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7 そのほかの回路

ここでは、これまで紹介した増幅回路以外のあれこれの回路について解説する。実は、回路というものはほとんど無限のバリエーションがあり、はっきり言って、今まで解説した増幅回路よりそれ以外の回路の方が多い。きりがないし全部解説する技量もないので、ここでは、主にギターアンプ系でよく出てくる回路を中心に取り上げることにしよう。


位相反転回路

プッシュプル回路の原理のところで説明したように、プッシュプル回路の2つの入力には位相が反転した2つの信号を加えなくてはならない。ここでは、この位相が反転した2つの信号を作り出す位相反転回路について解説しよう。この位相反転回路にも色々な種類があるのだが、主だったものを4つほど選んで以下に解説する。

■PK分割位相反転回路

PK分割位相反転回路


このPK分割位相反転回路は、右の図のような回路で、原理的には分かり易く、素直な感じの回路である。ここで「PK」というのはPはプレート、Kはカソードのことで、回路を見ると分かるように、プレートとカソードからそれぞれ位相反転した信号を取り出すのでこう呼ばれる。

R1がグリッドリーク抵抗で、R3がカソード抵抗で、このR3に流れる電流でバイアス電圧を作っている。R2とR4が負荷抵抗で、ここには同じ値の抵抗を使うのがミソである。R2に流れる電流はそのまま真空管のプレートからカソードへ抜けて、R3を通ってR4に流れるので、R2とR4にはまったく同じ電流が流れる。まったく同じ抵抗にまったく同じ電流が流れるのだから、それぞれの電圧値もまったく同じになり、2つの信号の出力電圧は同じになる。ではなぜ位相が反転するか。

いま交流における回路を考えて見よう。電源のインピーダンスはゼロで短絡とみなせるので交流での回路は下の図のようになり、R2とR4の両端に現れる電圧のプラスマイナスがちょうど反転していることが分かる。すなわち、A点とB点では位相がちょうど反転した信号が出てくるわけだ。


交流領域における回路

補足だが、これは今までも何回か出てきていると思うが、理想的な直流電源は交流(すなわち信号)に対する抵抗はゼロで短絡とみなせることは覚えておこう。ちなみに、その対となる理想的な直流電流源は交流に対する抵抗は無限大で開放とみなせる。言い方を変えると、電圧源は信号をスカスカに通すが、電流源は信号を通さない、とも言える。後者の電流源はここでは特に扱わないが、さいきんのモダンな真空管回路などではよく出てくる。詳しくはたとえばぺるけさんのページなどをご参照のほど。

PK分割回路は電圧増幅率はおよそ1で増幅はされない。したがって、次のプッシュプル回路に十分な信号電圧を与えてやるためには、初段で大きく増幅することが必要である。また、PK分割回路では、電源電圧をR2とR4の2つの抵抗で使う形になるので、出力できる信号電圧の上限が通常の増幅回路の半分になるという点が注意である。次のプッシュプルの出力管に大きな信号電圧を入力してやらなければいけない設計の場合、電源電圧をそれに見合うだけ高くしなければまかなえない。

ところで、今ギターアンプの回路をざっと眺めてみたら、このPK反転回路を使っている機種は少数派のようである。たとえばフェンダーでは、ツイードのころの初期のころでPK反転を使っているものもあるが、すぐに次で紹介するマラード型位相反転回路に取って代わられ、あとはほとんどこのマラード型が使われているようである。マーシャルも同じくマラード型だ。なんらか理由があるのだろうが、はっきりしたところは分からない。

■マラード型位相反転回路

このマラード型位相反転回路は、たとえばフェンダーのギターアンプの回路図では下の左の図のような感じで出てくるものである。回路図を色々見ている人には見覚えのある形であろう。この回路の動作原理を説明するのはちょっと厄介なのだが、下の右のように回路を書き換えて、これで説明しよう。よくよく見るとフェンダーの回路と同じである。実は、この回路はいわゆる差動増幅回路と呼ばれるものの一種なのである。

