日本の大衆食への中華料理の入り込み方はすごいもので、おそらく並みいる他国料理の中でもこの中華料理の浸透度は他をかなり引き離してトップであろう。ここまでポピュラーになると、本場中国での料理と異なる独自性が出てくるもので、ここではその部分を中心に紹介しよう。
自分の記憶では、その昔の大衆中華屋は主にラーメンが軸になっていたように思う。つまり町のラーメン屋というものがあり、そのラーメン屋がいくつかの中華メニューを用意しているという感じである。しかし、その後、このラーメンというものがまったく独自の進化をしたせいで、今ではラーメン屋というとほぼラーメンだけを専門に作って出す店舗をさすことになっている。この日本独自のラーメン屋については別項で紹介する。
さて、町のラーメン屋に加え、特にラーメンを表看板にせず、「中華料理屋」と称している町の中華屋というものも存在する。昔はラーメン屋をうたったものの方が多かったと思うが厳密な区別はできない。ここでは、一応、「中華屋」というくくりで、町にあるラーメン屋と中華屋を紹介することにしよう。
町のラーメン屋
これが町のラーメン屋の外観である。町のそば屋と同じく、こちらも各町の商店街などに1,2軒あることが多い。ラーメンとうたっているが、別項で紹介するラーメン専門店とは異なる。専門店と比べ、外観や看板やネーミングに特段の特徴が無いことでだいたい見分けることができる。あと、この写真の店のように赤や黄色が多用されていることが多い。中国の国旗の色から来ているのであろう。
店内は、テーブル席もあることが多いが、基本はカウンターがメインでオープンキッチンである。店内にはやはりあまり特徴がなく、殺風景で素っ気無い内装やテーブル椅子が使われる。町のそば屋や町の喫茶店につきものの共通した内装の感覚は薄く、なんとなく素人感が漂う。中華の感覚を日本的にうまく昇華しきれなかった雰囲気が、逆に独特のラーメン屋の個性を引き受けているようで興味深い。
町のラーメン
こちらが看板料理である「ラーメン」である。
ここでは東京の大衆食の紹介をしているので、当然ながらラーメンの種類もいわゆる「東京ラーメン」である。昨今のラーメン専門店で出している「東京ラーメン」の原型が、このそっけない醤油ラーメンである。
麺はかん水を使ったちぢれのない黄色い細麺を使うのがふつうである。スープはちょうどかけそばの汁のように醤油をたくさん入れ茶色ぽい。スープの取り方は各店で異なると思うが、基本は鶏ガラや豚ガラでだしを取り、醤油、塩、化学調味料で味をつけている。
上に乗せる具は、刻みネギ、シナチク、なると、チャーシュー、ホウレン草、海苔などになる。シナチクは元は中国のもので、タケノコを発酵させて干したものを戻して醤油と砂糖、ゴマ油などで味をつけたものである。メンマとも呼ぶ。チャーシューは中国の叉焼(チャ・シャオ)から来ているが中国のように焼いたものではなく、かたまりの豚肉を醤油と砂糖で煮たものをスライスして使う。
次は町のラーメン屋の主な麺類のメニューである。
ラーメン | 単にラーメンと言うとこれをさす。醤油味のスープに具はシナチク(メンマ)、チャーシュー、なると、ホウレン草、海苔、刻みネギなどが入る |
タンメン | 醤油を使わず塩味のスープで各種野菜の入ったもの。 |
ワンタンメン | ラーメンにわんたんが入ったもの。わんたんは少量の挽肉をわんたんの皮で包み、主につるっとした食感を楽しむ |
チャーシューメン | ラーメンのチャーシューを増量したもの |
