これまで、真空管の規格表に載っている数値として、増幅率μと内部抵抗rpというのが出てきた。実は、この2つに加えて、相互コンダクタンスgmという定数があって、これら3つを真空管の3定数と呼んでいる。ここで、相互コンダクタンスというのは、プレート電流の変化をグリッド電圧の変化で割った値で、単位はS(シーメンス)である。電流を電圧で割るので、抵抗Ωの逆数になり、昔は、Ω(Ohm)をひっくり返してMho(モー)というおちゃめな名前の単位だったが(おまけに表記もΩを上下ひっくり返した文字を使っていた)、今はSである。これら、μ、rp、gmの3つには次の関係がある。
μ = rp ・ gm …(1式)
真空管の規格表で、3つのうちの2つしか記述が無い場合でも、この式から残りの一つを計算することができるわけだ。この3つのうち、μとrpは3極管に、gmは5極管の動作によく使われる。それでは、以下に、これまで何度も出てきているEp-Ip特性を見ながら、これら3定数について定性的に説明しよう。
μ(増幅率)
μは電圧増幅率のことで、グリッド電圧の変化が何倍になってプレート電圧の変化として現れるかの比である。比なので単位はない。下の図の3極管のEp-Ip特性で言うと、あるプレート電流を想定したとき、この直線(点線で示した)と曲線群の交点の間隔の広さがμを表している。間隔が広いほど、少しのグリッド電圧の変化でプレート電圧がたくさん変化するので、μが大きいと言えるわけだ。これが分かると、このEp-Ipの曲線を見ることで、プレート電流が少ないと間隔が狭まってμが小さくなる、とかバイアスを深くすると間隔が狭くなりμが小さくなる、といった性質が分かるようになる。
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Ep-Ip曲線におけるμ(増幅率)の様子 |
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Ep-Ip曲線におけるrp(内部抵抗)の様子 |
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Ep-Ip曲線におけるgm(相互コンダクタンス)の様子 |
RL A = μ ----------- …(2式) rp + RL
この式から、負荷抵抗RLをrpに対して大きく取るほどゲインが大きくなる、ということが分かる。また、しかし、ゲインはμ以上にはならない、ということも分かる。
さて、それでは5極管のときはどうだろう。5極管の規格表を見ると分かるが、μはふつう記載されていない(逆に3極管の規格表にはgmが記載されていないことが多い)。したがって(2)式はそのまま使えない。前述したように5極管ではμもrpも非常に大きな値になる。そこで、rpが負荷抵抗RLより十分大きいという条件の元で、次のようにゲインを計算する。
RL RL μ A = μ ----------- ≒ μ ---- = ---- RL = gm RL …(3式) rp + RL rp rp
すなわち、gmに負荷抵抗RLの値を掛け算するとゲインAが出てくるわけだ。この式からgmの大きな球ほどゲインが高く、またRLが大きいほど単純にゲインが大きくなることが分かる。
ちょっと例を取ってやってみよう。6AU6という5極管を負荷抵抗100kΩで使ったとしよう。6AU6の規格表を見ると、プレート電圧が100V、スクリーングリッド電圧が100Vのときgmは3900μS
という記述がある。このように、gmはふつうμS ( 10-6S )で表記されることが多い。この値を使ってゲインは次のように390と計算できる。
A = gm RL = 3900 × 10-6 × 100 × 103 = 390 …(4式)
ところで真空管の規格表のサイトを以前紹介したが(http://www.shinjo.info/frank/index.html)、英語のものが多い。上記で参照した6AU6の規格表も、GE製のもので下のように英語である。
この規格表の読み方も、実はひと通りの知識がないとなかなか難しいのだが、3定数の英語表記を次に書いておく。
μ: Amplification Factor
rp: Plate Resistance (approximateとあるのは、おおよそという意味である。単位がMegohmsつまりMΩに注意)
gm: Transconductance (単位が Micromhosとあるが、これはマイクロ・モーで、μS の意味である)
また、「Pentode Connection」および「Triode Connection」とあるが、5極管として使うときが前者、3極管接続という手法(後述する)でこれを3極管として使うときが後者である。