやろう

分かってやるのはタチが悪いな、このバカやろう、はっはっは

ま、とにかくあんなに深刻なことがあの長い小節の最初の3、40ページに書かれているとは思わなかったよ。あれを書いた糞じじい、やっぱり天才だったのかなあ、もっともあいつ天才ぽくないんだよなあ、だって70だか80までとにかく生きてたんだぜ (筆者注:さっきたまたま調べたら60歳で死んでる。いいかげんだな~)

でもまあ大変な人生だったらしいじゃないか

まあな、でもとにかく最初に出てくるイメージは尋常じゃないぜ、あれには、よし正直に言おう。階級、つまり生まれを越えようとする恐ろしい情熱があるよ。つまりさ、真実は階級を越えているという恐ろしい事実を全力をあげて証明しようとしている。にもかかわらず結論は階級に甘んじるということなのだ。しかし同時に階級を越える真実がどこかに確実に現存しているという動物的直観によっている

おまえな、何言ってるか全然分からないよ、この酔っぱらい!

いいか、あそこに始めに出てくるのがマルメラードフという酔漢だ、彼には教養がある。もちろんラスコーリニコフという落ちこぼれ大学生も教養がある。で、マルメラードフのやってることはこれはもう全ての自分の教養をことごとく裏切るようなことをわざとやるんだぜ。自分が家族の金を全て飲みしろに使ってしまうせいで、さいごには一人娘を売春にやってしまうはめになるのだ

生活、生活、生活、どいつもこいつも生活のため何でもやるって

あーあ、そんなバカなだよ、なぜ教養のある人というのは永遠に更正することがないんだろう、なぜいつも下らないことで苦しんでいるんだろう。なぜ考えるということを止めることができないんだろう。こうなると酒だけがその人の理性の拷問を一時的にストップできるということになるのだ

ふん、それでそれ以上に何かやらかす、それが酔っぱらいの常だろうが

とりあえずおまえを無視するぞ、で、その後にラスコーリニコフが見た夢は本当に痛々しいんだよ。百姓共が酔っぱらって、あわれなやせ馬をよってたかって殺してしまうのだ。馬はね、死ぬ直前までかれら野蛮人、人非人どもの仕打ちに対して従順に渾身の力で応えようとしているのだ。ここなんぞはね、俺は読みながら文字通りおいおい泣いてしまったよ

くそっ、バカやろうと言うのも言い飽きた。ロッキー2かなんか見て泣くのとどこが違うか、いっぺん真面目に考えてみたらどうだ?俺はな結局あんまり変わらないと思うぜ

ま、いいじゃないか、考えて証明するより先にオレは自分の感じたことを言ってるだけさ、検討はあとでいいよ。ここではね、マルメラードフとちょうど反対の事態が起こっている。つまり下層階級の連中の残酷さと罪の無さだ。いいか、ここで言う罪の無さというのはキリスト教風のことをいっているのではなくて、それより以前の、理性という実を喰ったことのない連中の罪の無さだ、結局、理性が罪のおおもとだと考えたときのだ、つまりアダムとイブの物語風にだ

で、結局理性についておまえはどう思ったんだよ。理性だ、本能だ、信仰だ、ってまったくそうやって昔ならった集合かなんかみたいに丸を三つ描いて重複したりしなかったり、それで安心してる呑気な気質が思われるね

じゃこのやろうおまえは何者なんだよ、何か新味のあることを言って見ろこのやろう

すべてはでたらめにごちゃごちゃにひとつのまま進行しているのだ。そこにはね、境界線というものが存在しないのだ、だから集合のときみたく線で囲うということが意味をなさないのだ、たとえ概念というものがあっても、ひとつが全てに対して、全てがひとつに対して休みなく影響を及ぼしているのだ。だから俺達はその坩堝に甘んじて生き、食べ、暮らし、それでよしなんだよ。いいか、それに耐えられない気持ちは分かるさ、しかしそれはおまえの生まれと教育によっておまえに植え付けられた何かがそう考えるようにしむけるのだ。いいか、おまえもそろそろ自分の育ちとそこから自然と身についてしまった思想を捨てて、あるがままに生活を受け入れるようにするべきだ

バカ、それができればとっくの間にしてらあ、できないんだよ、だから俺が生来持っている理性で解決しようとしてるんじゃねえか

理性理性、ってそんなに大切なものか、やっぱりおまえのような奴は一回外的な力で縛りつけなきゃ思い知らないようだな。好き勝手なことやって誰からもとがめられずに平気でやってこれた、そのおまえの根本的性格があだになったってわけだ

ああ、ああ、そうだよ、諸悪の根元は俺の根本的楽天家気質にあるって言うんだろ? いや、本当にそうだがな、おれはロシアと西欧に対して不実なままアジアかアフリカに逃げてやらあ、ならいいだろ?

ああ、上等だ。きっとそこでおまえはおまえの狭い理性で帰結できない事を、情報としてじゃなくて生活感情として強要されるときが来るよ、そうすればきっとさすがのおまえも反省するだろうよ

えーい、くそっ、あのインドあたりを放浪してる糞バカ日本人どもと一緒になれってか。何が嫌いだってあのインドかぶれのバカどもほど嫌いなものはないのにな、いまいましい

でもな、そういう奴等をおまえはハナから相手にしないせいで奴等の苦悩に耳を傾けたためしがないだろう。意外とおまえと同じ悩みを持ってるかもよ、そしたらおまえどうする

そんな奴らに出会ったら、そうなんですよ私も同じ悩みなんですと、太陽が出てる間は意気投合して、日が沈んだらそいつの寝首をかいてやる、はっはっは

そうなりゃさ、奴等もおまえもようやくアラブ人あたりと同じ行動原理になってめでたしだ、おまえが殺されるにせよ、奴等が殺されるにせよな。しかしおまえらそれで犬死にだ。自分の命をはってガイジンになりたいとはどういう了見だ、って思うがな

はっはっはっは、結局ガイジンになりたい、それだけが全てか。なんて愚劣で下らないんだ

日本知識人のなれのはて、と、ま、そういうことだ。まったくどいつもこいつもだめな奴等だ、尊敬できる奴なんぞに会ったことがない。結局問題は日本、そして当のおまえが日本人だってことにありそうだな

そんなのは分かり切ったことだ。日本、これほど俺の嫌いな言葉はない



元祖どうでもいいこと1