世渡風俗図会

清水晴風

はじめに

柳の虫や赤カエル

生虫売りは、下崎万年町あるいは本所あたりに出て
市中を行商する。柳の虫や赤カエル、またはヒキガエル
マムシなどすべて子供の薬用に適した虫のたぐいを
売る者である。

お芋の丸揚げ おさつの丸揚げ

丸揚げとは普通の精進揚げと違って
少し塩で味をつけるもので
この丸揚げを卸売りする問屋があれば
また売り子もたくさんいて、女でも男でも
みな売り方が異なっていた。
「蓮にゴボウ、日光日光唐辛子」
など、面白い節をつけて呼び歩く者もあった。

宿無し乞食のたぐい

この一群は、自ら酒わらのたぐいを集め
小屋を作ったりして、その中に頭として立つ
者があって、あちこちへ物乞いに出る。
また、吉原の仲の町森田屋が毎年救済の頭巾を出す
習わしという。

輪使いの乞食

手にたくさんの輪を持って
さまざまな手品を演じて銭をもらう。
「上より入れれば下へと抜ける
横より入れれば横へと抜ける云々」

四つ竹

明治時代の前、四つ竹を鳴らして
家々の門のところに立って、踊って
銭をもらう乞食があった。

しじみ売りの小僧

しじみ売りは、年少の者に限るようである。
しじみの本場というのは、清蔵しじみである。
平しじみ、神田川しじみをもって美味であるとした。
また、しじみ売りの商いは、行徳、堀江、猫実などから
あさり、はまぐり、かき、しじみのたぐいを
積んで来る問屋船があり、この船から
直接、卸売りして、これをもって
町中を売り歩くものである。
「あさりからあさり
オイ しじみ オイ
おばさん、しじみを買ってくれねえか」

ゴミ取り

江戸のゴミ掃除は、ごみ掃除業の
お株で、各町の差支配人に特約して市中のゴミを
掃除するものである。また、このゴミは下総の国
登戸毛美川、馬加あたりから五大力と呼ばれる船
が江戸へ薪やそのほかの物を積んで来て
その船が帰るときにそこにゴミを積むのを生業とする。
このゴミは海岸に積んでおいて。あとで
さつまいもの肥料に利用するという。

ぼうふら取り

金魚の餌となるまでの浮き沈み
赤ぼうふらの終わり甲斐無き

寒行

この寒行の種類は数多くあって、みな願人坊主の一種で
身い鼠色の古い衣を着て、白ぬねで頭を包み
荒縄で腹部を巻き、片手に鈴を鳴らし、また、片手には
手桶に水を入れたものをさげて持っている。

さんげさんげ

さんげさんげは法師姿の行者めいた身なりをした者が
手に釈杖を持って、仏の名などを唱えて、銭をもらう。
これも願人坊主のなかから出た一種である。

年の暮れの飾り松売り

「まつや、まつや、まつや かざり松や、かざり松や」
毎年正月の飾り松は、江戸の市中のいろんなところに松市として12月25日ごろから
店を出すのが習わしである。また、この飾り松は一本二本、切留や鎌苅などの鹿島松
と呼ばれる上等のものがあるのだが、江戸に出てくる松は、下総常陸から出るものが多い。
また、松売りというのは、市で卸売りをしてこれを背負い、
「まつや、まつや、まつや」
と呼んで、街中を売り歩く者である。

軒あやめ売り

毎年、5月3日ごろから
「あやめや あやめや」
と呼びかけて町中を売り歩く。
今では軒に菖蒲を投げ上げる家もなくなったので
当然このあやめ売りが来ることもなくなり
絶えて来なくなった。

漬梅売り

毎年四月の末から五月にかけて
梅の実を売る者がある。
これは、梅干しの材料と
なるものである。

餌掘り

この餌掘りは、釣り人に必要な物なので
常に、ミミズを掘って生活をする者が数多くいる。
また、ゴカイ餌と称して、川べりや
水気のあるところにいる虫のたぐいを
釣る魚の種類によって用いるものと言われている。