町のラーメン屋に必ずある定番はこの「タンメン」である。名前は中国の湯麺(タン・ミェン:汁ソバ)から来ているが、ここでのタンメンは、たくさんの野菜を入れ、味つけに醤油を使わず塩味で仕上げたラーメンになる。野菜には、モヤシ、キャベツ、タマネギ、ニンジン、ピーマンなどを使い、味出しを兼ねて少しの豚コマ肉が入っていることが多い。塩味のスープは味を補うためかなり大量の化学調味料が入っているのが特徴である。
ラーメン以外の料理
ラーメン以外の料理の定番は餃子である。餃子は焼き餃子で、あんは豚肉にニラ、白菜、キャベツを入れた具にニンニクを加えたものが使われる。タレは食卓の醤油、酢、ラー油を自分で調合してそれにつけて食べる。
もう一つの定番はチャーハンであろう。中国の炒飯(チャオ・ファン)から来ている油炒めした飯である。具は卵、ネギ、チャーシュー、細切りのかまぼこなどを使い、醤油を多めに回し、化学調味料とコショウをかなり多く入れた独特の味である。
冷やし中華
冷やし系としてはこの冷やし中華が定番である。夏のみに限定で出されることも多く、一種、東京の夏の風物詩のひとつにもなっている。
麺はラーメンの麺を使い、具としてはキュウリ、薄焼き卵、ハム、ネギ、紅ショウガなどが乗る。タレは醤油を使った甘酢にゴマ油を加えたものがふつうで、洋ガラシが添えられる。
町の中華屋
町のラーメン屋との区別ははっきりしないが、ラーメンよりも中華料理をメインにした店をここでは町の中華屋と称している。出される中華料理は、オリジナルの中国の料理が長年に渡ってアレンジされたようなものが多く、本場風のものはまず、ない。
以下が定番の中華料理のメニューである。
野菜炒め | モヤシ、ニラ、キャベツ、タマネギ、ピーマン、ニンジンなどの野菜と少量の豚コマ肉を塩、醤油、コショウ、大量の化学調味料で炒めたもの。肉を増やした肉野菜炒めもある |
ニラレバ炒め | 薄切りの豚レバーをニラとモヤシなどと共に野菜炒めの味付けで炒めたもの |
マーボードウフ | 故陳建民氏が日本向きにアレンジした四川料理の麻婆豆腐の町中バージョン。豆腐と挽肉を若干の辛味と共に醤油で味付け片栗粉でとろみをつけたもの |
ホイコーロー | 麻婆豆腐と同じく四川料理の回鍋肉(ホイ・グオ・ロウ)をアレンジしたもの。豚バラ肉薄切りをキャベツとピーマンと共に辛みのある味噌と醤油で炒めたもの |
中華丼 | 白菜、キャベツ、タケノコ、キクラゲ、ニンジン、ピーマンなどと豚肉をタレ多めで炒め煮し、とろみをつけご飯にかけたもの |
天津丼 | 薄焼き卵をご飯に乗せ甘酢などのタレをかけたもの |
広東メン | ラーメンに中華丼のあんをかけたもの |
カタヤキソバ | 油でカリカリに揚げた茶色の揚げ麺に中華丼のあんをかけたもの |
これは中華屋の野菜炒めである。モヤシ、ニラ、キャベツ、タマネギ、ピーマン、ニンジン、キクラゲなどと少量の豚コマ肉を炒めている。味付けは、塩、コショウ、化学調味料、醤油、酒、ゴマ油で、基本的に最後に片栗粉でとろみをつけないことが多い。したがって調味料と野菜から出た水気が皿の下にたまるような感じになり、独特の中華屋的な味わいになる。化学調味料はふつう大量に入っており、一皿で大匙半分ていどは入れるのがふつうである。
こちらは天津丼で、卵焼きをご飯の上に乗せ、甘酢あんをかけている。元々はいわゆるカニ玉をご飯に乗せたものらしいが、高価なカニ肉の代わりにカマボコ、あるいはカニカマボコが入り、あと椎茸やタケノコなどが入る。あんは甘酢または醤油あんである。天津丼というネーミングには諸説あるようではっきりしないが、中国の天津にこの料理がないことは確かである。
(*) 画像はGoogleサーチで持ってきた無断転載である。写真撮影次第差し替え予定。