50BM8三結プッシュプルアンプ(設計・試作)

友人の依頼で制作しているプッシュプルステレオアンプ、現在試作調整中


真空管アンプ作りを始めてから、いろんな友達と飲むたびに、「真空管アンプどう? 欲しくない? 作るよ」などと、無謀にも宣伝しているのだが、本気で欲しいという人もほとんどいなかったが、先日とうとう1人現れた。同じ会社のブラジル育ちの韓国人の友人で、夜の社食で生ビールを飲みながら話したら、音楽好きの彼はすでに200Wだかの巨大アンプがあるのでメインはそれで十分だけど、ときどき「こう、床の上で、ごちゃごちゃしてて、あっちこっち線がうにゃうにゃして、だらららー、という」聞き方をしたいらしく、はっきり言って意味がよく分からないのだが、なんかワイルドなアンプが欲しいらしい。結局、予算5万円までということで、作ってくれたら買い取る、ということになった。やった、これでアンプをもう一台作る口実ができた。ホントのホントを言うと、真空管アンプはちょっと危険なので、ビビらないこともないのだが、まあ、注意して作れば大丈夫だろう。

さて、ワイルドなアンプである。ヤツは、ブライアンイーノ等(だったっけな?)のパルスミュージックを大音量で聞く系のヤツなので、いくら5万円以下の廉価版真空管アンプといえ、パワーは必要だろう、ということで、今こそプッシュプルをやるときだ、ということになった。まあ、真空管アンプはパワー以上に驚くほどでかい音がするので大丈夫だろう、とは思ったが、それにしても片チャンネル10Wぐらいは欲しいところである。あと、ワイルドというと、どうもNFBはかけたくなくなる。とすると三極管ということになるが、安い三極管ってなかなか無いんだよね。じゃあ、安い五極管を三結で使うのはどうだ、ということになる。安い五極管は何だ、ということになると、すぐに6BM8が思い浮かんだけど、あれは実は結構高い。ということで、50BM8はどうだろう、となった。春日無線で二本でなんと900円で売っている、やけに安い球である。

6BM8系は、五極管にしては内部抵抗が低く、三極管結合にしてもあまりパワーが減らないらしい。この辺は、サイトで見つかった「50BM8(T)ppパワーアンプ」をだいぶ参考にさせて頂いた、記して感謝する。その記事によれば、三結プッシュプルで9W取れるという。なかなかいい線である。50BM8ならヒータートランスも要らないし、電圧増幅・位相反転も含めて片チャンネルたった二本で構成できる、廉価版アンプにはぴったりである。そこで、さっそく手持ちの50BM8二本で仮り組みして実験してみた。プッシュプル出力トランスがなかったので、シングル用トランスの3kと7kのタップでやってみた。固定バイアスで、プレートに300Vぐらいかけると、ほんとだ、9Wぐらい軽く出てるじゃないか、スゴイねー。いままで作ったのはすべてシングルアンプで、6L6ギターアンプでさえ6Wが最大だったから、ハイパワーがけっこう単純に嬉しい。そこで、CDプレイヤーとスピーカーをつないで鳴らしてみたら、これがけっこうな迫力でびっくりした。こんな小さいトランスで迫力の低音が十分に出ている。やっぱり、世に言うように、プッシュプルってスゴイんだねー。

ところで、それにしても、50BM8に300Vもかけていいんだろうか、という疑問があった。何せ6BM8のスクリーングリッドの定格は250Vであり、三結で300Vかけたら単純に定格を超えてしまう。しかし、いろいろ探したが三結のときの最大定格がどこにも見つからない。「手作り真空管アンプ」の掲示板で質問してみたところ、結局のところメーカー発表のデータを探すしか決定打はない、ということらしい。唯一見つかる50BM8の昔のデータだと、プレートもスクリーングリッドも250V、とある。いかにも低い電圧で、その通り電圧を低くすると出力が5Wぐらいまで減ってしまい、ちょっと寂しい。さて、どうしよう。

そういえば、昔の真空管ギターアンプの真空管ってよく飛んだよなあ、ということを思い出した。なんといってもロックをやってると、アンプのボリュームを10にしてディストーションとサスティーンをかけると超カッコ良く、ついつい真空管を酷使し、挙げ句の果てに逝ってしまうというわけである。昔は真空管は消耗品だったので、各社けっこう定格超えの設計をしていて、これがまた、ギターの場合、壊れる寸前の真空管がワイルドないい音を出すのである。そうだ、今回の注文は「ワイルドな」アンプだっけ、定格超えで使っちまおうか。実は現在ではこのような乱暴は自粛し、真空管は大切に使わなければいけない、という態度が主流なのだが、あえて反抗というわけである。まあ、そのせいもあり、50BM8という安真空管を使うわけで、もし50BM8が品切れになっても、ちょっと改造すれば6BM8に差し替えられるし、6BM8だったらSOVTEKが製造してるし、大丈夫だろう、というわけである。それに、ヤツに、でかい音で聞くと真空管が飛ぶかもしれないけど、きっと飛ぶ寸前はスゴイ音がするぜー、と言うのも楽しそうだ。彼はけっこうワイルドなヤツなので、このノリを分かってくれるであろう。

