僕はある時、ゴッホの糸杉のある麦畑という画布が、ジョットの描いた十字架から降ろされたキリストに酷似しているのを発見した。この二枚の絵は、何のことはなしに購入した、オムニバスのポケット画集に収録されていたのだ。この時代も画題も異なる絵が、僕には何故だか同じ絵なのだと思われてならず、頁の離れた二枚の絵を代わるがわる飽かずに眺めていた。

 


ノート

糸杉のある麦畑 1889年 サンレミ ロンドン・ナショナルギャラリー

僕の本の「糸杉のある麦畑」の章では、あるとき見つけたこの2枚の絵の類似について書いている。ジョットはルネッサンス前期の画家で、ゴッホが非常に尊敬する画家であった。このゴッホの糸杉のある麦畑と奇妙な一致を見せているジョットの作は、パドヴァにあるスロヴェーニ礼拝堂内部を飾るフレスコの「キリストの生涯」の中の一枚である。次に、そのジョットの絵をゴッホの絵と並べて、説明を記しておくので、僕が見たその類似点について分かっていただけると思う。

 

ジョットの絵における天空の悲しみにくれた天使たちの動きと、ゴッホの絵における奇妙な雲の動きが、かなり正しく呼応している様は、ちょっと不気味ですらある。この神秘的な一致については、本の中で細かく分析をしているが、僕の考えを要約しておく。ジョットの絵における三つの主要な主題が、次のような観念を経て、ゴッホの主要な主題と結びついている。

枯れ木 : 死せるキリスト : 母マリアの悲しみ
  ↓
死 : 天上における約束 : 地上における悲しみ
  ↓
糸杉 : 麦畑 : オリーブ

ここで、糸杉、麦畑、オリーブは、ゴッホが、修道院を改造したサンレミの療養所にいたほぼ1年半間の間に、非常な執着をもって何枚も描いた主題である。上記の3つの観念と、ゴッホの取り上げた3つの主題の関係については、彼の書簡の言葉からその意味を汲み取ることができる。概して、ここサンレミで描かれた彼の多くの絵は、非常に宗教色の濃いものに見える。自然の風景を題材にしてキリストの物語を描く、と彼自身がその書簡集で言及している通りである。

それにしても、こんな奇妙な一致を発見してしまうというのも、当時の自分がいかにゴッホと西洋絵画に無我夢中であったかを物語っている。フロイトの言うところの「精神感応」のようなことが自分にも起こったのだと思う。