世渡風俗図会

清水晴風

はじめに

軽便筆売り

この軽便筆は、赤と黒の二種類あり、
紙に文字を書くのに自在なこと、
いまの鉛筆より便利である。
また、この筆で、盃など漆で塗った物に
絵などを写し、三印といわれる金粉を
かけて、余った粉を木綿棒で拭き取れば
一見、蒔絵のようになる。
この筆売りは、縁日の露店で、筆の使い方や
蒔絵のしかたを見せて、説明したりして、商いをした。
今ではもう無くなってしまった。

川魚踏み

この川魚踏みは、神田川の立川本所や深川の枝川の
引き潮のときに、二、三人ずつ別々に
腰のあたりまで水の中につかり
竹で作った魚取器で
うなぎやどじょうのたぐいを
踏んで追い出して獲る者である。
また、腰に結わえ付けた
水に浮かせた舟形のものは
獲った魚を入れて蓄えておく器である。

物干し竿売り

「竹や さお竹」
日の影がこんなに縮まって来た小春日和に
長く引きゆくさお竹売りの声。

おはち入れ売り

毎年、冬には、おはち(飯櫃)入れといって
おはちを入れる藁で作ったびくのようなものを売っている。
このおはち入れは飯を冷やさないための保温器で
大中小などいろいろあるという。

竹からくり売り

竹からくりは、らう木のような竹の管を
いくつもつなぎ、より合わせた糸で
伸縮自在のからくりになるように作ったもので
手で加減するといろいろな形になる玩具である。

さつまいも売り

「いもや さつまいも」
さつまいもは、甘藷といって秋から冬の季節
に出る。その主な産地は、下総の国のものが
いちばんよいとされている。
また、武州川越で産する赤芋という名の芋は
とても美味で賞賛されているが
この種の芋は春にならなければ多くは出ず、
その芋も三州などに産地があるものの
まずは下総のものが主だといわれる。

瓦版の読み売り

「これはこのたび世の珍しい出来事をご覧あれ 絵とひらがなにてことの明細」
今日の新聞売りのように、世間に出来事があれば
すぐに瓦版をおこし、江戸の町中で口上と共に読み売った
その迅速なこと、新聞のごとし。

お日和坊主

「お日和 お日和 お日和のご祈祷」
お日和坊主は橋本町にいて
ご祈願の大道芸人のたぐいで
素っ裸に新しいふんどしをしめて
扇と長いつるべ銭を持っている。
お天気、お天気、と呼びかけ
いかにも、せわしいようすで、かけ歩き
銭をもらう者である。

練馬の大根売り

冬の大根の季節になると、練馬から直接
馬の背中に載せて大根を売る者が来る。
この馬を出す百姓自ら、
大根を自分の馬に付けてくるので
買いに来る人も多く、また
西大根といって美味であるという。

長太郎玉

「長太郎さんの頭は土蔵つくり」
この長太郎玉の原料は
柚子に樟脳ととうろ石を混合して作ったもので
ネズミが好み、ネズミがこれを食べると
たちどころにくたばると請け合いである。
また、火を点ければろうそくの代わりになる。
使ったあとで、頭を丸めて長太郎ご苦労と
このようにかぶせれば、元のとおり。
また、燈を灯し、水に入れても消えることがないなどなど。