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8 負帰還(NFB)

負帰還(NFB)の原理と効能

負帰還(NFB)回路

負帰還は、NFB(Negative Feedback)とも略し、オーディオアンプではとても重要な回路である。ギターアンプにおいてもオーディオアンプほどでないにせよ、だいたい使われていることが多い。

NFB回路とは、右の図の網がけの部分になのだが、この、出力トランスの2次側から初段のカソードにつながっている一本の抵抗をNFB抵抗といって、これがキモである。このたった一本の抵抗がアンプの音を、大げさに言えば劇的に変えるのである。

ここで、NFB抵抗の値を小さくすればNFBがたくさん(深く)かかり、NFB抵抗を大きくするとNFBは少なく(浅く)なり、無限大つまり抵抗がなければNFBはゼロになり「NFBなし」のアンプになる。NFB回路による効能は次のようなものである。

最後のダンピングファクターはまだ説明していないが、それにしても見ての通り良いことずくめである。なんでこんなちっぽけな抵抗ひとつでこういうことになるのだろうか。以下に原理を説明するが、ちょっとばかりややこしいかもしれない。

いま、入力された信号をまったくそのままの形で大きさだけ大きくする回路を「理想アンプ」としよう。真空管やら半導体やらのアナログ素子で構成したアンプというのは理想アンプにはならない。その出力には、低域と高域の応答が落ち、歪みのせいで元の信号の形が変形し、ハムやノイズという元の信号にないものが加わった信号が出てくるのが現実である。NFBというのは、この理想的でないアンプを矯正して、理想アンプに近づける働きをするのである。

負帰還(NFB)の方法

その方法は、右の図のように、出力信号の一部を入力に戻して逆相で足し算する、という単純なものである。アンプの場合、逆相の信号を作るのは簡単で、特別な回路は必要ない。すでに増幅器の原理のところで説明したように、増幅回路1段で信号は反転する。さらに最後の出力トランスの2次側から出ている2本の線のどちらにNFB抵抗をつなぐかによって、トランスにより「反転する」か「反転しない」かを選択できるので、全体でちょうど反転するようにNFB抵抗をつないでやるのは簡単なのだ。

さて、NFBによる特性改善の原理だが、簡単な代数で説明できるので、ややこしいとはいえ、ちょっとやってみることにしよう。下の図がNFBをかけたアンプの回路である。

負帰還(NFB)の原理


真ん中の四角が増幅回路の本体である。これを裸増幅器などと呼ぶ。先に言ったように理想アンプからはほど遠い現実の増幅器である。そして、抵抗R1で出力から入力へ帰還がかかっている。このとき、信号の位相を逆(180度反転)にしたものを帰還するようにする。ちなみに同相の信号を返すと「正帰還」となり、増幅回路の利得が1以上なら発振する。

さて、裸増幅器に信号i0を加えたときに出てくる出力信号をoとする。i0は増幅率Aだけ増幅され、それに、歪みやノイズを表すdが加わってoが出てくると考えると、次のような式ができる。

  o   =   A i0  +  d      …(1式)
上の図のNFBのかかった増幅器では、増幅器の出力oがR1とR2で分圧された信号irが入力部分に戻ってきている。図を良く見ると、裸増幅器の入力i0には、全体の増幅器の入力iからこのirを引いた信号が入ることが分かる。すなわち、出力から帰還された信号を逆相にして入力に足し算して(すなわち引き算して)いるわけだ。
                                 R2
  i0   =   i - ir   =   i  -  --------- o      …(2式)
                               R1 + R2 
簡単のためR2/(R1+R2)をβとおいて、(2)式を(1)式に代入すると、次の式ができる。
  o   =   A ( i  -  β o )  +  d      …(3式)
この式を出力oについて解くと、結局、NFBがかかった増幅回路の出力oは次のようになることが分かる。
            A                    1
  o  =  ----------- i   +   ---------- d      …(4式)
         1  +  Aβ           1  +  Aβ
さて、この式をどう見るかというと、第1項目が入力信号の増幅の様子を、第2項目は歪みやノイズの様子を示している。まず第1項目だが、iの係数になっている部分が全体の増幅率を表している。係数だけ抜き出した式が以下だが、ここで、もしAβが1に比べて十分大きければ
      A            A          1
  ----------  ≒  -----   =   ----      …(5式)
   1 + Aβ       Aβ         β
となり、増幅率は1/βとなって、裸増幅器の増幅率Aと関係なくなり、一定になる。これは、たとえ元の増幅器の増幅率Aが周波数などによって変化したとしても、それとは関係なく一定の増幅率で増幅されるということを意味している。つまり、元の増幅器の低域や高域の応答が落ちても、NFBをかけた増幅器全体では周波数に係わらず増幅率が一定になるということになるのである。結果、周波数特性が改善されるわけだ。 次に第2項目だが、次の通りである。
      1          
  ---------- d       …(6式)
   1 + Aβ      
この式で、同じようにAβが1より十分大きければ、歪みやノイズの成分は約1/Aβに減ることが分かる。Aβが大きいほど改善効果が高くなる。

