Fuzz Face製作ことはじめ

FuzzFaceを元にした自作ファズ(夏休みの工作)

FUZZについて

真空管ギターアンプの製作などを始めたせいで、アメリカのサイトを見ることが多くなった。すると、ギターアンプ にとどまらず、エフェクターの自作情報なども目につく。そこで、試験的に、ギターエフェクターでもっとも基本的な歪み系エフェクター、そしてその中でも もっとも古典的なFUZZに手を出してみることにした。

その昔、ギターアンプがすべて真空管だったころ、ギター、アンプ共にボリュームをフルにすると真空管がオーバー ドライブ状態になり、音が激しく歪み、サスティーンがかかり、やたらカッコいい攻撃的なギターサウンドが得られることに誰かが気が付いた。このいわゆる ディストーションサウンドをロックギターのひとつのスタイルとして一般にオーソライズしたミュージシャンに、若かりし日の、かのエリッククラプトンがい る。そしてさらに、このディストーションに、アンプからギターへのフィードバックによる破壊的な音を加えたジミヘンドリックスのような人が現れ、ロックギ ターの基礎が出来上がった、という訳であろう。それにしても、これらロックミュージシャンより前の50年代ごろの黒人ブルースなど聞いてみると、すでにエ ルモアジェイムズなどがアンプ歪みのきいた音でぎゃんぎゃんと弾いており、はては、リトルウォルターはこれをハーモニカにきかせておどろおどろしい雰囲気 を醸し出したりしていた。

こ の頃から、このアンプ歪みをトランジスタ回路などで故意に作り出すエフェクターがいろいろ作られるようになり、その走りがこのファズというわけである。今 回試してみた回路は、60年代に発売されたFUZZ FACEというやつで、ジミヘンが使っていたことで有名である。このファズフェイスは、ファズ出たてのころの製品で、トランジスタを2つ使っただけの実に シンプルな回路である。その後、かなりの種類のファズが出ているが、だいたい、フルスイングに近い状態まで増幅し、これをダイオードでクリップして方形波 状に整形することで、あの攻撃的なえぐい音を出しているものが多い。これに対してこのファズフェイスは、ダイオードは使わず、トランジスタの増幅率をでか くとり、トランジスタそのものでクリッピングさせている。

FUZZの回路と動作

最初に作ったFuzz Face回路図。現用機の回路図は「Fuzz Face現用機」の記事の方にあります

回路図を見ての通り、直結の2段増幅回路である。回路の原理についてはアメリカのサイトでいろいろ解説されているが、まとめるとこんな感じである

  • 2段目のエミッタから1段目のベースにDC帰還がかかっていて増幅率が爆発的になるのを防ぎ、いい感じの歪みにする
  • 1段目のコレクタ電圧が1V以下とかなり低く、ギター音量を上げると、波形の片側だけクリッピングし、上下非対称の波形になる
  • 1段目で非対称に大きくなった信号を2段目でハードクリッピングする。こちらは上下対象クリップでその歪み量をエミッタ抵抗の電流帰還を変化させてコントロールしている
  • クリップした信号はでかいので、2つのコレクタの抵抗で分圧して適当な量にして出力する
  • 結局、1段目で弱いピッキングのときのニュアンスを出し、2段目でハードドライブ時の攻撃的サウンドを出す

ということである、まあ、何となく分かるかな。このような動作 原理の場合、2つのトランジスタの特性、特に電流増幅率(hfe)の選択が音に多大な影響を与える。ファズフェイス出たてのころは年代的に言って、当然ト ランジスタはPNP型のゲルマニウムトランジスタ、さらに漏れ電流の大きな、安定性の低い、かなり粗悪な代物だったらしい。当時のトランジスタは全体に再 現性がかなり悪く、同じ型式でもhfeがはなはだしくばらついていて、温度や動作点によってもバカバカ変わってしまうというものであった。したがって、同 じファズフェイスでも、音にかなりのばらつきがあり、十台買ってホントの当たりが1、2台、というノリだったようである。その後、製造技術 が進歩し、ゲルマニウムに代わってシリコンが主流になり、ファズフェイスも幾たびかのアップデート、そして亜流を生み出し現代に至る。しかし、やっぱりこ ういうオールドものというのはそういうものなのだが、根強いゲルマニウム派というのもあるようである。うん、気持ちはすごくよく分かる

