超初心者のための
真空管アンプの工作、原理、設計まで
電気知識から真空管の原理、アンプの原理まで


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Fujiyama Electric
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1 はじめに ─ 設計するということ

ここでは、真空管アンプの設計の仕方を解説しようというわけだが、 この「設計」という言葉にはずいぶんと厳しい響きがあり、仰々しい感じがある。プロの仕事場はそういう厳しい世界なのは確かだが、ここではまるでノリの軽い世界を扱うつもりである。というわけで、ここで書く「設計のお話」はきわめて基本的なものばかりで、プロが仕事でやるようにあらゆるファクターを計算に入れたものではない。

これは僕の考え方だが、いま書いているこういう初心者向き解説というもの、実はそれほど正確を期す必要はないと思っている。時にはいくらか間違ったことが書かれていたり誤解を呼ぶようなことが書かれている場合だってある。まあ、明らかな間違いや独断は避けるように努力はするが、僕がここで目指しているのは、実は、ずいぶん昔の解説本のように、抜けや間違いや誤解を生む表現というのが平気でちりばめられていた、かの、昔の日本の相互信頼に基づいた一種の「いい加減さ」によって書かれたもののノリなのである。

それで、そういう解説書を読んだ当人が、試行錯誤しながら自力で実験に取り組んだり、勉強して知識を取り入れたりしているうちに、「なんだ、オレが昔読んでたこれ間違ってんじゃん」、などと気づいたりするのも、まあ、人生のうち、というか、初めから完璧に誤解の無いように解説本を書こうとすると、原理的に言って、結局はプロでも通用するものになってしまい、初心者には歯が立たないものになってしまいがちだ。

僕が学生だったころに夢中になって見ていた解説本になんだかおかしなことが書いてあることが後から分かっても、自分をこんなに長い間夢中にさせる機縁を作ってくれた当の解説本に対する感謝の心は変わりはしない。逆にひょっとするとその筆者は、初心者には理解が難しいだろうから適当にごまかして書いておいた、という理由かもしれないではないか。

以上、設計編を書くにあたって、厳しい方々に対する逃げ口上でした(笑)

さて、アナログ電子回路というのは、これまでに発案された回路を考えても、ほとんど無限に近いバリエーションがあり、それらを自在に設計できるようになるには相当の知識と経験が必要である。しかし、オーソドックスな真空管アンプであれば実は特に難しい検討をせずとも、定石の回路を組み合わせればできてしまったりする。それはただの回路のつぎはぎで、設計したことにはならんだろう、と思うかもしれないが、これは確実に設計の第一歩である。ただし、他の人に「ここになんでこの回路を使ったわけ?」とか「この抵抗の値は何でこうなのさ?」などと聞かれたとき、「いや、まあ、なんとなく」ではなく、明確に答えられる必要はある。逆に、そのコンセプトが明確に主張できれば、それがいくらつぎはぎでも自分で設計した回路なのだ、と主張できるのではないか。

そういうわけで、定石の回路を組み合わせることから入るのはいいやり方だ。それで、その回路についてちゃんと原理が分かっていれば、例えば別々のところから持ってきた二つの回路をつぎはぎしたとき、あれ、これはそのままじゃつながらないな、ということが分かるようになる。そうすると、その二つの回路を少しずつ変化させて、整合させることができるようになる。そうなれば、もう、初心者の域は脱しているわけだ。

まあ、これはギターのアドリブみたいなもんだ。最初はコピーしたフレーズを単にまぐれ当たり的に繰り出しているだけだが、これをしつこく続けているうちに、フレーズの選び方やくっつけ方に自分独自の方法論を見出すようになり、そして、そのプレイヤーのアドリブスタイルになって行く、と、これと同じことであろう。大切なのは継続することである。

「設計」という言葉はたしかに玄人っぽいが、もっと大きく、おおらかに捕らえてもいいだろう。そういう意味では、設計という言葉を使うよりは、むしろ、真空管アンプを「デザインする」と考えてみたらどうだろう。英語のdesignの訳語はまさに「設計」なのだが、日本語の語感でいう「デザイン」には、もっとアートっぽい遊び心が感じられて楽しいと思うのである。