 
Fender回路からの抜粋(Bassman 5F6)

マラード型位相反転回路


見ての通り左右対称の形をしている。2つの真空管のカソードが共通になっていて、これがR4とR6でグラウンドに落ちている。R1とR2はそれぞれの真空管の負荷抵抗である。R3とR5はグリッドリーク抵抗で、R4と一緒にバイアス電圧をかけるためのものである。そして入力信号は左の真空管だけに加える。右の真空管はというと、グリッドはC4でグラウンドに落ちており、すなわち入力はゼロに固定されている。

まず、R3とR5とR4は直流域でバイアス電圧をかけるための回路で、R3、R5は1MΩで十分大きいし、R4は470ΩでR6の22kΩより十分小さいのでとりあえず無視して考えてかまわない(R4はR6に含めて22.47kΩと考えてもらってもいい)。すると交流領域では下の図のようになる。始めに、左側の真空管だけを見てみると、これは今まで出てきた普通の電圧増幅回路である。ただし、R6にバイパスコンデンサが入っていない、しかも、ここには22kΩというけっこう大きな値を使っている。とにかく、左側真空管では入力信号が普通に増幅がされ、信号電流がプレートに流れ、出力1に図のように増幅された信号が出てくる。そして、同時に、この信号電流はプレートからカソードに流れてR6の両端に電圧を発生するので、共通カソードの部分にも図のような信号が出てくる。


マラード型位相反転の交流領域における回路と動作原理


それでは、今度は右側の真空管に目を移してみよう。グリッドは接地されていてゼロである。しかしカソードは先に説明したように信号電圧でゆれている。と、いうことは、右側真空管のカソードを基準としたグリッドの電圧というものを考えると、図のようにちょうど位相が反転した信号が加わっている、ということになる。そして、右側真空管も普通の電圧増幅回路の形をしているので、この反転した(カソードに対する)グリッド電圧が増幅され、出力2に増幅された信号が出てくる。と、いうわけで、出力2には出力1と位相がちょうど反転した信号が出てくるのである。

以上が、反転した信号が出てくる原理だが、ややこしい。

先に言ったようにこの回路は差動増幅回路と呼ばれる回路そのものなので、差動増幅的な説明の仕方もあるのだが、ここではこのような説明をしてみた。さて、出力1,2に反転した信号が出てくることはこれで分かるが、位相反転回路にはもう一つ条件がある。それは両者は同じ信号電圧でなければいけない、ということである。

実はこの回路では、出力2の信号電圧は、常に出力1の信号電圧より小さい。ではどのくらい小さいかというと、図のR6の値がキモである。このR6の値が大きければ大きいほど出力1,2の信号電圧はバランスして近づいて行く。R6があまり大きくないと出力2は減って行き、R6がゼロになると出力2はゼロになる。 上述の原理をよくよく見ると分かるが、R6の両端の信号を右側真空管で増幅して出力2が出てくるわけだから当然といえば、当然である。

では、R6をどれぐらい大きくすればいいかというと、難しいなあ、と言うと思うが後学のために結果だけ書いておくと、出力1,2の比はだいたい次のようになる

  出力2             Rk・μ
  -----   =   ----------------    …(1式)
  出力1        RL + rp + Rk・μ
Rk:カソード抵抗(上の回路におけるR6)
RL: 負荷抵抗(上の回路におけるR1またはR2)
μ:真空管の増幅率
rp:真空管の内部抵抗

μとrpというのは真空管の定数でこちらの設計編で解説しているが、これらは規格表に載っている値である。たとえば12AT7のμは規格表を見ると60、rpは11kΩで、R1に100kΩ、R6に22kΩを使うと次のように計算できる。

