洋食屋

洋食屋は西洋料理を出す店であるが、一般に「洋食」と言ったときは、日本風にアレンジした西洋料理をさすことが多い。そういう意味で本場のオリジナルの西洋料理を出す店はふつう「西洋料理屋」、あるいはダイレクトにフランス料理屋、イタリア料理屋などと名指しで呼ぶことが多いであろう。

店や料理の形態としては、別項で紹介している定食屋の洋食バージョンと言える。もともとヨーロッパの料理が大々的に日本に入ってきたのは開国後と思われるが、輸入したヨーロッパ料理を当時の日本の庶民の口に合わせて大衆化する過程が長く続き、それを経ていわゆる「洋食」の形ができあがっていったのであろう。

ちなみに、洋食が大衆食として確立してからすでに何十年もたったはずで、現在ではおおもとのヨーロッパ各国のオリジナル料理を、むしろオリジナルに近い形で提供する傾向が、かなりいろいろなところで見られる。これは西洋料理に限らず、中華料理、エスニック料理なども同じ傾向がある。

逆に、そういう現代であるからこそ、洋食屋で供される和製料理はユニークでエスニックな感覚や、ノスタルジックな味わいを呼び起こすものが多く、面白い。

洋食屋の店舗

三軒茶屋の老舗の洋食屋アレックス。創業30年以上のようである。

三軒茶屋の老舗の洋食屋アレックス。創業30年以上のようである(*)

調べてみると洋食屋の元祖はどうやら精養軒のようで、創業は明治時代になってまもなくであり、すでに百年以上がたっている。それ以来、洋食屋は増え続け、日本全国に拡散してゆき、大衆食になっていった。しかし、今でも上野に残る元祖の精養軒がそうであるように、洋食屋は少しばかり気取った、ハイクラスな感じが漂うこともあるように思う。

大衆の暮らすふつうの町中まで降りてきた洋食屋であっても、和風の定食屋の少し場末な雰囲気と比べると、その元祖の気取りを少しだけ保持しているように感じられたりする。ちょうど、コーヒーという西洋飲料を出す喫茶店のかもし出す雰囲気と同じであろう。いまでは洋食屋と呼べる店舗はかなり少数になったが、それでも各町には小さいながらも洋食屋と呼べるような店が1、2軒は見つかるかと思う。

写真は三軒茶屋の洋食屋で、創業30年以上だそうだ。店舗の様子はおそらく何度もさま変わりしているだろうが、ここは今では気取った感じはなく、ほぼ町の定食屋と同じような、とても大衆的な雰囲気である。

洋食メニュー

洋食には定番がある。日本風にアレンジした西洋料理なので、日本にしかない独特の工夫がされていて、かなり興味深い。特徴的な料理を写真で先にいくつか紹介したあとに、一般的な洋食メニューを列挙することにしよう。

オムライス。トマトソースがかかっている。

オムライス。トマトソースがかかっている(*)

これはオムライス。オムレツとライスを組み合わせたもので、ケチャップで味付けした赤いチキンライスを卵焼きでくるんだ和製料理である。チキンライスは、細かく切った鶏肉とご飯を、塩、コショウとケチャップなどで炒めたもの。卵でくるんだあと、写真のように上からケチャップや、トマトソース、茶色いデミグラソースなどをかける。

鉄板に乗せて出されるハンバーグ。ソースはデミグラソース。付け合せは、フレンチフライ、インゲン、スパゲティ。ここではヒレカツも付いている。

鉄板に乗せて出されるハンバーグ。ソースはデミグラソース。付け合せは、フレンチフライ、インゲン、スパゲティ。ここではヒレカツも付いている(*)

ハンバーグは洋食の典型だが、一般的な定食屋やファミレス、家庭料理にも完全に浸透した料理なので、洋食屋の典型メニューというより国民食と言った方がいいかもしれない。挽肉とタマネギなどにパン粉を混ぜかたまりにして焼いた単純な料理だが、特に日本のハンバーグは、豚肉のみあるいは牛豚の合い挽きで作ることが多いこと、パン粉のつなぎが入り柔らかいことなどが特徴である。ソースは茶色いデミグラソースが主流だが、大根おろしにポン酢といった和風のものもある。また、洋食屋ではこのハンバーグや、ステーキなどのような焼きもの料理は、写真のように熱した鉄板皿の上に盛って提供することも多い。付け合せは、ベークドポテト、スパゲッティ、人参のグラッセ、コーンなどが乗る。

カニクリームコロッケ。トマトソースの上に乗っていて上品。ニンジン、ブロッコリーのソテー

カニクリームコロッケ。トマトソースの上に乗っていて上品(*)

