まず、彼の歌詞について一般的に言われていることを紹介しておこう。ロバートの歌詞は、ブルースの「慣用句」の使用が少なく、一つの曲を通してわりと意味の通る歌詞を創作している、と言われている。当時のブルースマンは、慣用句を気ままに繰り出しながら、わりと脈絡なく1曲を構成してしまうこともあったのだが、ロバートの歌詞にそれが少ない、というのである。ブルースの慣用句といえば、たとえば有名な「I woke up this morning, my baby's gone」とかあるのだが、もちろんロバートもこれら慣用句を使っているが、自分なりに消化して自分のストーリーに組み入れている、という。

自分が彼の歌詞を読んでみると、そんな気もするけど、他の同時代のブルースマンもわりとそうしているので、ロバートだけ特別とは言えなさそうに思う。ともあれ、まずは彼の残した29曲につき、十分にその歌詞の意味内容を味わってみることは無駄ではないと思う。そこで、ここでは、彼の残した全29曲の日本語訳を載せることにする。すべて書下ろしの訳文である。ロバートの歌詞の日本語は、すでにいくつも出されているので、ここでの訳文はそれらにまたひとつ新訳を付け加えるのみである。

80年以上前に歌われた英語の歌の言葉の意味を正確にとらえるのは実際、容易ではない。これを訳すにあたって、本場アメリカのネットに多くある、スラング辞典や、歌詞の意味詮索フォーラムや、アメリカ人の書いた解釈などをいろいろ参考にしたが、実際、ロバート・ジョンソンの歌詞ともなると、たとえアメリカのネイティブですら意味の通らないところがけっこう出てくる。加えて、発音が不明瞭でネイティブであっても聞き取れない部分もあり、そして、80年以上前に彼が放浪したローカルな街のスラングや符丁のようなものも入り込んでいるわけで、完璧に解明するのはかなり難しいはずである。

本訳詞は極力、そういった、オリジナルなアメリカで流通している知識を参照して、間違いの少ないように配慮はしたが、完全には無理である。もし、間違いに気づいた方がいたら私に連絡して頂けると、嬉しい。もちろん、すでにいくつも出ているロバート・ジョンソンの日本語訳も、言葉の意味を取るために参考にさせてもらった。本項の各訳詞の後には、訳すにあたって意味の取れなかったところや、ダブルミーニングなところや、理解に必要な知識などについて、訳注という形で補足しておいた。

あと、日本語の文体についてだが、自分はこれにはお手本がある。

これまでいろいろな訳詞を見てきたが、ブルースの日本語訳でもっともよくできていると思ったのはポール・オリヴァー著の「ブルースの歴史」の訳文の中でのブルースの訳詞であった。訳者は米口胡氏。この本は英語で書かれたいわゆる歴史書で、翻訳文はわりと淡々としていて、文中で引用されるブルース曲の歌詞の訳文も極めてそっけない訳文になっている。しかし、変に意訳をせず、色付けをせず、ストレートに直訳に近い形で訳したのが功を奏しているのであろう、ブルースの、突き放したような、でも親し気で人懐っこいようなニュアンスがとてもよく出ていると思う。

というわけで、僕のこのロバートの訳詞の日本語文体は、米口胡氏の訳文にだいぶ影響されていることを申し添えて、氏への謝辞に代えたい。



KINDHEARTED WOMAN BLUES

やさしい心の女ってのをものにした 俺のためおよそなんだってやってくれる
やさしい心の女ってのをものにした 俺のためおよそなんだってやってくれる
でも、やつら、悪い女でね、俺の好きにはさせてくれないもんだ

俺はあいつを愛してるさ でも彼女は俺を愛しちゃいない
俺はあいつを愛してるよ ああ、でも彼女は俺を愛しちゃいない
あの女、本気で好きになっちゃったんだ、彼女を放っておくなんて耐えられないよ

およそたったひとつだけ
このジョンソン様が飲んだくれるわけはね
おまえが俺をあしらうさまを思い出しちゃあ辛いんだよ
それで考え始めちまったんだ
ねえ、あんた、聞いてるかい?
俺の生活は前とすっかり変わったような気がするよ
おまえはホントに俺の心を傷つける その何とかいう男の名前を口に出すたびに

彼女はやさしい心の女 いつもどんなひどいことするか考えてる
彼女はやさしい心の女 いつもどんなひどいことするか考えてる
俺を殺しとけばよかっただろ? 心の中ではそう思ってるんだろうし

いつか、いつか、おまえとは握手をして、おさらばだ
いつか、いつか、そう、握手して、さよならだ
もうおまえを愛し続けるのはやめるよ だって、単純に、何の満足もないんだから

訳注
  • Kindhearted womanは日暮泰文氏によれば、その当時は「ジゴロを抱えた女」の意味で、往々に暴力的で嫉妬深くあまり魅力的でない容貌の女を指したそうである。この歌詞でも、同じ女が「やさしい心」だったり「よこしまな心」だったりしているので、その通りなのだろう。ただし、ここでは「やさしい心の女」と直訳のままにしておいた。

