フェンダーデラックスリバーブの修理

電源トランス内部断線のためノグチトランスに交換。原因は抵抗断線によるC電圧異常


ここ最近、電子工作はごぶさたぎみで、このコーナーも更新が止まったままだったのだが、ひょんなことで真空管ギターアンプを修理することになったので、その顛末でも書いておこうと思う。

ある日、渋谷の行きつけブルースライブバーのテラプレーンのマスターからぽつんとメールが入り、フェンダーのデラックスリバーブのトランスが壊れちゃったんだけど交換できますか、とある。実はこのとき、作るあてもないのにアメリカからフェンダーチャンプの電源トランスと出力トランスを個人輸入したばかりだったので、フェンダーのトランス購入、交換が楽勝なのは分かっていた。いい世の中である。ネット販売で注文して、一週間もすれば空輸されてくる。ちなみに参考までに、ギター、真空管周りの部品はここ Antique Electronic Supplyでほとんど手に入る。

大丈夫ですよー、とすぐにメール返信したが、待てよ? トランスってどのトランスかも分からないし、第一壊れた原因が分からずに交換すればまた壊れることは目に見えている。つまりちゃんと修理しないとだめに決まっている。そこで、あれこれメールで問い合わせたところ、スイッチ入れても、パイロットランプも点かず、真空管も光らず、電源トランスが壊れている、とのこと。えー? 電源トランスって壊れるの? そんなの聞いたことないぞ、という感じで、原因追及は必須のはず。

そこで、ある日、テスターやら工具やらを持ってテラプレーンへ出かけた。ふだんはこのお店では僕はギタリストなのだが、今回はリペアマンである、ちょっと新米の派遣ぽくて照れくさい(笑) マスターによると、楽器屋3件に持って回り、3件目でようやく調べてくれ、その結果電源トランスの断線だと言われたとのこと。修理には、交換するトランスがないため、トランスを巻き直さなければならず6万円ぐらいかかる、と言われたそうである。おまけに検査代として6千円とられたそうで、なんかボッタクリくさい。そのときは、ああトランス巻き直しじゃそのくらいかかるかな、などと思ったが、考えてみると秋葉原の春日トランスで特注電源トランスを巻いてもらっても、このていどのやつなら1万円ちょっとで巻いてくれるわけで、やっぱりボッタクリだ。

さて、そこで、シャーシーを外してみると、このアンプ、デラックスリバーブのリイシューもので、回路は昔とほぼ同じだが製造がポイント・トゥ・ポイントではなく、プリント基板である。ありゃー、プリント基板じゃ回路が追えないなー、と思いつつも、当たりをつけて電源トランスを調べてみると、確かに1次側が断線している、間違いない。そのとき、お店にたまたま(というかほとんど毎日いるのだが)バンドのボーカルのOさんがいて、理科系なうえ、年代的に真空管は詳しく、作戦会議である。やっぱり、電源トランスが切れるなんて聞いたことねーぞ、でもプリント基板じゃ原因調べるの無理じゃねーか? など、ということで行き詰まってしまう。

そのとき、ふと、思いついたのが、ならばプリント基板を全部あきらめて捨てちゃって、新たに回路を組み直す、という策であった。この案、自分で思いついたとたん一気に飛びついた、おっ、これは楽しそうだ、ほとんどアンプを新規自作するのと変わらないぞ、しかも、回路と部品をちょっといじって自分好みの完璧なブルースアンプにしちゃおう、などと、持ち主をまったく無視して盛り上がってしまった。ただ、その場合、回路を最低限にしたいので、トレモロなどはフォトカップラーなど部品の関係もあってあきらめて、という感じでないと、いつになったらできるか納期の保証ができない。持ち主にその辺を確認してから進める必要がある。と、ここでは真面目に書いているが、実は、お店では酔っぱらっていることもあり、そうだそうだやっちゃえ、とかなんとか無責任に勝手に決定してしまい、さっそくヘッド部分をその場で梱包し、そのまま家に持ち帰ってしまったのである。

翌日正気にかえり、持ち主に確認を取ることにした。冷静になって考えると次の2つの選択肢となり、その旨メールを書いた。
1)元の回路をそのまま残し、トランス交換。原因と思われる怪しい部品を交換。再発の可能性あり
2)回路全取っ替え。再発無し、音は良くなる可能性あり。そのかわりトレモロ、ノーマルチャネル無し
ほどなくして持ち主から返事があり、トレモロは残したいので1でお願いします、とのこと。さて、困った・・ トランス交換はできるけど、原因がはっきりしないまま交換したらまた同じようなはめになる。持ち主はそれを覚悟で使います、と言ってくれているとはいえ、修理を引き受けたからには、現実にはそれは許されないではないか。人生とはそういうものである(ってことないか 笑) うーむ、あのとき酔ったノリで持ち帰らなければ良かった、などといっても、もう遅い、後には引けない。