         22・60
  ------------------  =  0.92    …(2式)
   100 + 11 + 22・60

このとおり、およそ1割減である。これぐらいでオマケしてしまう、という考え方もあるが、ふつうはどうするかと言うと、右側の真空管の負荷抵抗R2を1割ほど増してバランスを取る。あるいは、左側真空管の負荷抵抗R1を減らしてもよい。0.92という結果なんだから左側を92kΩにすればぴったりだろう、と思うかもしれないが、上述の式はR1=R2の条件で計算したものなので正確には合わないと思う。ちなみに、この回路、フェンダーではR6は10kΩと少し小さく、R1が82kΩ、R2を100kΩでバランスを取っている。計算式であたりをつけて、あとは実際に組んでカットアンドトライする姿勢が正しい。

それから、カソード抵抗Rkをどんどん大きくすることでバランスするようになるが、この抵抗を大きくするとカソードの電位がどんどん上がって行き、信号が取り出せる範囲が狭くなってしまう。なので、無闇に大きくはできず、そのあたりの加減をしながら決めることになる。

■PG反転を利用した位相反転

これは、下の図のようなもので、実は一番バカっぽいやり方で、フェンダーなどでもごく初期の頃に使われたこともある回路である。左側にフェンダーで使われている回路図を載せている。一見すると何だか分からないが、右のように書き直すとすぐに分かる。

 
Fender回路からの抜粋(Bassman 5B6)

PG反転を利用した位相反転回路


これは、真空管の増幅回路一段で位相が反転することを利用したもので、上側の信号はそのままで、下側の信号はR1とR2で分圧してあらかじめ小さくしておき、これを下側の真空管で増幅して上側の信号と同じレベルにする。もちろん、これで下側の位相は反転している。このR1とR2の分圧比を下側真空管のゲインと同じにしておけば、レベルは同じになる、ということになる。上記の回路では真空管は6SL7GTを使っていてゲインがだいたい40前後、R1とR2による減衰は0.026 ( = 6.8 / 250+6.8 )で、掛け合わせるとほぼ1になる。

ちなみに上のフェンダーBassmanの回路で、上側の真空管は位相反転とはなんの関係もなく、前段の電圧増幅回路なだけである。上下に並んでいるので一見、関係あるように見えるだけである。

このやり方は、下側真空管の電圧増幅率が変ると2つの出力のバランスが崩れてしまうので、あまりよい方法とは言えない。それに、減衰して増幅するっていうのも無駄な感じだが、なんとなくかわいげのある回路ではある。ごく初期のころに使われたが、その後は他の方式に取って代わられたようである。

■トランスを利用した位相反転

トランスによる位相反転回路


トランスを利用した位相反転は、極めて分かり易くすっきりしていてシンプルである。右の図のように、トランスの中点を使って反転した信号を取り出す。余計な理屈がなく、なんとなく男らしい。

トランス式はシンプルだが、実は色々な問題がある。まず、周波数特性などなど満足の行く特性を持ったトランスというのは、どうしても大きくて、重くて、高価だということ。さらに、図のような回路だと、一次側にプレートが直接つながれていて、ここに前段のプレート電流が常に流れている。これはここにも書いたが、トランスに直流電流が流れると、コアの直流磁化というものが起こり、低い周波数の信号が通りにくくなるのである。そのため、直流磁化に強いように設計されたトランスでないと満足な特性が得られないことが多い。すなわち、さらに大きくて高価になる、とこういうわけである。

そんなわけか、ギターアンプでトランス位相反転しているのを見ることはほとんど皆無である(昔のギブソンのアンプであったらしいが)。一方、オーディオアンプの世界ではこのトランス位相反転は一種あこがれの対象になってしまったりすることがあるから面白い。このように増幅回路の間に挿入されるトランスはインターステージトランス(段間トランス)あるいはドライバトランスなどと呼ばれ、オーディオ専門トランス屋では色々売っているが、いずれも高価で、まあサイズは10センチ角以上、値段は1万5千円以上は覚悟しなければいけない。


