中国福建省の廈門は上海と広州の間ぐらいにある海沿いの街である。廈門は中国語でXiamen(シァー・メン)と読むが、現地語では「アモイ」と発音するので、僕らももっぱらアモイと呼んでいる。今回は2回目の訪問で、料理の写真をいろいろ撮ってきたのでご紹介である。アモイの気候は南国。海と島が広がる、景色のきれいなのんびりしたいいところだ。

今回も現地の人たちに、食事どきになると毎回いろいろなレストランのフルコースをご馳走になり、ありがたい限りである。このページでは、たまたまオフの日に連れて行ってもらった現地の人に人気なアモイの土着料理を出すお店を紹介する。オーナーシェフは元々はどこぞの会社の社長だったそうだが、料理が趣味で自ら料理してはお客さんに振舞っていたそうだが、それが高じてとうとう独立して料理店を開いてしまった。それがこのお店で、その調理にはかなりのプライドがある、とのことである。

われわれが行ったこの日はちょうど中国の中秋節の初日にあたっていて、家族や親族でお店に繰り出して賑やかにすごす人たちで、お店もいっぱいだった。中秋節のお祝いは、日本ではちょうどクリスマスに相当するそうだ。いくつも並ぶ個室の一つを予約してくれ、さて、料理が出るまでのウェイティングにお茶を飲んでしばし雑談。

この電気式の機械は中国のオフィスにはどこでも入っているポピュラーなものだそうだ。お湯を沸かして、茶碗を温めて、お茶をたててお湯を捨てて、などすべて機能が揃っていて、よくできてる。

この、「手」の形をしたやつの上に乗せて、このように「どうぞ」とお出しするというわけだ。

さあ、そうこうしているうちに、待望の料理が出始めた。まずは、これ、鴨のぶつ切り土鍋煮。前もって予約しないと出てこない特別料理だそうだ。写真では大きさが分からないかもしれないが、かなり大きな土鍋で、恐らく1羽まるまる入っている。ショウユと香辛料の香りがよく、ふたをして長時間蒸し煮して作ってあるので、肉の芯まで味がしみこんで、柔らかくて美味。

お次は、いわゆる厚揚げをさっとショウユ味に炒めたこれ。厚揚げといっても豆腐をその場で揚げて、それに少し甘辛いショウユ味のタレでからめてある。あっさりした家庭の味で、おいしい。

卵と魚の炒めもの。あっさりとした薄味で、香ばしくて、少し歯ごたえのある魚と、パサッとした柔らかい卵の食感がよく、おいしい。これもよくできた家庭の味といった趣である。

さあ、でた。これも本日のハイライトの一つ。魚唇と大根の煮込みスープ。「魚の唇です」と紹介されて出てきたので、え、なにそれ? だったのだが、後で調べてみたらこれは魚唇(ユイ・チェン)と呼ばれるフカヒレの縁側という食材だった。5ミリ厚ぐらいのカルタ型に切ってある真っ白な魚唇。そして、これが面白いと思うのだけど、まったく同じ形に切ったやはり真っ白な大根が同じだけ入っている。一見同じに見えるけど、食べると全然違う。魚唇は食べてみると、ぐにゃっと柔らかく歯にまとわり付くほどねっとりした独特の食感で、そのほとんどがコラーゲンでできているそうだ。煮込みのスープも真っ白で、たぶん豚の胃を使った独特の獣臭がある濃厚な味。写真の右向こうに見えているのは紅醋(ホン・ツウ: 赤酢)で、これをさらっとかけて臭みを和らげていただく。これは、すばらしい料理だった。

はい、こちらはアモイでは、もう、超定番の魚の姿蒸し。これまで行ったどこのレストランのコースでも必ず入っていた。アモイは海沿いの街で海産物が本当に豊富なところで、どこのレストランも入り口に生簀が置いてあるような勢いである。あっさりした白身魚の蒸しものは、何度食べてもおいしい。

コースでは定番の麺料理、こちらはビーフンの炒めである。たくさんの野菜と缶詰肉が入ったまさに家庭の味という感じのやさしくて飽きの来ないショウユ味の焼きビーフンである。

エビの変わり揚げ。聞いたところだと表面には鹹蛋(シェ・ダン)の黄身がまぶしてあるらしい。ちなみに鹹蛋は、卵を濃い塩水に長期間つけて作ったもので、お粥のおかずなどにして食べる中国食品である。月餅などのお菓子にも使ったりする。その独特の味が揚げエビと相まって、変わったおいしさである。

お次はキノコのスープ煮。こちらのスープはあっさりとした塩味で、何のキノコかは聞き忘れたけど、シメジのような、大きなエノキのような感じのキノコがふんだんに入った優しい味である。

さあ、こちらも今日のハイライトの一つ、赤キノコと豚足の煮込みスープ。写真に写った赤黒い感じのものが、おそらく紅菇(ホン・グゥ)と呼ばれる赤い乾燥キノコで、その下にあるのが豚足のぶつ切りだ。紅菇はスープに入れるとスープを赤く染めるそうで、見てのとおり少し紫がかった赤でとてもきれい。スープのお味はこれまたあっさりとしているけどしっかりしたダシ味で、すばらしい。アモイの料理はこういう蒸しスープが特徴のようである。すべてのスープが違うダシを使っていて、感心する。そういえば、かの、有名な高級蒸しスープ料理の佛跳牆(フォー・ティャオ・チァン)は福建料理の代表だもんね、納得。

こちらは定番の青菜炒め。中国では箸休め的に必ずコースのあとの方で出てくる。定番どおり、ニンニクと共にあっさり塩味で炒め上げてある。これはちょうど小松菜のような味と食感だった。

小ぶりの牡蠣と大量の青ネギを入れたお好み焼き。ちょうど大阪のネギ焼きの味である。もっちりしていて、なかなかに美味。この料理はどうやらアモイでは定番料理のようである。

はい、これが最後の、豆腐のようにふるふるに柔らかい白身魚のショウユ煮。日本でいうとどうやらハゼのような魚らしい。ぶつ切りの青ネギと一緒に食べる甘辛い味、美味。

さて、以上である。今回、料理以外に写真を撮っておらず、お店の名前も場所もよく分からないのだけど、お店の周辺は庶民的な感じの町並みで、観光客などは来ない現地の有名レストランなのだろう。しかし、はっきり言えるのは、ここで出てきた料理は、これは日本では、まず、食えない味のものばかりだ、ということだ。何だか調理のノリが日本の中華と根本的に違う感じである。

特徴をいえば、スープのダシにいろいろな趣向を凝らしていて、味付けはあっさりしていて、油気が少なく、飾り気のないストレートな料理が多い印象である。海産物が豊富なのも手伝って、日本人の口に合う料理だと思う。それでも日本の中華とぜんぜん違う、というのは、やはりここぞというときに出てくる日本にはない中国独自の世界だろう。それは、やはりすばらしい土地の味である。

料理の写真ばっかりで、じっくり静かにお料理を楽しんだみたいに思うかもしれないけど、実際の宴会は、僕らを招待してくれた人が持ち込んだブランデーのボトルで乾杯一気飲みしたり、途中でビールを持ってきてもらってブランデーを混ぜて一気飲みしたり、なかなかに大騒ぎの一夜だったのである。

それにしても、毎回毎回、いろいろなところへ連れて行ってくれる現地の张さん、曾さん、杨さんをはじめみなさんに心底感謝である。

谢谢!