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詞書原文

小舌の男

こしたといひて したのねにちゐさき
したのやうなるもの かさなりておいゝ
づることあり やまひおもくなりぬれ
ば はらにはうゑたりといへども のむと 飲
食をうけず おもくなりぬれば しぬる
ものあり

霍乱の女

霍乱といふ病あり、はらのうち苦痛
さすがごとし、口より水をはき、尻より
痢をもらす、悶絶、倒して、まことにた
えがたし

ふたなり

なかごろ みやこに つゝみをくびに
かけてうらしあるく男あり かたちは、
おとこなれども、女のすがたにゝたること
ともありけり 人これをおぼつかながり
て よるねいりたるに ひそかにきぬを
かきあげてみければ 男女の根とんに
ありけり これ二形のものなり

毛虱の男

陰毛にむしある女あり、これをば
つびしらみと云、おとここれに近づ
きぬれば、かならすうつる、一夜のうちに
あまたになりて、ひけ、まゆ、まつけ
までものぼる、かゆさたへがたし
とりすてむとすれども、はたにくらい
いりて取られず、かみそりにて毛を
のぞきてたすかるとかや

口臭の女

宮こに女あり、みめかたち、かみすが
た、あるべかしかりければ、人、そうしにつ
かひけり、よそに見るおとこ、こゝろを
つくくしけれども、いきのかあまりくさく
て、ちかづきよりぬれば、はなをふさぎ
てにげぬ、たゝうちゐたるにも、かた
わらによる人はくさゝたえがたかりけ

痔瘻の男

あるおとこ、むまれつきにて しりのあ
なあまたありけり、くそまるとき、あな
ごとにいでてわづらはしかりけり

眼病の治療

ちかごろ やまとのくになるおとこ め
のすこし見えぬことのありけるをな
げきゐたるほどに、かどよりおとこひ
とりいりきたり、あれはなにものぞ、といへば
我は目のやまひをつくろふくすしなり
と云 いゑあるじ、しかるべき神仏のたす
けかとおもひて、よびいれつ、このおとこ、め
をひきあけて、よくよく見て、針してよか
るべしとて、針を立てつ、いまはよくなり
なむとていでていぬ、そののちはいよいよ見
えざりけり、つひにかためはつぶれ
はてにけり

歯槽膿漏の男

おとこありけり、もとよりくちのうち
のは、みなゆるぎて、すこしもこわき
ものなどは、かみわるにおよばす、なま
じゐにおちぬくることはなくて
ものくふ時は、さはりて、たえがたかり
けり

風病の男

ちかごろ男ありけり 風病によりて
ひとみつねにゆるぎけり 厳寒に
はだかにてゐたる人の ふるい わ
なゝくやうになむありける



屎を吐く男

あるおとこ しりのあなゝくて 尿くちよ
りいづ くさく たえがたくて すぢなかり
けり

鼻黒の男

大和國平群のこほり幸山といふところ
におとこあり、はなのさきすみを
ぬりたるやうにくろかりけり、子孫子
あひつぎてみなくろかりけり

不眠症の女

山とのくに かつら木のしものこほりに
かたをかといふところに女あり とりたてゝ
いたむところなけれども よるになれ
どもねいらるることなし よもすがらお
きゐて なによりもわびしきことな
りとぞいひける

侏儒

侏儒ときどきいでゝ食をこひて京都
をありく、わらはべしりにつきて
わらひのる、みかへりてはらだちいへどん
いよいよおこつきわらふ

嗜眠癖の男

なま良家子なるおとこありけ
り、すこしもしづまればゐながら
ねぶる、人のいかなることをせむも
しるべくもなし、まじらゐのときま
ことにみぐるしかりけり、これも病
なるべし

あざのある女

ある女かほにあざといふものありて、あさ
ゆふこれをなげきけり、あざはうちまか
せて人の身にあるものなれども、閑所は
くるしみなし、かほなどにつきぬれは
人にまじはりはれなどふるまふことは
かなふべくもなければ、まことにかたはな

せむしの乞食法師

ちかごろ、宮こに くびのほねこはくて
こしをそらしてひとみをゆるがさぬかぎ
りは、すこしもかしらをあぐることかな
はず、あけくれうつぶきてありく乞
食法師あり

白子

しろこといふものあり、おさなくより
かみもまゆもみなしろく、めにくろ
まなこもなし、むかしよりいまにいた
るまで、まゝよにいでくることあり

小法師の幻覚を生ずる男

なかごろ、持病もちたるおとこ(男)ありけ
り、やまひ(病)おこ(起)らむとき(時)は、たゞ四五寸ば
かりある法師の、かみきぬ(紙衣)き(着)たる、あまた(数多)
つれだ(連立)ちて、まくら(枕)にありとみ(見)えけり

肥満の女

ちかごろ(近頃)、七條わたりにかしあげ(借上)する
女あり、いゑ(家)と(富)み、食ゆたか(豊)なるがゆへ(故)
に、身こえ(肥)、しゝ(肉)あまり(餘)て、行歩たや
す(容易)からず、まかたちのおんな(女)、あひ
たす(助)くとい(雖)へどん、(も)あせ(汗)をなが(流)して
あえたく、とてもかくてもくる(苦)しみ
つ(盡)きぬものなり