何はともあれトランスの交換は必須である。電源が入らなくちゃ原因を調べることもできない。フェンダーオリジナルのトランスを本国から取り寄せるのはOKだが、トランスは重いので送料が五千円以上かかって、かなり割高になる。それに、本当の原因も分からない状態で高い金払ってトランス取り寄せも考えものだ。ということで、デラックスリバーブのオリジナル回路図やカタログでトランスの仕様を調べ、国産の汎用電源トランスで似たやつを探すことにした。ノグチオリジナルトランスにまあまあ似たのがあるので、これに決定し、通販で購入した。送料込みで8千円、そこそこの値段である。ただ一カ所、C電源用タップが、オリジナル50Vのところ、こちらは70Vである。多少回路変更が必要である。

そこでまず、オリジナル回路を参照しながら、プリント基板の上面からテスターで回路をなぞって、C電源周りの回路を起こしてみることにした。本当はプリント基板を外して裏返し、目視すればいいのだが、結構面倒くさく、また、真空管ソケットに相当数のリード線が延びており、古いだけに、外すと信頼性が落ちそうな気もする。ま、C電源回路ぐらいなら何とかなるだろう。ということでテスターであたってみると、リイシューとはいえ、原回路とちょっとずつ異なっているようである。そうこう調べているうちに「あれ? この抵抗、導通が無いぞ」というのがたまたま見つかった。C電源整流用ダイオードにシリーズに入っている小さな抵抗である。

この問題の抵抗だが、実は基板を見たときに真っ先に変だなあ、と思ったものなのだ。というのは、基板上の抵抗すべてが普通のカラーコード抵抗なのに、なぜかこれひとつだけが茶色で、よくよく見るとDALEの1%精密級抵抗で22.1Ωと読める。この抵抗は場所的に、ダイオードの保護兼電圧降下用であることは間違いなく、精密級で22Ω、図体も1/4W以下、というのはどう考えてもおかしい。で、案の定、というか、この抵抗がいかれているのである。さあ、これで分かった。ここが断線していると出力管のバイアスがゼロになり、特性表を見てみると通常の3、4倍のプレート電流が流れる。それで電源トランスが過電流で切れたのだ、間違いない。それにしても6V6はよく大丈夫だったな、と思うものの、まあそういうワケなのだ。期せずして原因が特定できた、嬉しいねえ、さっそく持ち主に、原因が分かったのでトランス交換でOK、再発もしませんよ、とメールを書いた。

ところで、この抵抗の場所だが、電源投入時には、ダイオードとフィルタコンデンサーを仮にゼロと考えると、50Vの電圧が22Ωの両端にかかり、単純に2Aもの電流が瞬間的に流れることになる。こんな小さい抵抗じゃやがては切れることは間違いなさそうである。というわけで、これはたぶん基板製造所のハンダ付けのおばちゃんの単純ミスで、部品の付け間違えじゃないかな。つまり初期不良、というやつである。ま、このアンプ、持ち主は中古で購入しているのでクレームはつけられないわけであるが。

電源トランスが到着した。ノグチトランスは、大きさがちょっと違うのだが、取り付け穴をヤスリでちょっと広げると、うまい具合にマウントできた。配線して、まずは真空管をささずに電源を入れてみた。さて、C電源である。測ってみると電圧はゼロではなく、-10Vぐらい出ている。してみると、この抵抗、完全断線では無いようである。これで、もっとはっきりした。この回路のバイアス標準値は-35Vで、プレート電流は30mAぐらいだろうが、-10Vのバイアスだと、3、4倍までは行かず、おそらく60mAから80mAぐらいになるだろう。ここ半年、使えてはいたが、ときどきヒューズが切れていた、というのは、抵抗が徐々に死んでいき、プレート過電流が徐々にひどくなっていった、と想像できる。真空管が死ぬ前にトランスが死んだ、というわけである。音は確かに鳴っていただろうけど、音質はどうだったんだろうね。ギターアンプの場合、オーディオ的に悪くても、かえって良く聞こえることもあるので問題なかったのかもしれない。

さて、問題の抵抗を切り離した。テスターで測ると100kΩぐらいの導通がある、なるほどね。代わりに5kΩ、1/2Wの抵抗をハンダ付けし、電源を入れ、C電源を-35Vに調整する。真空管をすべてさして、再度電源投入すると、ヒーターも点灯し、出力トランス1次に電流計を入れてプレート電流を測ると25mAになっており、バイアスも適正のようである。さらに各部の電圧も、だいたいOKである。そこでスピーカーをつなぎ、ギターをプラグインして弾いてみると、うん、音もあっさりと出た。めでたく修理完了である、おめでとう!

いやー、気持ちいいねえ、いっぱしのリペアマンの気分である。しかし、お店で6万円と言われたのが、たった1万円でできた。なかなかの優良リペアである。ま、テラプレーンで生ビールを何杯かタダでごちそうになったが(笑)