ヘッドフォン出力とラインアウト

日本住宅事情に住んでいる自宅ミュージシャンは、だいたいがアンプの音をガンガン出して練習するということはかなわない。そんなときはだいたいヘッドフォンをしてギターを弾く、ということになることも多い。あと、ライン出力をDTMにつなぎこんでひたすら多重録音という人もけっこういる。ということで、ここではギターアンプにつけるヘッドフォン端子とラインアウトについて簡単な回路を紹介しておこうと思う。

まず当のヘッドフォンだが、これがまたすごくたくさん種類があって見事にバラバラである。それにしても、当然だが必要なパワーはスピーカーよりずっと小さくて、10mW(0.01W)あたりから1W近くまでいろいろである。あとインピーダンスはスピーカーより概して高く、だいたい16Ω以上で数百Ωなどかなりばらつきがある。というわけで、ヘッドフォン出力をすべてのヘッドフォンで快適になるようにするのは、それなりに無理ってことになるのだが、あまり難しく考えず、ここではもっとも単純な回路だけ紹介することにする。これがオーディオ用のハイエンドねらいの場合はそうもいかず、なかなかうるさいのだが、ギターアンプの場合、単純なもので作って十分に役に立つ。

もっともシンプルなヘッドフォン回路

右の図がヘッドフォン回路である。原理は単純で、アンプから見るとスピーカーと同じ8Ωになるように作ってある。ヘッドフォンの側のR2は500ΩというR1の8Ωに比べてずっと大きい抵抗なので、並列にした抵抗値はほとんど8Ωになるというわけだ。アンプから見て8Ωであれば、アンプの動作が8Ωのスピーカーをつないでいるときとあんまり変わらないで済む(厳密には異なるが)。あとは、この8Ωのところに出ている信号をR2の500Ωで小さくしてヘッドフォンの左右の端子へ送るという原理である。

このときアンプの出すパワーのほとんどはこの8Ωで消費される。なので、このR1はアンプの出力に耐えられる大きさのものを使う。アンプが10Wだったら、その倍の20Wのものを使っておけば、まあ、フルテンで使い続けても大丈夫ということになる。ただし、フルテンで使ったりすると、この8Ωの抵抗は相当熱くなるので、実装するときは回りにスペースをとっておくようにした方がいい。

あとR2の500Ωだが、これは自分が使うヘッドフォンで実際に仮組みして一番使いやすい値に調整してから回路に組み込んだ方がいいと思う。音が大きすぎればR2を大きくし、小さすぎれば小さくして行くことで調整する。あるいはR2をVRで調整できるようにしておいてもいいかもしれない。

ラインアウト回路

さて、お次はラインアウトだが、これもヘッドフォンのときとほとんど同じ右のような回路でできる。ラインアウトの場合、出力レベルが調整できないとちょっと困るのでVRを使っている。R2は出力を落とすための抵抗でここでは10kΩが入っているが、これも使いやすいように調整して決めればいいと思う。

以上、ヘッドフォンもラインアウトも、回路計算をして値を決めることはあるていどできるのだが、ここではそこまで深入りしないでおく。

それから、上の方で、アンプから見て8Ωの抵抗をつないだときのアンプの動作は厳密には違うと書いた。つまり、これは、このヘッドフォンやラインアウトの出力から出てくる音は、スピーカーをつないで鳴らしたときの音に近い音にはなるが、イコールにはならないということである。

というのは、8Ωのスピーカーは実際は「公称インピーダンス8Ωのコイル」であって、8Ωの抵抗とは違って、周波数が高くなるとインピーダンスが8Ωより大きくなるのである。これについてはダンピングファクターのところで詳しく説明しているのでそちらを見ていただきたい。

