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これが、1903年にW.C.ハンディーが残した記録です。

「演奏しているうちに彼は、ハワイアンギターの演奏者が鉄の棒を使ってよくやるように、ギターの弦にナイフを押し付けた。そのかもしだす効果は一度聞いたらもう忘れられないようなものだった。歌もたちまち私の心を捉えてしまった。

 サザン線とドッグ線がクロスしているところへ行くんだ

歌い手は、私が今まで聞いたこともなかったような不気味な音の伴奏を自分でつけながら、この行を三回繰り返した」

この黒人がやっていた音楽がブルースだったのです。

ナイフの背をギターの弦に当てて弾く奏法はその後「ナイフギター」と呼ばれ、いわゆるボトルネックギターとかスライドギターとか言われているブルースの奏法と同じです。

歌詞の「I'm goin' where the Southern cross the Dog.」は、その後のブルースの録音にもときどき現れる決まり文句的なせりふです。この行を3回繰り返した、というのもブルースの形式そのものです。

それから、「聞いたこともなかったような不気味な音の伴奏」というのも面白いですね。これまでに紹介したブルース以前の黒人音楽に親しんだ耳をもってしても、ブルースの調べは相当に「異様」な響きに感じられたということです。

新しい音楽の誕生だったのです。