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11 設計の仕上げ

部品の定格などを決める

さてさて、紙の上でのあれこれの設計が終わったら最後に、使う部品の定格などの計算をして、部品表を作って部品を買いに行けるところまで検討する。たいした話じゃないが、いちおう書いておこう。

まず最初に、回路図上に、設計段階で求めた各部の電圧を書き込む。あと、プレート電流などの電流も書いておく。

まずは抵抗だが、すべての抵抗について、消費されるワット数をオームの法則を使った次の式で計算しておく。

          E2
  P  =  -----  =  I2 R     …(1式)
R
それで、実際に使う抵抗のワット数は、計算した値のだいたい3倍ぐらいのマージンを見て決める。このように定格に余裕を持たせることをディレーティングと言うそうだ。ディレーティングは抵抗だけじゃなくてすべての部品に当てはまる話だが、ではどれぐらいの余裕を取ればいいかはそうそうはっきりした話ではなく、深入りすると信頼性とか品質管理とかすごく難しい話になる。

ということで、あまり深入りせず、抵抗は3倍前後とする。たとえば計算して0.3Wだったら3倍して0.9Wか、じゃあ1Wにしとくか、といった感じである。

次はコンデンサである。すべてのコンデンサの両端の電圧を引き算して、コンデンサの両端にかかる電圧を計算する。それで実際に使うコンデンサには、この電圧以上の耐圧のものを使えば大丈夫。え? ディレーティングはしなくていいの? と言いたいですね? はい、よく分かりません(笑) 

コンデンサの耐圧のディレーティングは一般にあまり気にする必要はないらしい。逆に余裕を持たせすぎると問題が起こるなどの記述がときどき見られる。うーむ、最終的には、もう、使用する部品を製造している会社が発表している専門的な使用マニュアルをよく読んで自分で決めるしかない。ま、かくのごとく、面倒なのである。

ところで、電源回路の電解コンデンサーや結合コンデンサの耐圧についてだが、シリコンダイオード整流のときは、スイッチを入れてから増幅回路の真空管が暖まって電流が流れるまでの30秒ていどの間、B電源には計算値より高い電圧がかかる。これは、トランスの2次側の表示電圧の1割り増しの電圧に、√2をかけたぐらいの電圧になり、たとえば2次巻き線が200Vだったら
  200(V) × 1.1 × 1.41  =  310 (V)     …(2式)
になり、この310Vの電圧が一律、すべての平滑コンデンサ、デカップリングコンデンサ、結合コンデンサにかかることになる。それで、真空管がじょじょに温まり、10秒を超えたぐらいでだんだん電流が流れ始め、電圧は減って行き、最後には設計値に落ち着く。

コンデンサの場合、10秒ていどの短時間にかかる電圧はサージ電圧と呼ばれていて、電解コンデンサなどでもサージ電圧であれば上記310Vの耐圧でなくとも耐えられることになっているので、まずは問題は無いのだが、こういうことが起こっている、ということは知っておいた方がいい。

自分は、というと、どうも気持ち悪いので、この最大電圧の値を考えて耐圧は余裕を持って選ぶことが多い。

次は出力トランス。出力トランスは、シングルならシングル用、プッシュプルならプッシュプル用を選ぶ。理由はココの(3)で説明したとおりである。

それでシングル用トランスでは、バイアスで流れるプレート電流以上の定格電流のトランスを使う。ちなみにシングル用出力トランスに表示されている電流値は、これ以上流すと壊れる、という値ではなく、この電流値までは周波数特性などの性能が保障される、という意味である。

プッシュプル用トランスの場合は、プッシュプル回路の2つの真空管の電流がバランスしていれば直流電流は打ち消されて流れないことになるので、トランスの表示は出力信号のワット数になる。この値も、このワット数の出力電力までは性能が保障される、という意味である。

電源トランスの電流容量は、各巻き線毎に総電流を足し算して計算して、それ以上の直流電流表示がされているものを使う。チョークコイルについても同様である。


仮組みのすすめ  

設計が終わって、そのまま部品を買って、シャーシーの上で本番配線して一発でうまく行くにこしたことは無いが、ベテランで無い限りそうも行かない。

設計に不安があるときもあるし、間違いもあるかもしれない。あと、綿密に設計するのが面倒で、適当に決めてある部分もあったりすると、本組みの前に回路チェックして、あいまいな部分をフィックスしておきたくなる。

そんなわけで、自分は本組みの前に、必ず仮組みをしてチェックする。というか、最近は歳のせいか面倒臭くなってきて、紙の上で理論追求するより、仮組みしながら電圧計ったり、波形を見たりして、それで値をカットアンドトライで決めたりする方が多いかもしれない。

仮組みは、だいたいが木の板(ブレッドボードという)の上に部品を乗せて、空中配線で結線し、電圧をチェックしたり、特性をチェックしたり、音を鳴らしてみたりしながら、素子値などを最終調整する。部品を交換したり、みのむしクリップで素子値を変更するなど、とても手軽に実験できるので、回路の動作の勉強にもうってつけである。自分も、この仮組みで、ああでもないこうでもないとやってみたおかげで、ずいぶんと勉強になった。ただし、仮組みの配線はだいたいがいい加減なので、ノイズや発振などの検証にはほとんどならないところは要注意である。

それからこれは当たり前のことだが、ブレッドボードでの実験は高圧部分がむき出しになるので、くれぐれもご注意を! いったん電源を切ったら、電解コンデンサにたまった電圧を20kΩていどの抵抗を介して放電して、それから作業をしよう。

かく言う自分も、電解コンデンサーにたまった電気で、数え切れないほどの回数感電している。みのむしクリップで仮付けした電解コンデンサーを外して部品箱に放り込み、あとでそれを取り出すときに強烈に感電し、コンデンサを放り投げてしまったこともある。みなさん、気をつけましょう。