パッシブセレクタに12AX7イコライザアンプを組み込んだプリアンプ
(*その後2A3シングルアンプに統合)


12AX7イコライザアンプでLPレコードの音の良さに目覚めたのであるが、もう、こうなるとプレイヤーの内蔵イコライザアンプには戻れず、自作した真空管のアンプで聞きたくなる。さらに、カセットのヘッドアンプをトランジスタで作り、これも味わいのある音で鳴ることが分かった。状況がこうなってくると、CD、レコード、カセットをセレクターで選択して、即、聴けるようにしたくなる。ということは、いままで使っていたパッシブセレクターに真空管イコライザアンプを内蔵して、セレクターで一発切り替えできるようにするべきであろう。というわけで、結局、プリアンプの製作となったわけである。

プリアンプといっても、トーンコントロールなど付ける気はまったくないので、要は、パッシブのセレクターにイコライザアンプを内蔵するだけのことである。しかし、思えば、昔のプリアンプには、トレブル、ミドル、バスのトーン3段、ラウドネススイッチ、バランスコントロールにノッチフィルタ、と実にいろいろ付いていた。で、たくさん贅沢に付いているほど高級、というイメージがあった。価値観も変われば、変わるものである、今では極力なにもついていない、シンプルさが逆に受け入れられることが多くなったようである。僕もその一派である。

ただ、ひとつのイコライザアンプで、レコードとカセットを兼用しようとしているので、入力の切り替えと、イコライザ定数の切り替えが必要になる。L、Rの2チャンネルあるので、計4回路の切り替えが必要になる。今使っているロータリースイッチは2回路なので、結局、これを6回路のものに交換しないといけない。そこで、これは最近覚えた技なのだが、リレー切り替えを使うことにした。とはいえ、リレーのコントロールに1回路必要なので、どのみちロータリースイッチは買い換えないといけない。結局、4回路のロータリーと4回路のリレーを買ってきた。

もうひとつの問題はカセットのイコライザ定数の決定である。ずいぶん製作記事をあさったが、カセットのイコライザアンプはほとんど見当たらない。結局、神保町の古本屋で、むかーしのテープレコーダー読本のようなものを見つけ、探してみると、補正特性が紹介されているのを見つけた。この本、時代ものなので実に高価で買う気がしない、そこでその場で定数を覚えて店を出て、すぐにメモに書きとめる、という作戦を使った。むかし電子工作本を買う金がなかった小学生のころよく使った手である、実になつかしい。本によれば、補正特性は、RIAAに比べ、ターンオーバーの時定数が半分で、ロールオフがなく平坦であることが分かった。つまり、CR型のRIAA補正回路の、ターンオーバー用のCを半分にし、ロールオフ用のCを抜けば良い、簡単である。

さて、前に作ったオーディオセレクターの改造であるが、なかなか大変であった。B電源とヒーター用100Vは、親機のメインアンプからコネクターで持ってくるので、メインアンプもいくらか要改造である。プリアンプ製作は、ヒータートランス、直流点火用の整流平滑、電源LEDの取り付け、そして、ロータリースイッチの交換とリレーの追加、2球イコライザアンプの取り付け配線、といった作業になる。真空管2本はシャーシーの中に入れてしまうことにした。

完成して、鳴らしてみると音はまずまずである。しかし、イコライザアンプ単体のときには無かったハムが乗るようになってしまった。それほど大きくはないので、通常のリスニングポジションではほとんど問題ないのだが、これは気になる。以前は入力ジャックから初段の真空管のグリッドまでシールド線を使っていたのだが、リレーをはさんだせいもあり、普通の線材を使ったせいかもしれない。ちょっと昔なら、やみくもにシールド線に張り直して、網シールドをアースにつないだりつながなかったり、あるいはアースの引き回しを試行錯誤で変えてみる、などしたところだが、僕もいくらかは進歩があった。アースを含めた信号経路を辿ってみると、割とおおきなループを形作っていて、たぶんヒータートランスの磁束がそこを通り、閉回路中にあるグリッドリーク抵抗にハム電圧が発生しているのだろう、と考えた。

やはり、入力回路部分はシールド線を使うべきで、ピンジャック入力から、まっしぐらに初段のグリッドリーク抵抗の両端に信号を渡さなければかなりのノイズを拾うようである。電源はメインアンプから取って、ケース内にはヒータートランスのみ、それも距離がかなり離れているので大丈夫だと思ったのだが、1mV級の信号ラインはそうはいかないようである。シールド線の浮遊容量は気になるものの、PHONO入力であれば、むしろ外来ノイズを逃がす数百pFのコンデンサをわざわざ入れる場合もあるのだから問題ないであろう。とまあ、一応ロジカルに考えて、入力部分をシールド線に変更し、アースの引き回しを変えたところ、ハム、ノイズ共かなり減った。

いままでのように、いろいろなノウハウを脈役無く仕入れると、行き当たりばったりの対症療法で、うまくいったとしてもほとんど偶然に近くなる。あれこれのノウハウは、それぞれ別の状況におけるノウハウなのだから、ちょうど薬のように一緒に処方すると悪化することもある、当たり前である。ノイズの軽減といった種類の問題は、間違いなくとことんロジカルに理解して、対処するべき筋の問題であろう。この点に関しては、ネットでたどり着いた、ぺるけさんの「私のアンプ設計マニュアル」に大変お世話になった、ここに記して感謝したい。さて、西洋医学的に行くか、漢方的に行くか、ということは、実に様々な種類の問題の解決にあたって現れる、相対する、両極の考え方に思えるが、この両者は明確に区別はできず、なめらかにつながっている、という事実の方が重要であろう。論理的手法と経験的手法は、時に水と油のように対立するが、それをきれいに混ぜ合わせる何らかの触媒があるはずで、それを見つけることが大切なのではなかろうか。

最後にやったことは、もう必要ないレコードプレイヤーの内蔵ヘッドアンプを撤去することであった。裏ぶたを開けてみると小さな基板にICがひとつ乗ったヘッドアンプがある。撤去して、カートリッジからの信号を直づけした。取り外した基板を調べてみると、内蔵アンプオンオフスイッチをオフにしても、信号線にヘッドアンプの入力回路がぶら下がったままになっていることがわかった。100pFでグラウンドに落ちている、外来ノイズ対策であろう。撤去後に試聴してみると、コンデンサによるハイ落ちが無くなって、はっきり分かるほど音がクリアにビビッドになっている。さらに、以前あったターンテーブル回転時のハムがすっかりなくなっている。

これでプリアンプが完成した。パッシブセレクターだったときになかった青いLEDを付けた。プリアンプの上にメインアンプを重ねて置くので、メインアンプのLEDも揃えて青に変えた。なかなか快適である。