これで、結局、NFBによって、周波数特性、歪み、ノイズのいずれもが改善される、ということが分かったわけだ。何となくだまされたような気がしないでもないが、数式はごまかしようもないので、その通りなのである。

ここでβ = R2/(R1+R2)なので、βは1以上には決してならない。仮にβ = 1にすると、全体の増幅率は1/β = 1 となってしまい、増幅しないことになる。

例で考えてみよう。いま、裸増幅器のゲインが100(裸利得と言う)で、β = 0.05 にしたとする。NFB込みの利得は
       100             100
  --------------   =   ----   =   16.7      …(7式)
  1 + 100×0.05         6   
になる。元のゲインが1/(1+Aβ)になっていることから、この(1+Aβ)NFB量として定義されている。ここでのNFB量は上式の分母で、6である。ふつうはこれをデシベルで表すので20 log 6 = 15.7dBのNFBがかかっている、と表現する。さて、たとえば増幅器の低域の応答が落ちて裸利得が半分の50になってしまったとする。このときのNFB込みのゲインは
       50           
  -------------   =   14.3      …(8式)
  1 + 50×0.05         

になる。16.7が14.3になるわけで、これは約86%になっていて、元の増幅器のように半分の50%にはならず、周波数特性がだいぶ改善されることがわかる。また、前に述べたように、歪みやノイズなどは1/6に減る。

さて、以上、長々と説明したが、ちょっと難しかっただろうか。結局、真空管アンプでは大量のNFBをかけることは難しく、NFBはせいぜい20dBちょっとが限度と言われている。元の裸増幅器の特性をあるていど良く設計して、それに仕上げのNFBをいくらかかける、というやり方が多いようである。

あるいは、いっそのことNFBは使わず、裸増幅器だけで実用になる特性をめざしたものも多く見かける。しかし、実際にやってみると、裸のままだとちょっとぎすぎすして荒っぽい音が、NFBをかけることで、すっ、とおとなしくなり、落ち着きや気品が出るさまが体験できる。


負帰還(NFB)の欠点

以上のように、いいことずくめのNFBだが、次のように欠点もいくつかある。

  @ゲインが減る
  A発振の恐れがある
  B音がイマイチとの評価あり(特にギターアンプ、ときにオーディオでも)

ここでBはちょっと後回しにして、まず、@のゲインが減るのは、これまでの話で当然だろう。NFB込みの増幅回路のゲインをかせぐには、元の裸増幅器のゲインを、NFBを見込んで大きく設計しておかなければいけない。

これまでにわかったように、増幅回路の特性は、NFB量の(1+Aβ)を大きくすればするほど改善される。NFB量はβを大きくしてもAを大きくしても大きくなるが、βは前に述べたように1以上にはならないし、仮に最大のβ=1にしてしまうと全体のゲインは1以下になってしまう。と、いうことは、裸増幅器のゲインAを大きくすればいいことになる。極端に言うと、Aをものすごく大きくすると(100000倍とか)、全体のゲインは一定値の1/βに限りなく近づき、歪みやノイズは限りなくゼロになった理想的な増幅回路ができあがる道理になる。

しかし、実際には、ゲイン100000倍の裸増幅器を作るのはかなり大変である。というのは、この場合、入力に1mVの微小信号を加えても、出力には100Vというすごく大きい信号が出てくる計算になるが、この100Vの信号が静電容量やらなにやらの原因で入力の1mVのところに戻ってしまうと、簡単に発振してしまったりする。裸増幅器がちゃんと動作していないと、いくらNFBをかけたところでちゃんと矯正はできないのである。

