やってもやらなくてもよさそうなことはやらないほうがいい


これは、かの兼好法師の徒然草からの抜粋である。そして、徒然草の中でこのフレーズを言っているのは兼好ではなく、どこかの偉い坊主である。つまり、引用の引用というわけ。徒然草は、僕の最大の愛読書のひとつである。これほど、いわゆるダンディな読みものはないと思う。啓蒙書、とか教養書、という読み方をするにはあまりにもったいないほど、洒落がきいた、おかしさが随所に漂っている。この兼好という人、三十台後半に出家して、そしてこの書物を書いたらしいが、俗世にいたときはさぞかし女性にもてたことだろう、色男じゃなきゃ書き得ない調子が随所に現れている。徒然草で言われていることは、ときに矛盾している、と言われることもあるらしいが、そんなことは何ほどのことでもない。あるところで、酒はだめだ、といったこと思えば、酒はいいものだ、といい、子供を持つのはばかばかしい、と言ったかと思えば、子供を持たねば情けはわからぬ、という、そして、俗世の色香に浮かれて日々を送ることを徹底的に軽蔑してみたかと思うと、女の色香について実に深い語り口を見せたりする。しかし、これすべて、自然なことで、あるひとつの事柄について矛盾していることを言っているのではなく、その事柄そのものが相矛盾するものを内包して、その事柄たらしめている、という様子を率直に述べているにすぎない。最近の現代では、我々にも余裕ができてきて、洒脱な味、というものを大切に感じ取ることも多くなったが、そんなときこの兼好は、洒落者として現れて来るであろう。しかし、兼好には、それに加えて、厳しい理論家の相があるところが偉いところだ。まあ、これをダンディと言うんだね