さて、三結の最大定格であるが、やはりサイトで見つけた「THE真空管」によれば、三結のたいていの場合、プレート損失を守れば、スクリーングリッド損失は定格内に納まり、その限りにおいては、スクリーングリッド最大電圧が、五結の定格を超えていてもあまり問題は起きない、とあり、それほど心配はいらないようである。また、MT管のプレート最大電圧は550Vと考えてよい、ともある。こちらのサイトも色々勉強させて頂いている、記して感謝したい。それにしても、50BM8の古いデータを見るとプレート電圧も250Vとあり、結局、何が正しいのかは分からないのだが、真空管というのはそういうものなのだろう。仮に定格超えでも、すぐに破壊するわけでなく、寿命に影響するわけなので、あとは使う人の考え方なのだろう。ということで300Vで使うことにした。

回路であるが、超オーソドックスに、電圧増幅1段に、PK位相反転を経て、プッシュプル駆動とした。NFBは一応かけられるようにしておいて、音の違いが劇的なら例によって「BLUES TURBO」スイッチとして付けるかもしれない。あるいは、NFBなしの状態で、三結と五結の切り替えスイッチの方が劇的かもしれない。この辺は実験結果次第である。あと、パルスミュージックをかけるなら方形波やノコギリ波がガンガンやってくるだろうから(偏見かな)、電源レギュレーションを良くして、固定バイアスとすることにした。人にやるアンプで固定バイアスはヤバイかな、と思ったけど、ヤツは親友でもあり、いかれたら修理を引き受ける終身サポート体制ということにすれば問題ないだろう。ということで、レギュレーションの観点からダイオード整流。ホントはチョークを使うべきなのだが、予定している小型シャーシーに乗るスペースがきびしそうなのと、何か、無性に、あの緑色のホーロー抵抗をシャーシーの上に取り付けたくなり、チョークは止めて、330Ω20Wのホーロー抵抗にした。それで、チョークが無い分だけケミコンを投入する。レギュレーションの意味合いからも、なるべくでかいのを入れることにし、デカップリングによるチャンネルセパレーションもしっかり取ることにしよう。それにしても、またまた自己バイアス、整流管の構成にならなかった。

さて、まだデカップリングをしっかりやっていない状態だが、ステレオで仮組みして鳴らしてみたら、けっこうな迫力である。出力トランスは東栄の2500円安トランスだが、その迫力は、2A3シングル+タンゴU808と互角に感じる。いやー、プッシュプルってやっぱりスゴイんだね、音に迫力があるように感じるのは、あながち気のせいでもないようである。ただ、ひとしきり聞いた後に、2A3シングルに戻して同じ音楽を聞いてみたら、やっぱりこっちの方が音がいい(当たり前か 笑) 迫力が同じまま、輪郭がはっきりしていて、精緻で、透明感がある(ほらほらオーディオマニア風になってきたぞ 笑) しかし、まだ分からない。きちっと回路をフィックスしてもう一回試聴すれば変わるかも知れない。あるいは、迫力に透明感をプラスするためにNFBは必要なのかもしれない。それにしても、ワイルドなアンプと言いながら、けっこうないい音のアンプになりそうである。というか、真空管というのは本当に音がいいデバイスなのかもしれない。ということで、組み上げデザインはせいぜい思いっきりワイルドにすることにしよう(以下、組み上げ編へ続く)

組み上がった状態で特性を測ったのが以下である。NFBをかけた特性で、ほぼ理想的な感じになっている。もっとも、最後の試聴で思ったが、NFBをかけない方が音が良く感じる。下のNFBなしの特性だけ見ると、低域が不足っぽく、DFも足りなくようだが、実際に聞いてみると別に低域不足には聞こえないので不思議なものである。もっとも、NFBなしの-1dBが50Hzといっても、10Hzぐらいまでかなりなだらかで、10Hzで-3dBぐらいなのだから、低域不足とは言えないのだろうが。

  NFBなし NFB (3.5dB)
出力 8W + 8W(目視無歪み最大) 8W + 8W(目視無歪み最大)
周波数特性 50Hz 〜 20kHz (-1dB) 10Hz 〜 40kHz (-1dB)
ダンピングファクター 1.0 3.3
歪み率 - -
残留ノイズ 0.8mV 0.5mV
クロストーク -60dB以上(20Hz 〜 20kHz) -60dB以上(20Hz 〜 20kHz)
最大出力時入力 0.6V 0.9V

 

(最終回路は「50BM8三結プッシュプルアンプ」の項にあります)