1Wミニアンプその2

小出力アンプの続きなのだけど、ずいぶん間が空いてしまった。

これには理由があって、なんと自分はあれからスウェーデンに移り住んでしまい、いまはゴットランドという島で仕事して生活しているのである。こっちへ来たのが9月下旬なのでほぼ二ヶ月になる。さすがに移住ともなると大変で、真空管をいじっている余裕がなかったのである。

ゴットランド島のウィスビーというところに住んでいるのだけど、ここは街の中心が世界遺産指定という超観光地で、何百年も前の遺跡や廃墟が点在するえらく中世チックな街でヤバイぐらいきれいなところである。加えてバルト海が一望できる自然のすばらしいところである。興味のある人はここのFacebookページにどうぞ。

それはいいのだが、さて、ロックだエレキだライブだとかいう話になるとさっぱりなところで、一応、地元音楽シーンもあるにはあるんだが、東京の規模と比較にならないぐらいローカルで小さい。そんなこんなで未だに活動できていないのである。

こんな風にヒマなところなのは分かっていたので、真空管ギターアンプについては、一応継続できるように最低限のグッズは持ってきた。ただ、そうそう重くてでかいものは持って来れず、少しだけである。とはいえ、現地に慣れるのに時間もかかり、なかなか始められなかったりしたが、ようやく少しだけスタートした。

あと、こっちはACが220Vだというのも厄介で、100Vに変換するトランスは間違って船便に入れてしまったせいでいつまでたっても届かない。で、先日ようやく届き、ようやく日本から持っていったこの小出力アンプの電源を入れて、こっちで鳴らすことができた。

自宅用のミニアンプについて

日本を出る前に、ミニアンプについていくらか調べてみた。ここしばらく一種のブームみたいにもなっているらしく、各社からミニアンプがけっこう出ている。Blackstar、Hughes & Kettner、VOX、Marshall、Orangeなどなどたくさんある。しかもけっこう安かったりもする。もっとも各社チューブアンプといえどもコストと性能の戦いもあり、たぶんほとんどが半導体を使ったハイブリッドだと思う。

特にBlackstarの1WアンプのHT-1Rはけっこう評判がよく、練習用として必要な機能はほぼついている。リバーブ、GAIN/MASTER、トーン、ヘッドフォン、Overdrive切り替え、ライン入力などである。これだけついていれば本当に便利に使える。しかしスペックを見ると真空管は2本。これだけの回路を2本で作るのは無理で、おそらく半分は半導体だろう。

まあ、別にすべて真空管にすればいいというわけじゃないんだが、やはり大人(ジジイ?)は少し値が張ってもフルチューブで気持ちよく弾きたいものだな、と思ったりもする。あと、製品のコメント欄とか口コミをざっと見てみると、「チューブアンプとうたいながら音はけっこうデジタルっぽい」というのが目に付く。実際はどうなんだろう。

弾いてみた

ということで、一度、弾いてみようと思い、仕事帰りに楽器屋に寄ってみた。いろいろ置いてあったけどまずは、Hughes & KettnerのTubeMeister 5ってやつにしてみた。ミニアンプといっても5W。12AX7と12BH7ということなのでたぶんパワー段は12BH7のプッシュプルで、僕が今作ってるのと同じじゃないかと思ったのである。GAIN/MASTER、Overdriveスイッチ、あとミニアンプなのにTREBLE/MIDDLE/BASSと3トーンなのも特徴である。

それでまあストラトをつないで弾いたんだけど、これがまた拍子抜けするほどビンテージチューブアンプの音から遠い音だった。自分は、こんな風にチューブアンプにこだわっているわりには、実はそれほど音にうるさくないのだけど、それでもこれは自分でも分かる。チューブアンプを使い慣れた人間からするとかなり使いにくいと思う。Overdriveなんか入れた日には今風のヘビメタみたいな音しかしない。

そこで、試しにウーマントーンというものをやってみた。ウーマントーンってそれこそもうジジイしか知らないかもしれないが、1960年代にかのエリック・クラプトンが発明した(らしい)音作りで、ギターまたはアンプのトーンをゼロにして超モコモコ状態にしてからアンプのゲインを上げてたくさん歪ませる、という音である。たとえばCREAMのSunshine of your loveのギターの音がそれである。

このウーマントーンはビンテージのチューブアンプでやると独特な味のある音になる。それでこいつをHughes & Kettnerでやってみたんだが、もうこれは、ぜんぜんダメ。まともな音にまるでならない。ヘビメタ系のギスギスした歪み音のトーンを単に絞っただけみたいな、はっきりしない煮え切らない音にしかならない。音が奥に引っ込んでしまいスピーカーのかなた向こうの方から聞こえる音みたいになってしまう。ぜんぜん気持ちよくない。

