バッド・テイスト(Bad Taste)
(ピーター・ジャクソン)

ふつう、ホラー映画というのはあまりシリアスになりきれず、お笑いドタバタと紙一重なものなのである。そのせいで、一般人たちのホラー映画の感想をあれこれ読んでみても「笑えた」という表現がけっこう多い。ホラー映画をヒューマニズムの否定と解した昔の自分は、実はそういう作品のとらえ方をとても嫌っていた。とはいえ、たとえばテキサス・チェーンソーのような第一級のホラーも第二作目以降は確実にお笑いに転落するわけで、それは自然なことなのであろう。さて、このバッド・テイストであるが、これは最初からドタバタ・コミカル系ホラーである。超低予算で、俳優なんかも監督の友人を使っていて、彼らの演技のアンチ・ハリウッド的な素人くさいところが、これまた、ホント魅力的なのである。出てくる宇宙人たちも、まあ、これでもかというほどアホ丸出しでかなり笑える。主演級のデレクは実は監督その人がやっていて、さてエンディングでは、イカレまくったデレクがチェーンソーをぶん回して宇宙人の住む星へ乗り込んで行く。地上では、デレクの仲間たちが夕日に向かって走るサイケ風の車に乗って去ってゆく。そのときにかかる曲がレイドバックしたアメリカンロックで、いつものように一仕事終えて葉巻を吸ってよたを飛ばして現場を引き上げて行くこのラストシーン、なぜだか、何度見ても、生きる希望が湧いてくるから不思議である。あと、監督はロード・オブ・ザ・リングなどなどで有名なかのピータージャクソンなんだよね。この作品は実は、彼の無名時代の第一作目。やっぱり、さすがである。