まず、女性のブルースマン(ブルースウーマン?)はいなかったのか、ということですが、弾き語りではさすがに少なくMemphis Minnieぐらいしか思いつきません。でも女性ブルースシンガーはたくさんいます。こちらは主にジャズバンドを従えてショーとかでブルースを歌っていました。一番有名なのはベッシー・スミスでしょう。
聞いてみて下さい、これは有名なスタンダードSaint Louis Bluesです。ロングトーンで鷹揚におおらかに歌っていますよね。この歌い方は1930年ごろの当時の独特の歌い方で多くの女性ブルースシンガーがこんな感じで歌っています。今のジャズシンガーの歌い方とは似ても似つかない感じで、逆に今こんな風に歌ったらすごく目立つかも。
もっとも、ここでは、このジャズ楽団によるブルース音楽を特殊なもののように扱っていますが、実際に1900年あたりに生まれたブルースは、南部あたりにいる弾き語りギタリストブルースマンたちの演奏と平行して、いち早くこうしたエンターテインメントなショービジネスに導入されていたはずで、ブルースの源流をこちらのジャズ楽団とブルースシンガーの方に求める考え方もあります。僕はこの講座で、デルタブルースこそブルースの源流である、みたいに語っていますが、実際はそんなに単純なものではなく、おそらく、当時のアメリカでは、極めて混沌としたブルース誕生の劇が起こっていたはずです。
このベッシー・スミスの歌い方をいろいろと、よくよく聞くと、確実にチャーリー・パットンのブルースの響きが聞こえてきます。その音楽の形態はずいぶん違うけど、そこにはやはり同じブルースの魂が流れている、というのは感動的ですね。
さて、次はピアノブルースです。ギターに加え、ピアノの弾き語りブルースマンも多くいました。音源に載せたリロイ・カーはピアノブルースの中で一番有名な人です。さすがにピアノは表現力が豊かな感じですよね。ピアノブルースの人は生ギターをリード楽器として従えている人が多く、ここでもギターが入っていてこれはカーの相棒として有名なScrapper Blackwellが弾いています。
ちなみに、この曲はBlues Before Sunriseという彼のヒット曲ですが、かのロバート・ジョンソンは、このリロイ・カーの曲をほとんど真似て、たとえばKindhearted woman bluesという曲を演奏しています。ジョンソンはカーのピアノをギターに移し変え、歌メロもけっこう同じで歌ってます。ただ、実際に聞いてみると、ロバートは曲を完全に自分のものにしていて、やはりたいしたものです。
さて、ブルースはギターとピアノだけかっていうとそんなことはなく、すごくポピュラーなのはハーモニカでしょう。いわゆるブルースハープです。ただハーモニカは吹きながら歌えないのがちょっと不便な感じです。
あと、これは特にメンフィスあたりで流行ったそうですが、ジャグバンドと呼ばれるバンドもありました。これは、いろんな伝統楽器や手作り楽器を集めて合奏するタイプの音楽です。使われた楽器は、ギター、バンジョー、フィドル、ハーモニカ、カズー(小さなパイプにビービー鳴るフィルムをつけて声を管楽器みたいにする)、ジャグ(大きな瓶の首のところに口をつけて横から吹いて低いブォンという音を出す)、たらいベース(たらいにモップの柄と紐を取り付けて1弦ベースにする)、ウォッシュボード(洗濯板のギザギザをこすってリズム楽器とする)、のこぎり(叩いてビヨンビヨンという音を出す)などいろいろです。
音源はメンフィス・ジャグ・バンドのMove That Thingという曲です。なかなかのどかなサウンドです。ジャグバンドは今でも世界じゅうで人気があるらしく、日本にもジャグバンド、けっこうあるそうです。
それから、最後に北部のシカゴあたりの戦前ブルースも少し。ビッグ・ビル・ブルーンジーがすごく有名なので、彼の音源を載せておきました。この曲はBaby Please Don't Goで、ギターと歌がブルーンジーです。彼はレイドバックした歌い方に、非常に巧みなギターが特徴なブルースマンで、才能に溢れていて、ブルースだけでなく、ラグタイムからフォークミュージックまで何でもできた人です。フォークブルースリバイバルにも乗り、非常に有名になりました。