オーディオアンプ試作1


前にポストしたように、Gアンプにも使えるオーディオアンプをあれこれ画策していたのだけど、二転三転して、最近はもうオーディオアンプだけでいいや、という感じになってきた。

と、なるとここに載せるのはイマイチ畑違いってことになるんだけど、まあ、再び計画変わることもあるだろうから、ここに載せておこう。

前回の構想は、6BM8の3極管接続のプッシュプルだった。三結と普通の五極管接続の切り替えスイッチをつけて、前者がオーディオアンプ、後者がギターアンプ、とか考えてたんだけど、オーディオアンプとして使う場合はオーディオ用スピーカーをつなぐわけだけど、その状態でいくらギターアンプっぽい回路で鳴らしても、ギターのいい音はしないんだよね。スピーカーもギター用にしないと。

だから、やっぱり、アンプとスピーカーをつないだ状態で、アンプだけオーディオとエレキを切り替えても実質的にあまりいいことは無いわけだ。オーディオスピーカーでエレキギターのいい音を出そうとすると、どうしたってアンプシミュレーターみたいな話になり、真空管回路だけで解決するには無理がある。デジタルのアンプシミュレータを使っちゃうんだったら、わざわざギター入力をつける必要もないわけだ。

というわけで、オーディオ優先ということにした。

では、どうするかだけど、自分的にはどうも6BM8という球の名前が気になるのである。なんだかあんまりカッコよくないのである。同じ特性でヒーターが50Vの50BM8は名前がなんか気に入っているので、これにすれば名前問題は解決になる。50BM8はヒーターを2本直列にしてAC100Vから直接取れるので便利なんだけど、トランスを介さないせいでノイズが気になることを経験済みである。ま、無視できる程度ではあるのだが。

あと、スウェーデンでも使うということを考えると先方はAC240Vなんで50BM8はそもそも使えない、というのも問題である。

ということなんだけど、まあ、取り合えず、自分のうちに50BM8が2本あったので、それで仮組みを試みてみることにした。では回路をどうするか。

オーディオアンプでの自分の経験では、やはり、かの有名な直熱三極管の2A3や300Bがいい音なのである。今自分の部屋では6V6GTの三結プッシュプルなんだけど、なんだかどうしても2A3のシングルに勝てないような気がする。定評のある球というのはそういうものなんだろうか。でも、今回は直熱のでかい球は使いたくない。ということで考えているうちに、オーディオアンプなのでなおさらだが、プッシュプルにこだわることもなく、シングルでもいいかもしれないと思えてきた。

ただ、たとえば6BM8のシングルというのも作ったことはあるんだけど、さすがにいい音とは言いがたく、なんというか素人っぽい音しかしないんだよね。NFBかけたり、三結にしたりしても、やはりなんだかイマイチな感じがする。ただ、6BM8は三結にすると内部抵抗がかなり低くなることについては定評がある球なのである。じゃあ、どれぐらいなんだろう、と思い調べてみると1kΩちょっとみたいだ。これは他の5極管の三結と比べても確かにかなり低い。

2A3や300Bというのは内部抵抗が500Ωていどでかなり低い。その低い内部抵抗で出力トランス(OPT)を駆動するから、ああいう澄んだきちんとした音が出る、とも言われている。5極管ではこれはまず無理なんで、NFBに頼ることになる。特に、出力管そのものに強いNFBをかけて内部抵抗を相当低くしてOPTを駆動する、という原理に基づいたのが、ちまたで有名な「超3極管接続」である。

この通称「超3」は、僕が初めてオーディオアンプを作ったときの回路で、なかなかに思い出深い。6BM8が2本でステレオアンプができる。超素人の自分が作るオーディオアンプなんて、まったく期待していなかったところが、実際に鳴らしてみたらあまりに素晴らしい音でびっくりし、それがきっかけで、一気に真空管アンプ工作の世界に入り込み、およそ10年たって今の自分がある。今思うと「自分で作ったアンプ」から音が出る、という満足感のなせる感動だったと思うのだが、実にいい思い出だ。この顛末についてはこのエッセイに書いてある。

さて、超3をまたやるか、というとそんな気は現在は、まったく無い。回路が相当に変則的でどうも敬遠ってのと、そもそもP-KのNFBというのがどうも自分のノリに合わない。

あ、ちなみに自分は真空管オーディオアンプを設計するときは、一番こだわるのが使う真空管の名前、そして、回路図のルックス、で電気的特性はその次になるんで、特に工学系の人には、自分の情報はなんの役にも立たないので悪しからず(笑

そうこうしていて、2A3並みに低内部抵抗でOPT駆動、ということをつらつら考えているときにひらめいた。それは、6BM8の三結をパラに2本つないでパラシングルにすれば、内部抵抗は1kの半分の500Ωになるじゃないか、ということである。2A3や300Bとほぼ同じ内部抵抗になるわけで、これはいい!

ここまできて、さっそく試したくなり、50BM8を2本で仮組みしてみた。

5極管部の三結をパラ。それで、ついでに、3極管部もパラにしちまえ、ってことで回路定数を適当に決めて作ってみた。それが冒頭の写真と文末の回路である。さっそく、ソースとスピーカーをつないで鳴らしてみたら、音量もあがらずまるでぐちゃぐちゃのひどい音で明らかにこれは「発振」している。2本の球は仮組みシャーシーにすでに空いていた穴にさしていて、けっきょう距離がある。3極管、5極管部の両方をパラにするとなると計7本のビニール線でそれぞれをつなぐのだが、これら平行になった線の間の浮遊容量でいかにも発振しそうだな、と思ってはいたが、案の定、使い物にならないほどひどい発振状態になった。

シンクロで見ると、あらゆる発振でもう波形がぐちゃぐちゃにつぶれている。ありゃー。

というわけで、もう一度見直して、配線を整理したら、まあまあ発振しないていどにはなった。ただ、これも心もとなく、割り箸でビニール線を押さえると全体ゲインがゆれたり、きわめて怪しい動作状態である。

とはいえ、発振しないまあまあのコンディションで、CDとスピーカーをつないで聞いてみた。まあ、きれいな音はしている。ステレオでなくてモノラルなのでイマイチ感はぬぐえないが、まあまあである。ただ、なんとなく低音不足に聞こえる。これは、いくら内部抵抗を下げたからって、OPTそのものがだいぶショボイんで仕方ないとも言う。東栄の一番小さくて安いやつで実験してるのである。せめて、もう2グレードぐらいはOPTを良くしてやらないとわからない。

ちなみに、ダンピングファクターを測ったら2.0だった。これは予想通りで、NFBかけずにDFが2というのはなかなかのものである。僕の作った現用の2A3シングルでもDFは1.6である。

さっき気づいたけど、3極管部までパラにするから発振しやすいんであって、パラは5極管のみにしとけばよさそうだ。そうすると3極管が一本分余るが、それこそ、その余ったのでギターアンプのプリアンプを構成するのもいいかもしれない。

というわけで、今後、まず発振は皆無にする、OPTをもう少しまともにする、あとステレオにする、といった作業をしようと思う。ただ、日本には8月いっぱいで、9月にはまたスウェーデン行きである。それまでに間に合わないかも。