真空管アンプの場合、つなくスピーカーのインピーダンスが大きくなると出音が大きくなる。したがって、スピーカーの場合、抵抗に比べて高音が強調される傾向になる。あと、スピーカーの場合低い周波数のところに共振点というものがあり、そこにはインピーダンスにピークがあり、音がでかくなる。さらにこの共振はスピーカーが取り付けられているキャビネットの共振(いわゆる箱鳴り、ってやつ)にも影響され、かなり複雑な動作をする。これらがトータルとなってギターアンプの音は作られているのである。

というわけで、こういうスピーカー・キャビネット事情がまったく無い単なる抵抗器を負荷にしただけでは、元のアンプの個性のかなりの部分は無くなってしまうと考えた方がいいかもしれない。やっぱりエレキギター弾きは、スピーカーからでかい音出してロックしてなんぼの世界なのであろう。

あ、それから余計なことだがヘッドフォンロッカーは耳を傷めないように気をつけよう。日ごろ家でうるさがられている人は特に「クソ!」とか言ってヘッドフォンのボリュームをガンガン上げることが多いと思うが、特にギターの高音のヘッドフォン攻撃はかなり耳に悪いはず。難聴になってからでは、遅いです。


カソードフォロア


カソードフォロア(固定バイアス)

カソードフォロアは、真空管ギターアンプの回路図をネットでよく見ている人なら見かけたことがあるかもしれない。右の図のような形をしていて、特徴は、プレートに負荷抵抗が無く直接B電源につながっていて、カソードのところから信号を取り出す回路である。

これがどんな働きをするかというと、次の通りである。

(1) 増幅度がほとんど1である。つまり入った信号をそのまま出力する
(2) かなり大きい信号が来てもほとんど歪まず1:1で出力してくれる
(3) 出力インピーダンスがかなり低い
(4) 入力インピーダンスがかなり高い

と、こんな感じなのだが、要は、増幅はせず入力がそのまま出力に出てくる回路である。こういう機能をバッファなどと呼ぶこともある。この回路の恩恵は主に上述(3)と(4)にある。高いインピーダンスで受けて、低いインピーダンスで送り出すのでインピーダンス変換などと呼ばれることもある。

ここで(4)の入力インピーダンスが高いのは、真空管回路自体がすでにかなり入力インピーダンスが高いのであまり恩恵はないのだが、(3)の出力インピーダンスが低いのはありがたい場合があり、時々使われる。

さて、なぜ、このようになるのかの原理は、等価回路を書いて計算すればわりと簡単に説明できるのだが、それでもやはり専門的になってしまうので、ここでは止めておき。結果だけ書いておく。まず、(1)の増幅度だが、次の式のようになる。

           μ
  A  =  --------    …(3式)
         μ + 1
ここでμは真空管の三定数のひとつで真空管の増幅率である。これは規格表に出ている数値で、ローμの球(たとえば12AU7)で15ぐらい、ハイμの球(たとえば12AX7)で100ぐらいの値になる。なので、上の式を計算するとカソードフォロアの増幅度(ゲイン)は1.0を少し切るぐらいになる。式で分かるようにμが高い球ほど1.0に近づく。たとえば12AX7はμ=100なので計算すると増幅度は0.99になる。

次に出力インピーダンスZoだが、次の式で計算できる
          rp        1
  Zo  =  ----  =  ----    …(4式)
          μ       gm
ここで、rpは内部抵抗、μは増幅率、gmは相互コンダクタンスである。いずれも真空管の固有の値なので、回路がどうであれ真空管を選ぶと出力インピーダンスは勝手に決まってしまうことになる(実際には動作点で三定数の値が変わるのでそうは行かないが)。たとえば12AX7であれば規格表からrp=80kΩ、μ=100なので、カソードフォロアの出力インピーダンスはおよそ800Ωになる。ちなみに、これまで出てきた通常の電圧増幅回路を12AX7で組むと出力インピーダンスはおよそ50kΩていどになるので、かなり大幅に下がっているのが分かるだろう。

