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眼病の治療

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見ての通りの外科手術で、患者の眼に医者がナイフを立てている。流れ出る血を女がたらいで受けていて、周りの者がおそるおそる見ている。

ところが実はこの医者はにせ医者で、これはにせ手術をしているところなのである。詞書には

「大和の国に男がいて、さいきん、目が少し見えにくくなってきたことを嘆いているところに、折よく、門から一人の男が入ってきた。あなたは何者じゃ、と問うと、わたくしは目の病を治療する医者です、という。目の悪くなった家の主人は、まさに神仏の助け、と思い、医者を呼び入れた。その医者は、家主の目を開いて、じっくりと見てから、これは針を立てるとよいでしょう、と刃物で眼球を切りつけた。施術が済むと、じきに目は良くなるでしょう、と言って立ち去った。ところが、その後、家主の目はますます見えなくなり、ついに片方の目は失明してしまったという」

だそうです。刃を立てた右目からは盛大に血が噴き出ているし、さらに左目にも刃を立てようとしているとは、太いにせ医者である。きっと両目でいくら、と金をたくさんふんだくるためであろう。

いかにもにせ医者な感じがいい味を出している。この当時、おそらく目を切って見えにくい目が治る、という目の外科手術の噂が広まっていたのであろう。たぶん、本当にあるていど治る術は確立していたかもしれないが、ごく一部の医者の持っている技術だったに違いない。

で、あっさりと、通りがかりの医者にやらせてしまう、超軽率なところが、おもしろい。で、案の定、にせもの。で、失明と。

この絵はオリジナルの原画の方がずっと良く、医者も患者も女も、周りで怖いものみたさで見物する人々も、ずっと秀逸な表現で書かれている。

模写版だと、女は「これで治るのね」みたいに喜んでいるように見えるが、原画の方の女は「うへー、痛そう」みたいな表情に描かれている。周りの人間たちも同じくである。

床にはちり紙が転がっているだけで、消毒も衛生もへったくれもないワイルドな手術。これは見飽きない。