コロッケは洋食屋に限らずいろいろなところで提供される大衆食である。ゆでたジャガイモをつぶし炒めた挽肉と混ぜ味をつけ、これを小判型に平たく整えてパン粉をつけて揚げた料理である。洋食屋で供されるコロッケは、一般的なコロッケより手の込んだカニクリームコロッケなどが多い。カニクリームコロッケは、ホワイトソース(小麦粉、バター、牛乳に火を入れて練ったどろっとした白いソース)とカニ肉を混ぜ、これを小ぶりの俵型に整形しパン粉をつけて揚げたもの。トマトソースをかけて出されることが多い。

ハヤシライス。グリーンピースが散らしてあるのも定番

ハヤシライス。グリーンピースが散らしてあるのも定番(*)

ハヤシライスは、牛肉の薄切り、タマネギ、マッシュルームなどを茶色いデミグラソースとトマトソースなどで煮込み、これをご飯にかけたものである。カレーライスと対になっており、こちらは辛くはなくフランス料理系のまろやかな味である。ハッシュドビーフがなまってハヤシになったといわれてもいるが、定かではない。

以下に洋食屋の定番メニューをあげておく。

オムライス ケチャップで炒めた赤いチキンライスを卵焼きでくるんでケチャップやデミグラソースをかけた和製料理
オムレツ 卵に塩コショウで味をつけフライパンで中を半熟に焼いた卵料理。朝食などでよく出される
ハンバーグ 豚肉、あるいは合い挽きの挽肉とタマネギ、パン粉などに塩コショウで味をつけ丸めてフライパンで焼いてデミグラソースなどをかけた料理
コロッケ 洋食屋ではクリームコロッケが定番である。ホワイトソースにカニ肉などを混ぜ、俵型にしてパン粉をつけて揚げたもの
エビフライ 尻尾だけ残し殻を剥いたエビにパン粉をつけて揚げたフライ料理。マヨネーズとゆで卵などを混ぜたタルタルソースが添えられることが多い。エビフライは定番だが、このほか、ホタテ、イカ、カキ、魚などの魚介をフライにして出すことも多い
グラタン ホワイトソースに魚介や肉、マカロニなどを混ぜ、チーズをかけてオーブンで焦げ目が付くまで焼いたもの
ステーキ 牛肉をフライパンで焼いたいわゆるビーフステーキ。醬油などを使って和風で味付けされるときもある。ステーキ専門店というものが別に存在する
スパゲッティ 洋食屋では、喫茶店の項で紹介したケチャップ味のスパゲティナポリタンが定番である。それ以外の和製スパゲティは各種あるが、いまではスパゲティ専門店の方に移った形になっている
カレーライス インド料理を発祥とし、イギリスを経由して日本に伝わったと言われている。日本の国民食として歴史が長い。小麦粉を焦がしカレー粉を加えルーを作りこれを元にどろっとしたシチューを作りご飯にかけたもの。国民食だけあり各店でさまざまな工夫が加えられている。さまざまなカレー専門店がある
ハヤシライス 薄切り牛肉とタマネギ、マッシュルームをドミグラソースで煮込みご飯にかけたもの
シチュー 西洋の煮込み料理。茶色いビーフシチュー(ベースはドミグラソース)や白いクリームシチュー(ベースはホワイトソース)がある
お子様ランチ 子供向きに特別に用意されたメニュー。1枚のプレートの上に、チキンライス、唐揚げ、ハンバーグ、ナポリタンなど子供が好きな料理がいろいろ楽しく並べてある。ジュースやプリン、所によってはおもちゃなども付いてくることがある。

その他

町に何軒かあった昔ながらの洋食屋もずいぶん減ってきており、今では洋食を食べる機会はファミレス(ファミリーレストラン)やデパートのレストランが一番多いかもしれない。特にファミレス産業は隅々にまで浸透していて、スカイラーク、デニーズ、ロイヤルホストなど数多くの店舗がどこに行っても見つかる。先にあげた洋食定番メニューはだいたいの洋食系ファミレスには用意されていて手軽に食べられる。ファミレスについては別項にまとめるのでここでは深入りしない。

スカイラーク系の廉価な洋食ガスト。ファミレスはやはり何となく品に欠ける

スカイラーク系の廉価な洋食店ガスト。ファミレスはやはり何となく品に欠ける(*)

それ以外の洋食店だと、中央の繁華街などにある、すこし気取っていて、値段高めな設定のお店がある。上野の精養軒や、銀座のつばめグリル、新宿の中村屋などがそれで、電車に乗ってお出かけし、高級デパートで買い物するときに寄るお店、という感じであろう。さすがにこれらの店ではなかなか繊細に作られた洋食の典型を食べることができる。

つばめグリル。さすがにファミレスよりずっと品がある

つばめグリル(*)


(*) 画像はGoogleサーチで持ってきた無断転載である。写真撮影次第差し替え予定。