少なくとも真空管では、たとえばゲインが100000倍で安定した増幅器を作るのには無理がある。もっともこれは半導体なら可能で、ゲインAを極端に大きくしてNFBを前提にして増幅回路を構成する原理に基づいたのがオペアンプ(Opアンプ)である。

次はAの発振についてである。NFBは、出力の信号を逆相で入力に加えることで働く。しかし、実際の増幅器では位相の回転ということが起こり、常にぴったり逆相になるということは有り得ないのである。

この位相の回転の量は主に周波数に関係していて、例えば、1kHzのときにぴったり180度(逆相)だった位相が10kHzのときは230度にずれてしまう、などということが起こるのである。この位相の回転が大きくなって360度になってしまうとNFB回路はそのまま正帰還になり、このときの裸ゲインが大きければ発振する。ぴったり360度にならないにしても360度に近づけば、増幅回路全体のゲインはNFB回路によって逆に大きくなり、特性に不正なピークができたりする。もっとも、こうなったときはすでにNFB (Negative Feedback)とは呼べず、Positive Feedback (正帰還)と言うべきであろう。

位相の回転は、いろいろな要因で起こるが、とくに結合回路の原理で説明したようなRC結合で増幅器を構成したときは避けられない。というのは、段間にコンデンサが入るわけだが、このコンデンサという素子は位相を進める作用があり、周波数によって最大で90度ずれるのである。ということは、段間コンデンサが2個あれば、最大180度ずれることになり、周波数の条件によっては確実に発振またはピークができてしまうのだ。また、コンデンサだけでなく、トランスも同じく位相回転を引き起こす。

NFB回路では、このように裸増幅器の位相回転をうまく設計しないと、逆に特性の暴れた悪いアンプになってしまうのである。増幅器にコンデンサやトランスを使わない直結増幅回路なら位相の回転は無いので(実際は、素子の持っている容量などでそうはならないが)、何段もつなげてゲインが大きくて位相回転のない増幅回路を作れる。しかし、結合回路のところで説明したように、真空管では直結は2段ぐらいが限度で、難しいのだ。

逆にオペアンプなど半導体でなぜ可能かというと、トランジスタにはPNP型とNPN型と言って、電流の向きがまったく逆な二つのタイプの素子があって、交互に組み合わせることで割りと簡単に多段の直結増幅回路が作れるからである。

最後に、Bの音がイマイチとの評価であるが、どういうことかというと、NFBをたくさんかけたアンプは、これまで述べたように周波数特性、歪み率、ノイズ特性など、どの特性を取っても数値は良いのだが、実際にこれで音楽を聞いてみると、どうも「いい音」に感じられない、という評価があるのだ。これは多分に感覚的なもので、賛否両論ある。

ただし、特にギターアンプでは、この問題は割りとはっきりしている。さっき、NFBの原理のところで、「裸のままだとちょっとぎすぎすして荒っぽい音が、NFBをかけることで、すっ、とおとなしくなり、落ち着きや気品が出る」と、書いた。しかし、ロックやブルースといった音楽は往々にして「おとなしく落ち着いた音」より、「激しく攻撃的な音」が好まれる傾向があり、NFBをかけない方がいい、という評価が出て自然なところがあるわけだ。

たとえば、Fenderのアンプの変遷などを見ていても、当初はギターアンプ回路もオーディオアンプ回路の真似から入っていて、けっこう大きめのNFBがかかっていたりするが、その後しばらくして、たとえば、Tweed Deluxeの5E3(これは今でもけっこう人気がある)ではNFBをまったくかけず、ゲインが大きくすぐに歪むアンプをリリースしたりしている。あと、かのVOXのオールドアンプなどもNFBをかけていなかったりする。

しかし、全体として見ると、ギターアンプであっても特に出力段の部分にはNFBをかけているものが主流であろう。ちなみに、ここでは説明し切れなかったが、NFBというのは部分的にかけることもできる。真空管1本分のNFBだってOKだ(プレートからグリッドに大きめの抵抗を入れるP-G帰還などがポピュラー)。NFBのかけ方には、実際には複雑なノウハウが存在している。まあ、ともかく、NFBをかけない生音があまりにギスギスした音だと困るのでNFBを出力段に浅めにかけて、音作りは初段のプリアンプで行う、というのが大方のやり方だと思われる。

