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病草紙について

病草紙は、今からおよそ八百年前の平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて描かれたとされる絵巻物である。当時の奇病や治療風景などをいくつかピックアップして、絵と詞書で説明している。作者は不明であり、また、なんのためにこのようなものを描いたかも不明である。一説には仏教の六道における人道の苦しみを描いたとも言われるが、内容は笑いも多く、ユーモラスで洒脱であり、むしろ絵師の興味で描かれたようにも見える。

元は一巻の絵巻物だったが、その後、一点一点切り離され、そのうち以下の9図が関戸家所蔵となり、これが京都国立博物館に移り、国宝に指定されている。

小舌のある男
霍乱の女
ふたなりの男
毛虱をうつされた男
口臭の女
痔瘻の男
眼病の治療
歯槽膿漏の男
風病の男

国宝の上図以外に以下の6図があり、結局、オリジナルの絵巻物は全15図であったと推測されている。

屎を吐く男 (九州国立博物館)
鼻黒の親子 (所蔵先不明)
不眠の女 (サントリー美術館)
頭の上がらない乞食法師 (九州国立博物館)
眠り癖のある男 (個人蔵)
顔にあざのある女 (九州国立博物館)

さらに、以上に加え、以下のいくつかの断片があって、あちこちに散逸しており、それらをすべて含めると20図以上があるとも言われている。

侏儒 (九州国立博物館) 背骨の曲がった男 (九州国立博物館)
白子 (所蔵先不明)
小法師の幻覚を生ずる男 (香雪美術館)
肥満の女 (福岡市美術館)
鳥眼の女 (所蔵先不明)

オリジナルとされる絵図は、なにぶん古いものであり、全体に黒ずんで色あせて痛んでいる。その後、時代が進むうちに、いくつかの模写が作られ、そちらの状態は悪くない。ただ、やはり模写は模写であり、比べてみるとオリジナルの味わいが出ていないものも多い。とはいえ、色も鮮やかにクリアな画像は捨てがたく、本サイトでは模写のデータがある時は模写の方を使って構成している。もちろん、オリジナルも見られるように配慮しているので、比べてみるとおもしろい。


病草紙異本

また、以上の絵図の他に、病草紙異本と呼ばれる絵巻物が存在する。こちらは、現在は模写が残っているだけで、平安時代に描かれたと思われる原本は失われている。模写の本は、京都国立博物館蔵、東京国立博物館蔵、大鳥本など数種あるらしく、収録図の内容は共通しているが、その順番はそれぞればらばらで、そのせいでオリジナルの順番がどうであったかは、分からない。

このサイトでは国会図書館が画像データを公開している「富士川家蔵本」と記されたものを使った。これは一巻の絵巻物で35図を収録している。なお、この病草紙異本はどの摸本にも、詞書がまったく無く、絵のみである。したがって、何の病気について描いているのか分からない絵も多く、ここではいろいろ調べてわりと気ままに自説を書いておく。

この病草紙異本については、高崎市医師会の服部瑛氏がネットで公開されている病草紙異本に関する以下の研究の内容を参照させていただいている1)。記して謝意を表したい。


1) 異本病草紙考 その1~32(群馬県医師会報):
http://www.hattori-hifuka.com/old/menu/yamainosousi/ihon-main.htm


作品データ

病草紙

紙本着色
一枚一枚切り離されているが、すべて縦がおよそ27cm
平安時代・12世紀

病草紙異本(摸本)

紙本着色 (絵巻)
縦28cm
江戸時代