試作

さ て、この回路をもとに、ジャンクをあさって部品を揃えて回路を仮り組みし、音出ししながらいろいろ遊んでみた。トランジスタはソケットにして、トランジス タをいろいろ換えてみると音が変わって面白い。残念ながらゲルマニウムは無かったのでシリコンである。ただ、どこぞでもらってきたオールドストックものト ランジスタがたくさんあったので、差し替えてずいぶんとやってみた。簡単なhfe測定回路を作って測定もしてみた。僕的には、初段が130、終段が70ぐ らいでいい感じであった。さらに初段のベースに直列に高抵抗を入れ、歪みを全体に押さえたヤツが一番気に入った。ピッキングのニュアンスが出やすいのであ る。最後に、終段のコレクタ電圧が4.5Vていどになるようにコレクタ抵抗を調整した。これでまた増幅率も変わるのだが、まあまあいい感じである。

素子の値が決定したら、全体を基板の上に組み直し、箱入れであるが、ごらんの通り、段ボールの小さな箱に収め て、当面はウケねらいとした。完全に夏休みの工作そのものである。それはともかく、実際にスタジオ入りして鳴らしてみないと分からないので、この状態で練 習などに持って行き、使ってみようというわけである。1度スタジオで鳴らしてみたが、音的にどうもいまいちであった。ストラトで鳴らすと歪みが足りない。 まあ、調整のときに使ったのはグヤトーンの超粗悪ギターだったので、やっぱ、あのギターじゃなきゃだめなんだろう。今度、この「ファズ2002」とグヤの ギターで、かのハウンド・ドッグ・テイラーでもやってみることにしよう。

紙箱のままでリハ

もう、ずいぶん前のことだけど、このダンボール箱のまま、スタジオ練習に持っていって使ってみたことがある。家で弾いてるときはなかなかいい音だったんでバンドで使ってみたかったのである。リハの最後の方でこのFUZZ2002をカバンから出してみたら、やっぱりウケた。おお、これ、オモシロそうじゃん、とかいって。そこで、つないでみたのだけど、いや、これはノイズがひどい。ディストーションを上げると、特にジージーいっちゃって、まともな音にならないのである。1、2曲やってみたけどとても使えず、結局やめ。さらに、スルーのフットスイッチもないわけで、これじゃ事実上使えないわけだ。

なーんだ、と思ってしばらく放っておいたのだが、家で弾いてみるとやはりいい音なのである。ということで、このノイズの原因はやはり内部回路にシールドがまったく無いせいだ、ということに気がついた。やっぱダンボールじゃダメなんだ(当たり前 笑)

現用機へ

実は、このFuzzを作って遊んでいたときも、自分には歪みの主力機があったのだ、Hot Cakeである。ライブでもどこでもこのHot Cakeを使っていた。たしか3万5千円ぐらいしたはずで、やたらと高いが音はけっこう気に入っていた。それにしても高価である。ネットで回路図を調べてみると、これまた非常にシンプルで、ほとんどオペアンプ1個で終わり、みたいな感じだった気がする。で、中を開けてみると、基板の回路の上にグニョーっと接着剤がついていて、その上にボール紙がベタっと貼ってあり、そこに外人の手書きのサインがしてある。

聞いたところによると、どうやら、このHot Cakeは、ヨーロッパのどこぞの国の有名な名人が回路を一つ一つ音出し調整して、それで出荷しているのだそうだ。回路自体は、まあ5、6千円相当のものだと思うんだけど、その名人が調整すると3万5千円になっちゃうって、なんか感心していいんだか呆れていいんだか良く分からない事情である。

このHotCake、数年はおとなしく毎回使っていたのだけど、なんだか飽きちゃったんだろう、あるギグが終わって、家に帰ってみたらHot Cakeが見つからない、どうやら失くしちゃったみたいだ、ありゃー、どうしようか、でも、まあ、いいか。みたいにロクに探しもせず紛失してしまったのである。さあ、歪みはHot Cakeしか無かったんで、代わりを探さないといけない。

ライブの日程が迫ってきたある日、のFuzz Faceを思い出し、とりあえず、これを使えるようにしようかな、と思ったのである。そこで、近所の100円ショップへ行き、適当な金属の箱を買ってきて、そこに回路を入れなおし、手持ちのバイパス用フットスイッチも取り付け、それなりに使えるようにまとめたのが、これである。

ライブなんかで、これを足元に置くと、お客さんの視線は真っ先にこのファズとは思えないアホルックスに集まり、効果はなかなかである。特にお客の女の子なんか、ほぼ全員が、なにこれ、かわいいー!、という反応で、まんざらでもない人気であった。これを使った演奏を次に載せておく。踏みっぱなしで手元ボリュームのみで演奏している。

※この後、FUZZ FACE現用機へ続きます

FUZZ FACE製作ことはじめ