やはり風評の通りだったんだろうか。これら各社ミニアンプは、けっこう今風でデジタル臭い音しかしないんだろうか。まあ、これは売るためには当たり前で、今風のギタリストたちに売れないことには商売にならないので、今風の音作りをするのは当然なのだ。

ということで、店のあんちゃんに、「これ、ずいぶん今風な音ですね。もっとビンテージのチューブっぽい音のするミニアンプって無いですか?」と聞いてみた。そうしたらあんちゃん、「いや、そういうのあんまり無いんですよ」とあっさり答えたのである。「ビンテージサウンドがいいなら、やっぱりVOXの昔のAC4みたいなビンテージチューブアンプの定番にするか、でも、もしよければこれなんかけっこう音がビンテージですよ」って紹介してくれたのが何だったか忘れたけど半導体アンプだった。「半導体だけどけっこうビンテージしてるんですよ」と言っていた。

結局、まあいいかと調査半ばで店を出てしまった。ビンテージっぽい音のするミニアンプって、意外と無いのかもしれない。

2Wアンプを設計試作

ということで、ビンテージっぽい音のするフルチューブのミニアンプというのは実はわりと作る意味はあるかなと思う。

せっかく作るなら、GAIN/MASTERで歪みも出せて、トーンがついてて、あと古いロックンロールやブルースに必須のリバーブをつける、と。逆にヘビメタっぽい音はいらないのでOverdriveボタンとかは無し、というのがいいかなと思う。

それでとりあえず作ってみたミニアンプがこれである。回路図は試作段階でめちゃくちゃだが、こんな感じ。

12AT7で初段を受けているけど、これは12AX7でもいいかも。リバーブもフルチューブにしているのが何となくこだわりというかはったりというか。FenderのBluesJrなんかでもリバーブ回路は半導体で済ましているし、実はそれで十分なんだけど、ここはあえてチューブでリバーブ。リバーブの原音ミックスはFender式ではなく、カソードフォロアをはさんでミックスしているので、リバーブ切っても原音忠実っぽくなるようにしてある。

出力は12BH7のプッシュプルだけど、何とかいう位相反転のいらない回路。A級のみの動作だそうだが、まあ十分だろう。出力は2Wていど。あと、トーン回路も少し特殊で、ワンノブでBASSとTREBLEを同時コントロールできるタイプの回路を使っている。回路を見ての通り、LPFとHPFの出力を対等にミックスすることで動作する。B型ボリュームを使えば、中央のときにf特がフラット、左に回すとベースがきき、右に回すとトレブルがきくようになっている。

バラックのシャーシーに試作したのがこれ。音を出してみると、まあまあなかなかの音がしている。先日、楽器屋で今風のミニアンプを弾いた後なので余計だが、すこぶるビンテージな音がする。

特に、例のウーマントーンだけど、やってみたらこれがまた気持ちいいったらなんの。今風アンプではありえない生々しい輪郭のはっきりしたいい音がする。こういう音はやはりビンテージフルチューブの回路ならではだと思う。

それからリバーブだが、これまたきれいにかかっている。ただ、初段を12AT7にするとゲイン不足でリバーブのかかりがさすがに足りない。ビーチボーイズみたいなベンチャーズみたいな音を出したいときには厳しい。最初、大きな3本スプリングのリバーブタンクをつないでいたときはまあまあだったが、ミニアンプに合わせてBluesJrに積んである小さなタンクにつけかえたら、リバーブのかかりはさらに悪くなり、さすがに使えないレベルになった。初段を12AX7にして全体調整しなおすか、チューブ1本追加か、という感じである。

ということで、まだまだ試行錯誤段階なのだけど、大筋の方向性はいい感じである。音を次に載せておく。ただ、ここはスウェーデンで、機材が足らず、スピーカにまともなのがない。写真に写っている小さなオーディオ用途のがあるだけで、ギターアンプ用でないのでかなり硬いヘンな音がするし、ビビリがあったり散々だが、感じだけは分かると思う。

ほんの少しクランチ
クリーンでリバーブかけてトーンを上げ
例のウーマントーン

まあまあの音だと思う。このミニアンプは、Fujiyama ElectricのBlues Classicに続くラインナップとして販売まで出来たらいいな、と思っている。あと、この試作アンプに中古のスピーカボックスかなんかをセットにして持ち運べるようにして、ここスウェーデンのウィスビーの田舎で、渋く演奏活動できたら最高である。