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風病の男

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碁を指している男に異変が起きている。口が歪んでひしゃげ、目の玉があらぬ方を向いて、石を指す右手は震え、立て膝になっていて体のバランスも失っているようである。

詞書には、風病のせいで、瞳がつねに揺れていて、極寒の外に裸でいる人のように、震えて、わなないてしまう、とある。

本人たいへんなことが起こってパニックなのに、左上の女など、ここまで面白がるか、ってぐらい無邪気にくったくなく笑っている。左下の碁を打っている女も面白そうに笑っている。ひどい女たちである。

それにしても、この男、本当にこのとき初めてこのようになったのなら、女たちも少しは驚いて心配すると思うが、こうやって笑っているところを見ると、ひょっとすると彼にはこのような自律神経系の持病の発作があって、みなに周知なのかもしれない。あら、またやってるわよ、滑稽ねえ、みたいに流しているのかもしれない。

ちなみに「風病」であるが、これはもともと中国医学から来た病名で、端的には風が原因で起こる病ということである。しかし、中国医学をちょっと調べてみると、風病もまことに深淵であり、外因性の風と内因性の風とあり、それぞれを原因として起こる病はものすごい数にのぼる。前者は、いわゆる風邪も入るが、特に後者は体の中の風が原因で、それには脳卒中や神経系の異常も入っている。

もし、この男が、いま、脳卒中の発作の真っ最中だったら笑いごとではないわけで、笑われているところを見ると、やはり、いつもの持病の発作なのではないかと想像する。

それにしても、女たちがあまりに楽しそうで、楽しい絵に見えてしまっていいのだろうか。