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街外れの共同便所と餓鬼

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ここは街外れの共同便所である。不浄なものしか食べられない餓鬼たちは、糞尿が大好物で、おおぜいの餓鬼が排泄を待ち構えている。

平安時代には、それぞれの家に便所があるということはなく、みな、このように街の外れへ行って、そこで用を足していた。家に便所のようなところがあるのは貴族の屋敷だけで、それもおまるのような器に排泄していた時代である。庶民はみなこのように一緒に排泄していたわけだ。向こうの土塀は崩れかかり、廃屋なのであろうか。とはいえ右上の家は門と縁側が見え、なんだか人が住んでいそうにも見える。臭気と、蛆と、蠅と、虫が充満する、今から思えばだいぶ劣悪な環境であろう。

用を足す人はみな高下駄を履いているが、これは溜まりに溜まった糞尿で着物などを汚さないように、共同で使った下駄である。当時はみな草履または裸足で歩いていたので、さすがに下駄を履かねば糞尿の中へ入ってゆくのは辛かったのであろう。それにしても、左には爺さん、そのとなりに若い女、その右には子供とその母親、右はじには婆さん、と見事に老若男女、オープンスペースで、平気で一緒に排泄している様子は、まことにおおらかである。

あたりには糞尿と共に、尻を拭く紙が散らばっているが、当時、紙はわりと貴重で、紙を使ったのは金持ちだけだったようである。ふつうの庶民は木ベラを使ってケツをぬぐっていた。この木ベラはちゅうと呼ばれ、使い捨てだったようだ。紙とともにこの籌木があたりに散乱しているし、子供が右手にこれを持っているのが見える。

それにしても餓鬼たちは常に飢え渇き、苦しんでいるのだが、この共同便所ではきっと糞尿をお腹いっぱい食べれるのであろう。全体にみな、生き生きして、楽し気に見えるのが面白い。