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痔瘻の男

クリックでオリジナル

男が糞をしていて、それを女がのぞき込む。オリジナル版を見てもらうと、この男、糞をしながら、まことに辛そうに顔をしかめている。

詞書は短いし、日本語も分かると思うので、以下、原文にて

「ある男、生まれつきにて尻の孔あまたありけり、くそまるとき、孔ごとに出でて煩らはしかりけり」

まるで秀逸な短歌のように、素晴らしい詞書である。この

「しりのあなあまたありけり」

に注目。「あなあまたあ」を「しりの」と「りけり」が囲んでいますね? この、あ、な、あ、ま、た、あ、の「あ」が並んでいるところが、尻に開いたたくさんの穴を視覚的に彷彿とさせるのである(穴は6つであろうか)

ま、とにかく、この男にはうんちが出て来る肛門の穴が尻にたくさんあって、糞をするときに、実に、実に、辛い。オリジナルの方を見ると、その辛さが伝わってくる。そこをのぞき込んでいる女はカミさんなのか誰なのか、うんちのはねがかからないように右手で着物の裾と髪を押さえているしぐさも、いい。

男の左手の形もいい。なんのサインか知らないが。やはり高下駄を履いているので、これは町の外れの公衆うんち場のうんちの沼にずぶずぶ入って、そこで糞をしているのであろう。

着物をまくって、おちんちん丸出しだが、その形状もなかなか秀逸である。

ところで、詞書では、この男は生まれつき尻の穴がたくさんある、と書いているが、おそらくそれは誤解で、これはいわゆる「痔瘻」という病気であろう。

痔瘻は、ふつう、痔が重症化したときになる病気である。肛門と直腸の間のところにバイ菌が入って化膿し、その膿が出口を求めて尻に向かい、とうとう貫通してしまうのである。結局、直腸から肛門へつながる管に、ひどいときはいくつもの枝分かれができた状態になり、それがそれぞれ尻に穴を作るわけだ。

穴はじゅくじゅくして膿を放出したりするが、さすがにその細い穴から便が出る、という記述は調べても出てこない。

しかし、この絵をよく見ると、通常肛門の位置から便は落ちておらず、尻の左右の穴から糞がしたたり落ちている。ひょっとすると正規肛門の方のいぼ痔がひどく悪化して塞がってしまった状態で、そのせいで、出口を失った便が痔瘻の穴から排出されているのであろうか。

いずれにせよ、これは、かなりの重症と言わねばなるまい。ここまで痔瘻が重症化すると、細菌による敗血症や、癌化するなどして、死んでしまうことが多い。

この男も、脚など痩せ細っているし、早晩、死ぬるであろう。

ああ、怖い怖い。