うちで和食だとかなりの確率で、ご飯、キノコ、大根おろし、山芋、のコンビネーションが出てくるが、まったく片田舎の木食上人じゃあるまいしな。と、書きながら、なんでオレは「木食上人」なんていう言葉を知っているんだろう?
これは、たしか、青山二郎と小林秀雄の酔っ払い対談に出てきた単語だ、それを読んで覚えたんだ。小林の「ミケランジェロは89歳で死ぬとき、ようやく何でも表現できるようになったとき死ぬのか、と言ったのだ」という言葉を受けて、青山が「そんなことは木食上人でも言えるさ」と一蹴する場面だ。
ところで、バチカンにあるミケランジェロの「死せるキリストとマリア」の彫刻は、彼が24歳のときの作品なはず。驚異的というのはこういうものに使う言葉だ。ほんのかすかな傷も見当たらない、真実に完璧な作品で、唖然とする。そのミケランジェロが89歳になって「ようやく何でもうまく表現できるようになったのに」と、言うんだからなあ、表現とは果てしのないものだ。
しかし、オレはルネサンスの最盛期はちょっと苦手で、どうしても前期ルネサンスへ行ってしまうな。ピエロ・デラ・フランチェスカが、結局、一番、好きだ。やっぱりオレは何についても「エキゾチズム」に走る傾向があって、この性癖は直らない。ここで言うエキゾチズムとは「あり得べからざる組み合わせが生み出す不思議な効果」という意味だ。「傷の無い完璧な調和」というものをそれ「単体」で想像して享受することがうまくできない。
なんだか面倒な話になっちまったな。キノコと大根おろしの話だったのに。
しかし、ロンドンのナショナルギャラリーは、とにかく、スゴイ。先に書いたピエロのすばらしい絵があるなどコレクションがスゴイのは大英帝国の名残だが、何がスゴイって、作品の保存状態などのメンテナンスや、展示の仕方に細心の注意を払っているところなど、芸術作品に対する愛情のかけ方が尋常じゃない。
たとえばイタリアの並みいる素晴らしい古典絵画など、イタリア本国では展示がいい加減、フランスへ行ってもいい加減、アメリカはけっこうきちんとしてる、しかしイギリスにはかなわない。やっぱり、イギリスって、本国産の古典絵画にいいものがあまりないからな、尊敬と憧れがあるのかな。
そうそう、それから大英博物館もすばらしい。あと、大英博物館の入り口からちょっと裏に入ったところのワガママっていうラーメン屋も旨かったっけ。