厦門での仕事でずっとお世話になった劉さんは湖南省の出身。厦門ではもっぱら現地の料理を食べていたのだが、オフの日に出かけたとき、劉さんが故郷の湖南料理を食べさせてあげる、ということで入ったのがこのお店。湖南省といえば、四川省の少し南にあり、辛くて酸っぱい料理で有名である。四川料理の好きな自分としては、やはり湖南料理は興味津々で。もう喜んで劉さんについていって、今回、本物のそれをたらふく味わってきた。お店はどこぞの繁華街の中にあって、活気があって騒々しくて楽しい庶民的な感じのところで、僕らが入った昼時は人でいっぱいであった。

まずは、これ。キュウリの辛みあえ、赤いトウガラシがたくさん入っているが、辛みはそれほどではなくて、生のキュウリをショウユと酢でその場であえてすぐ出した感じの食べ飽きないあっさりとした味。

こういう土器のような壺に入ってスープが出てくるのは、こちらの定番なのだろう。これは大根のスープ。豚肉でダシを取ったやさしい味である。

はい、しょっぱなから出ました、これがかの有名な紅焼肉(ホン・シャオ・ロウ)。なぜ有名かというと湖南省出身の毛沢東の大好物だったから。毛沢東はこの紅焼肉とトウガラシがあれば自分は生きて行ける、と言ったそうだ。豚のバラ肉をショウユで煮た変哲のない料理なのだけど、これはうまい。それで、ホントに赤い色をしているのにも感心した。日本のショウユだと黒くなってしまうけど、たしかに赤い。ぶつ切りのネギ、それから真っ赤なトウガラシも入っている。このトウガラシもさっきのキュウリのときと同じくほとんど辛くなくて、脂っこい豚肉とトウガラシとネギを一緒に食うとかなり幸せな味である。

春雨の炒めもの。いろいろな野菜と一緒にショウユ味に炒めた、やさしいお惣菜っぽい料理

牛肉を酸味をきかせて炒めたもの。黄色いのはたしかトウガラシだったと思うんだけど、忘れてしまった。あとで聞かないと。香菜もふんだんに入って、家庭料理風の仕上げと味なんだけど、これがうまくて箸が止まらないんだよね。

この一品は、たぶん湖南料理の典型だと思う。トウガラシと酢を利かせた魚の煮込み。辛味と酸味がたまらない味。赤いトウガラシと青いトウガラシはそれぞれ辛味も香りも異なっていて、たしか青い方がとても辛かった気がする。湖南料理にはふんだんにトウガラシが入っているが、かなりいろいろな種類のトウガラシを使い分けていて、辛味と香りがそれぞれぜんぶ違うのである。このへんが湖南料理、いいね。僕の知っている限りだと、四川料理ではそういうトウガラシの使い分けはあまりしていなかったように思う。

ピーマンと豚肉の炒めもの。こちらもピーマンなんだか、緑色のトウガラシなんだかわからない野菜が、バラ肉を厚めに切って油焼きしたものと一緒にショウユ味で炒めてある。日本のなんかに比べると、肉も野菜もワイルドで、けっこう満足する。

こちらはカエルのぶつ切りの石焼煮。例のあまり辛くないトウガラシと一緒にぐつぐつと煮え立って出てくる。美味。

中国で定番の青菜炒め、どこで食べても相変わらずのうまさ

さて、このいかにも家庭料理っぽい炒めものだが、劉さんはこの料理が一番好きなのだそうで、これがあればご飯を何杯でも食べられる、とのこと。豚のひき肉と、赤いトウガラシと、青いトウガラシ、そしてニンニクの芽みたいなものを細かく切ったものを炒めたもの。かなり辛くて、かなり酸っぱい。しかし、これは劉さんの言うとおり、本当にうまい。辛くて酸っぱい料理の傑作だ。これ、なんとか再現できないだろうかと思い少し調べてみたら、どうやらニンニクの芽に見えたのは、ササゲという野菜を酸味が出るまで発酵させた漬物のようだ。そっか、酸味の漬物はいろいろあるので近いものは作れるかも。

さて、以上、なんと10品以上も頼んでくれて、これでビールを飲んで、ご飯も出てきて、大満足である。円卓の様子は、こんな感じ。

にぎやかでカラフルな中国の土地の食事風景だよね。現地で円卓を囲んでいるときは、食って飲んでしゃべって夢中だから、あれよという間に食い終わってしまうわけだけど、こうしてあとで写真で見てみると、なんだか、本当にうらやましい光景だ。こういう料理は、やはり日本ではそのままの形では食べられないからね。

ところで、店に入るとこんな風に一人分の食器がセットになって出てくる。面白いよね。それでビニールをバリバリって破ると、ゴミは床にポイと捨てちゃう。いいねえ、中国ノリ!

というわけで、湖南料理だけど、最初は四川料理に近いのかな、と思っていたがはっきり言ってぜんぜん違っていた。辛味と酸味という点では似てはいるはずなんだけど、その意味がずいぶんと違っていて、感心した。湖南料理は中国料理の本などではそれほど大きく取り上げられない料理で、郷土料理的な扱いのようだ。たしかにそうかもしれないけれど、実際に食べてみると、その郷土風の香りは独特で、何とも言えずうまい。以上、厦門で食べた湖南料理でした。