ところで、これまでの増幅回路をよく勉強している人は、たとえば12AX7みたいな高μな球を、このカソードフォロアに使ってバッファの役目をさせたとき、その最大入力電圧がかなり低いことを心配するかもしれない。たしかにココに書いたA級増幅の歪みの様子で解説したような電圧増幅回路では入力信号のp-p値が、バイアス電圧のおよそ2倍を超えると出力が歪み始める。12AX7だと、たったの3Vppぐらいを超えると歪んでしまうことになる。それなのに前述の(2)の「かなり大きい信号が来てもOK」っておかしくないか? と思わないだろうか。

真空管のグリッドに入力される信号

実は、これは大丈夫である。というのは、上図の(a)のグリッドにたとえば50Vppみたいなでかい信号が入っても、(b)のカソードのところもほとんど同じ(実際はわずかに小さい)50Vppの同じ形の信号が出るので、結局、カソードから測ったグリッドの信号はたかだか1Vppとか、すごく小さくなっているのである。なので、大丈夫、歪みはしない。

■実際の回路

さて、実際の回路では、下記のような感じで構成する。


(A) 固定バイアス

(B) 自己バイアス

(C) 直結



(A)はFenderのスタンドアロンリバーブユニット6G15で使われている回路で、これは固定バイアスである。250VのB電圧を二つの2.2MΩの抵抗で分圧して125Vのグリッドバイアス電圧を作っている。ちなみに7025は12AX7に似たハイμの双極管である。

(B)は自己バイアスの例である。カソードにつながった1.5kの抵抗の両端の電圧でバイアスを作ってこれを1MΩの抵抗を介してグリッドにかけている。

(C)はギターアンプでよく見かける直結タイプである。前段のプレート電圧が高いので、高いグリッド電圧が必要なカソードフォロアーにうってつけで、そのままつなげばけっこういい位置にバイアスが落ち着くのである。

それから、最後に使い方の注意点だが、カソードフォロアの出力インピーダンスがたとえば1kΩと低いからと言って、この回路の後を、同じように低いたとえば1kΩのインピーダンスで受けてはいけない。それをやると信号があっという間に歪んでしまう。理由は、回路を見ると分かるのだがカソードに入っている抵抗は100kΩとかけっこう大きい値になっている。実はこれはカソードに入っているが、ここに信号が出てくるわけだから負荷抵抗なのである。それで、ここにたとえば結合コンデンサを介して1kΩの抵抗などで受けてしまうと交流域ではこれが並列抵抗になって交流負荷抵抗が100kΩから大幅に落ちてしまいほぼ1kΩになってしまう。これではロードライン上で満足な動作点にはならず、少しの信号ですぐに歪むようになってしまうのである。この辺は、電圧増幅の解説のところで説明している2本のロードラインと同じことなのでそちらも参照していただきたい。

■何の役に立つか

さて、以上がカソードフォロアーの回路の説明だが、ではギターアンプ的にこれが何の役に立つかである。

たとえば、FenderのBassmanではトーンコントロール回路の前に直結のカソードフォロアーが入っている。トーンコントロールの前にカソードフォロアーを入れたアンプは、Soldanoとか、特にハイゲインアンプでよく見かける。じゃあ、これで何がいいかというと、実はちょっとよく分からない。トーン回路を挿入することによる信号の減衰(挿入損失)をいくらか抑えることができるのは確かなのでそのせいかもしれない。あるいは、トーン回路の周波数カーブが素直になるのかもしれない(ただ、実際に計算してもほとんど変わらないのだが)。しかし世の中には、このカソードフォロアこそがあのハイゲインアンプのトーンキャラクタを作っているのだ、と言う人もいるわけで、皆さんも色々調べたり実験したりして研究してみていただきたい。