もう一つギターアンプで面白いのがプレゼンスコントロールだろう。これについては、また別項のトーン回路のところで説明しようと思うが、このプレゼンスはNFBの量をコントロールすることで実現されることが多い。NFB回路に簡単なフィルタを組み合わせ、高域になるほどNFBを減らすような動作にするのである。その結果、高い音の方でNFBが減りゲインが上がり高音が強調される。加えて、NFBを減らすと上述したように歪みなども増える。プレゼンスツマミを上げると、高音が強調されてキンキンすると同時に何となくギスギスした歪みっぽい音になるのはNFBをコントロールしているからである。

さて、一方、オーディオアンプの方のこのNFB是非の議論は根強く残っていて、ネットなどをあさるとけっこう論争が出てくる。ここでは深い入りしないが、結局は好みの問題というところもあるだろう。ちなみに自分はというと、オーディオアンプでもNFB無しの方が好みで、そんなのばっかり作っている。


ダンピングファクター

NFBの利点のひとつに「ダンピングファクターが大きくなり、スピーカーの出音が良くなる」というのがあった。ここで、ダンピングファクターについて簡単に説明しておくことにしよう。「スピーカーの出音が良くなる」というのもあいまいな言い方だが、実際、このダンピングファクターによる音の違いは相当に大きいのである。

さて、知っての通り、スピーカーのインピーダンスには8Ωや4Ωや16Ωなど、いろいろな種類がある。しかし、実際にスピーカーのインピーダンスを測定してみると、その値は周波数によって相当に変化する。下の図は、手元にあった、公称インピーダンス8Ωのフルレンジのスピーカーを実測してみたものである。


公称インピーダンス8Ωのフルレンジスピーカーのインピーダンス実測例

これをみると、ほとんど、どこが8Ωだよ、と言いたくなるほど激しく変化している。まず、低域の周波数foのところに大きなピークがある。これはスピーカーの機械的な共振周波数である。周波数foの信号を加えると、スピーカーのコーン紙を始めとする機構系が共振して、コーン紙が周波数foで激しく振動する。すると、その振動でボイスコイルが逆起電力を発生し、コイルに信号を流しにくくし電流が少なくなるので、結果、インピーダンスが極端に高くなるのである。この逆起電力というのが結構なくせもので、これは別にfoでなくても常に発生し、スピーカーの特性を複雑なものにする。

それから、二つ目の特徴は、高域へ行くにしたがってインピーダンスが大きくなることである。実はこれは当然なことで、スピーカーはコイルなので、電気の基礎のところで説明したように、そのインピーダンスは周波数に比例して大きくなるのだ。

この変動する特性のどこをもって公称インピーダンスにするかは、スピーカー製造各社でそれぞれ考え方があるようだが、大雑把に言って400Hzのときのインピーダンスを公称にすることが多いようである。

以上のように、スピーカーのインピーダンスは変動するのだが、アンプの方は、ふつう、スピーカーは8Ωなら8Ωとして割り切って設計する。しかし、実際のスピーカーをつなぐとこのように大きく変動するので、アンプの振る舞いは周波数によって変わってしまうのである。

アンプの内部抵抗とダンピングファクターDF

さて、ここで、アンプの出力段を電気的に割り切って考えると、右の図のように、増幅された信号電圧eと、アンプの内部抵抗と呼ばれる抵抗Roが直列につながれたものとみなすことができる(こういう回路を等価回路という)。ここで、内部抵抗Roがゼロだったときを考えてみよう。すると当然のようにeはそのままRLの両端にかかるので、スピーカーのインピーダンスRLがいくら変動しようと、スピーカーにかかる信号電圧は一定になり、周波数による変動は影響しないことになる。

逆にこのRoが大きいと、RLの大小によってスピーカーにかかる電圧は大きく変動し、スピーカーから出る音の大きさがRLの大きさにより変わってしまう。RoがRLより十分大きかったりすると、RLにほぼ比例した信号電圧値になる。

このように、アンプの内部抵抗Roは、スピーカーのインピーダンス変動による音の大小と深い関係があることが分かる。

ちなみに、以上の説明で、スピーカーの両端にかかる電圧を問題にしていて、電力を問題にしていない理由は、現在作られているスピーカーが、一定の信号電圧が加わることを前提にして設計されているためである。

