サン・レミの療養所に移り住んで一年半が過ぎた。サン・レミの独房は静かであった。そして夜は暗く、内省的な雰囲気で人を取り囲む夜の暗さは、たった一点明るく灯されたろうそくの揺らめく炎の中に、幻想を見させるように誘うのである。闇の中のろうそくの光は、そのまま暗く閉ざされた心の中に、浮かび上がりは消え、通り過ぎては消え、ある時はぼんやりと、ある時はくっきりと、長続きしない光を伴う幻と重なるのである。サン・レミ滞在の終りのころに描かれたいくつかの画布 薄緑色の背景の中の薄緑色の壷にさしたこぼれんばかりの白いバラの花の合間に、刃物のような真黒い菱形の葉を配したものや、黄色の背景の中の黄色の壷にさされた青から黒に至る色で塗られたいちはつの花、あるいはコバルトブルーの金属的な空を背景に、まるで灯されたろうそくのように見える黒い細長い糸杉と大きな光輪を付けた一番星を描いた糸杉のある散歩道、といった画布は、当時の彼の独房の暗さと静かさを伝えている。それは暗闇の中で自身が怪しく光っているのである。 |
ノート
花瓶にさした白いバラ 1890年 サンレミ メトロポリタン美術館 |