あと、確実に役に立っている使い方もある。現代型のアンプで「センド/リターン」の端子が付いているアンプの場合、センド端子への信号送り出しのところに、このカソードフォロアを使うことが多い。つまり、低いインピーダンスで信号を送り出してやるわけだ。これは、センド端子にシールドケーブルを挿し、それを長々と引き回し、エフェクターの入力につなぐなどということをしたとき、シールドケーブルの持つ容量のせいで高域の周波数成分が落ちる(ココを参照)。この高域減衰は、送り出しのインピーダンスが低ければ低いほど少ないので、高域落ちを防ぐことができる。これなどはまことにリーズナブルな使い方である。

あと、カソードフォロアって直結回路であればカソードの抵抗たった一個追加するだけで構成できちゃうので、回路を設計していて、「うーん、双三極のかたっぽがひとつ余っちゃうな、もったいないな」ってときはそいつをカソフォロ(カソードフォロアのこと)にしておく、ってのもアリかもしれない。ひょっとするとそれで音が激変するかもしれないし!(笑)


ギターアンプの入力回路

ギターとシールドとアンプ入力部

 

■アンプの入力インピーダンスについて

ここでは、ギターのシールドを突っ込むアンプの入力回路について簡単な説明をしておこう。製作編のアンプの回路では図のようにきわめてそっけない入力回路を使っている。入力は一つだけで、入力ジャックの後ろに、グリッドに並列に1MΩの抵抗が入っているだけである。

ギターにシールドをつないで、これをアンプの入力ジャックに突っ込むと図のようになるが、このときどういうことが起こるのかを、このもっとも簡単な回路で説明する。ちなみにエレキギター側にはピックアップだけでなく音量やトーンのいろんな回路が入っているがここでは簡単のため無視する。

ここで、図のようにギター側から見たアンプ側のインピーダンスをアンプの入力インピーダンスという。この回路の入力インピーダンスはいくつかというと、真空管のグリッドとカソード間は電流が流れないのでインピーダンスは無限大で、この1MΩの抵抗がそのまま入力に入っていることになるので、この回路のアンプの入力インピーダンスは1MΩということになる。

実は、アンプの入力インピーダンスは、ギターの音量とトーンにかなり影響する。なぜかというと、入力インピーダンスが小さくなると、音が小さくなり高域が落ちるのである、つまり音量控えめな上にハイ落ちでモコモコの音になる。なんでそうなるか簡単に説明しよう。

ギターのピックアップは知っての通り、磁石に細い線がものすごい数巻きつけて作られているので、これはコイルの塊である。原理編で言ったように、コイルは周波数が高くなるとインピーダンスが大きくなり周波数が低いと小さくなる。実際のギターピックアップのインピーダンスがどれぐらいかというと、周波数が高くなって行くにつれ、数kΩから数百kΩぐらいまで変化すると言われている。


アンプの入力インピーダンスが低いとなぜ高域が落ちるか

さて、ここで、仮に、アンプの入力インピーダンスが10kΩとめちゃくちゃ低いとしよう。低い音を弾いたときのピックアップのインピーダンスを仮に10kΩ、高い音を弾いたときのピックアップのインピーダンスを仮に50kΩとしよう。すると、図の(a)と(b)ようになる。弦を弾いたときに出る電圧をここで仮に1Vとしたとき、アンプに入力される信号電圧がどうなるか見てみよう。

(a)の場合、ピックアップの10kΩとアンプの10kΩで信号がちょうど半分になってアンプ入力は0.5Vになる(実際は位相回転などありもっと複雑だが)。それで、(b)の場合、ピックアップは50kでアンプは10kなので計算すると0.16Vになることが分かるであろう。(a)にくらべて(b)は実に1/3以下に信号電圧が落ちている。

それでは今度はアンプ側の入力インピーダンスが1MΩだったとしよう。同じように計算すると、(a)のときのアンプへの信号電圧は0.99V、(b)のときは0.95Vになる。つまり、(b)は(a)よりほんの少し小さくなるだけでほとんど変わらず、しかも、先のように入力インピーダンスが10kΩだったとき(0.5Vだった)に比べて2倍ぐらいの信号電圧が得られることが分かる。