さて、ここでダンピングファクターという値は、このアンプの内部抵抗によるインピーダンス変動に対する強度と関係する値で、次のように定義されている。

           RL
  DF  =  ------      …(9式)
           Ro

このように、内部抵抗Roが小さいとDFは大きくなり、内部抵抗Roが大きいとDFは小さくなる。DFの目安だが、DF=1を境にして考えていいと思う。DFが1より小さくなって行くと、スピーカーの変動にアンプがついて行けず、スピーカーの制動が悪くなる、などと言う。逆にDFが1より大きくなって行くと、スピーカーの変動に強く、制動力が高い、などと言う。

では、具体的に、音質にどのように響くのだろう。これはなかなか一概には言えないのだが、例えばDF=0.1などという、内部抵抗が高いアンプだと、スピーカーのインピーダンスが高くなると信号電圧が大きくなるせいで、高い音がでかくなり、400Hz付近はふつうで、それで、低音のfoで極端に音がでかくなる、そんな音質になる。これつまり、高音がキンキンして、fo付近のかなりの低音がスピーカーに共振しっぱなしでボンボンと耳障りに響く、そんな音になる。高音キンキン、低音ボンボンをよく「ドンシャリ」などと言う(低音がドンと響き、高音がシャリシャリしている)。

ちょっと歳のいった人なら聞き覚えがあると思うのだが、むかしの真空管ラジオの音がこのドンシャリの典型であった。アナウンサーの「さしすせそ」が「しゃししゅしぇしょ」になり、それで音楽がかかるとベースやバスドラムが安物のプラスチックキャビネットを箱鳴りさせぼんぼん響く、あの音である。逆に、DF=10などというアンプだと、fo付近の共振も押さえ込まれ、低音がしまって、キンキンもないフラットな感じの音になる。

では、オーディオ的にDFはどれくらいあればいいかというと、これも諸説あるが、5〜10ていどと言われることが多い。しかし、DFが大きければいいというわけでもなく、スピーカーの特性にも大きく依存するし、逆にアンプがすべての変動を抑えてしまえば人間の耳にとって心地いいかというとそんなわけでもなく、結局は主観的なものである。ただ、DFが1を切って極端に小さくなると、さきほどのように音はドンシャリになるのは確かである。

以上に述べたDFだが、このDFはNFBをたくさんかけるほど大きくなる性質がある。すなわち、NFBをかけるとアンプの見掛けの内部抵抗が下がるのである。実は、NFBをかけない裸の真空管アンプはかなりDFが小さくなる。具体的なDF値は、出力管の種類によってさまざまだが、特に5極管は内部抵抗が高く、そのまま作るとふつうDFは0.1より小さくなる。

一方、3極管は内部抵抗が比較的小さく、DFはふつう1前後になる。ということはとりもなおさず、5極管でアンプを作るとドンシャリのアンプができる、ということになる。したがって、5極管でオーディオ的にいい音のアンプを作る場合、NFBは必須テクニックとなるのである。ただし、前節で説明したように真空管アンプで大きなNFBをかけることは簡単ではなく、そんなこともあり5極管でいい音のオーディオアンプを作るのは簡単ではない、ということになるのである。

一方、3極管はそのまま作ってもDFをそこそこかせげるので、DF的にはNFBは少しかければ十分で、設計はずっと楽になる。特に、オーディオ用として有名な300Bとか2A3とかいう3極管は内部抵抗が比較的低く、NFBをかけなくてもDFを1以上にできるので、NFBなしでも良い音のするオーディオアンプが作れる。

一方、ギターアンプであるが、ギターアンプではオーディオとは逆に、この「ドンシャリ」の音がカッコよく聞こえることが多々あり、DFの大きさを気にすること自体があまり無いようである。ドンシャリのアンプにエレキギターをつなぐと、5、6弦の低音が太く響き、高音弦の方の音がジャキーンと強調されることになり、いい感じになるのである。そのせいもあり、ギターアンプでは内部抵抗の高い5極管を出力段に持って行き、NFBもたいしてかけずに使うことが多い。もちろん、5極管はパワーが取れるという長所で使われるわけだが、DFが小さい方がかえって音がいい、という理由も手伝っていると思う。ちなみに、3極管をパワー管に使ったギターアンプは皆無ではないが、ほとんど見当たらない。