以上で、アンプの入力インピーダンスが小さいと、音量が落ち、さらにハイ落ちすることがわかったと思う。ギターアンプでは、入力インピーダンスはだいたい1MΩあたりが定番である。

■グリッドに直列に入っている抵抗について


グリッドに直列に入れる抵抗

それから、よく図のように、グリッドに直列に47kΩなどの抵抗が入っていたりすることがある。これはいったい何だろう。これも難しく考えるといろいろあるのだが、簡単に説明しておこう。これは主に外来の高周波ノイズをカットするためのものである。ちなみに、直列に抵抗が入ってもギターの音にはほとんど影響ない(極端に値がでかくない限り)。

原理編の周波数特性のところで説明したが真空管のグリッドとカソードの間にはコンデンサ成分がある。まあ、真空管の中で電極が向かい合っているわけなので当然コンデンサ(容量)になっているわけだ。大きさは、ふつう、数pFから大きいときは数百pFになる。それで、グリッドに抵抗を入れると図のようにCRのハイカットフィルタ(つまりローパスフィルタ)になる。たとえば、3極管の入力容量が100pFで47kΩをグリッドに入れるとLPFのカットオフ周波数は計算すると34kHzになる。可聴帯域より高いのでギターの音には関係ないが、それ以上の高周波をカットしてくれる。

高周波ノイズはいろいろあるがたとえばラジオの電波。日本のAMラジオは500kHz以上だけど、ラジオの電波がギターのピックアップその他から混入したとしても、上述のLPFがあればほとんど減衰してアンプには入ってこない。でも、このラジオ電波がそのまま入っちゃうと、アンプのどこかに非線形な部分があると、いわゆる「検波」されてしまい、AM放送の音がスピーカから聞こえちゃったりする。昔のコンサートなんかで、ギターアンプからいきなり放送のしゃべりが聞こえてきたりしたことがあったが、このような原因である。

まあ、このグリッド直列抵抗は保険のようなもので、入れなくても問題ないこともある。現に、この本の回路では入れていなかったりする。

■フェンダーギターアンプの入力回路

それでは、実際のフェンダーの入力回路について見てみよう。なぜかフェンダーは2インプットが多く、しかも入力回路はずっと昔からほとんど変わってなかったりする。図がフェンダーのChamp Model 5E1から抜き出した定番回路である。

Fender Champ Model 5E1の入力部

この回路は、よくよく見ないとどうなってるか分かりにくいのだけど、「1」と書かれた入力にプラグインした場合と、「2」と書かれた入力にプラグインした場合で回路がどうなるかを分かりやすく変形して書いたのが次の図である。


フェンダー定番入力回路の解説

見ての通り、(a)では、入力インピーダンスが1MΩ、グリッドには2つ並列になった68kΩが入るので結局34kΩが入っている。そして(b)では、68kΩが二つで分圧されて入力信号が半分になることが分かる。しかも入力インーピーダンスは136kΩと、1MΩよりずっと低いことも分かる。

というわけで、1につなぐと、いわゆるハイ落ちせず音量も落ちないギター音になり、2につなぐと信号は半分、そして前述したように入力インピーダンスが低いせいで音量がさらに落ち、ハイ落ちした音になることが分かる。

ギタリストから見ると、1につなぐとギンギンでロック。2につなぐと丸いメロウな音で音量も控えめでジャズにいいかも、みたいな感じになるであろう。

最後に、1と2の両方にギターをつないだ場合だが、これは2つの音がミックスされるが、解析はちょっと厄介なのでここでは省略する。

このようにフェンダーの入力ジャックの1と2は性格が異なることに注意である。昔は貧乏だったから一台のアンプにギターやらベースやらマイクやら突っ込んで演奏していたころもあったが、昨今は、1台のアンプに複数の楽器を突っ込むってほとんどやらなくなった。なので、このへんはまあ、あまり深く考えることはないであろう。