英語オリジナル

I BELIEVE I'LL DUST MY BROOM

これで明日の朝起きたらさ、きれいさっぱりここを出てゆくぜ
これで明日の朝起きたらさ、きれいさっぱりここを出てゆくぜ
なあ、あんた、そうすればお前の好きだっていうあの男が、あんたの部屋にいつくってことだろ

俺は手紙を出しまくるよ、知ってる街にかたっぱしから電話もかけまくるぜ
俺は手紙を出しまくるよ、知ってる街にかたっぱしから電話もかけまくるぜ
もしウェスト・ヘレナで見つからなきゃ、きっとイースト・マンロウあたりにいるだろうよ

俺は、ダウンタウンの男だれかれかまわず、ってな女はいらないよ
俺は、ダウンタウンの男だれかれかまわず、ってな女に用はないぜ
あいつはホントに性悪女だ あんな女はストリートを流すのを禁止してやらなくちゃ

俺は、とにかく、とにかく、故郷の家へ戻るよ
俺は、とにかく、とにかく、故郷に家へ戻るよ
ここじゃおまえも俺をひどい扱いだが、クニに帰りゃそうもいかないんだぜ

これで明日の朝起きたらさ、きれいさっぱりここを出てゆくよ
これで明日の朝起きたらさ、きれいさっぱりここを出てゆくよ
なあ、あんた、そうすればお前の好きだっていうあの男が、あんたの部屋にいつくってことだろ

俺は中国へだって電話するよ、俺のかわいい彼女があのへんにいるかどうか
俺は中国へだって電話するよ、俺のかわいい彼女があのへんにいるかどうか
それでもしフィリピン島で見つからなけりゃさ、きっと彼女、エチオピアかどっかにいるだろ

訳注:
  • Dust my broomは字のままだと、箒を捨てる、みたいな意味だが、「今いるところを捨てて、出てゆく」という意味のスラング。部屋を箒で塵払いして最後にその箒をゴミ箱に捨てて、きっぱり出て行く、ということだそうだ。

英語オリジナル

SWEET HOME CHICAGO

ねえ、俺と一緒に行かないか
ねえ、俺と一緒に行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

ねえ、俺と一緒に行かないか
ねえ、俺と一緒に行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

さあ、1足す1は 2
2足す2は 4、だ
ここじゃ俺もひどく荷が重い、だから決めた、俺は行くよ
泣きたい気分だよ、ねえ、あんた 一緒に俺と行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

さあ、2足す2は 4
4足す2は 6、だ
いつまでもここでだらだら遊びまわったところであんたもどっかの商売女に持ってかれるってだけだろ
しかし、泣きたくなるよ、おまえ、一緒に俺と行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

さあ、6足す2は 8
8足す2は 10、だ
なあ、女が一度あんたをだましたらさ ぜったいまた同じことをするもんだ
しかし、泣けてくるよ、ねえ、一緒に俺と行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

俺はこれからカリフォルニアへ出かけるよ
そっからアイオワのデモインズへ行ってさ
あんたには俺の助けがいるって、誰かがきっと俺にそういうだろうよ
泣けてくるじゃないか、ねえ、あんた、一緒に俺と行かないか
カリフォルニアの土地に戻ってさ、懐かしい故郷のシカゴへ

訳注:
  • カリフォルニアにシカゴがあるみたいな歌詞になっていることが、昔から問題になっていたが、結局、カリフォルニアに金鉱があって、そんな金の出るいいところへ行こうよ、という意味、ということに落着したようだ。
  • 3番のI'm heavy loadedは、直訳的に「荷が重い」にしておいたが、スラングとしては、「金がたくさんたくさんある」や「ひどく酔っ払っている」という意味もあるので、そっちかもしれない。
  • 4番の印象的な早口You gonna keep on monkeying around here friend-boy you gonna get your business all in a trickは、trickのスラングに「男から金を巻き上げる売春婦」または「金で買春する男」という意味があるので、このように訳しておいた。
  • 全体を読むと分かるが、一緒にシカゴへ行こうと誘っている相手は女ではなく、友人のようである。

英語オリジナル

RAMBLING ON MY MIND

どっかへ行っちまいたい、放浪したい気持ちでいっぱいだ
どっかへ行っちまいたい、放浪したい気持ちでいっぱいだ
彼女と別れるのはつらいよ でも、あいつがあまりにひどい仕打ちをするので

あれこれの嫌なことで俺の心がいっぱいだ
ねえ、おまえ、嫌なことばかりだよ
おまえといま別れるのはつらいよ でも、おまえはあまりにひどい仕打ちじゃないか

駅まで走って 朝一番の郵便列車をつかまえるんだ
(列車が近づく音が聞こえる)
駅まで走って 朝一番の郵便列車をつかまえるんだ
俺は何とかいう女のせいでブルースにとりつかれ、あの子は俺のせいでブルースをつかまえる

俺は今朝ここを出てゆくよ、腕を組んで泣きながら
俺は今朝ここを出てゆくよ、腕を組んで泣きながら
ここであの子と別れるのはつらいよ でも、あいつはあまりにひどいじゃないか

あれこれの嫌なことで俺の心がいっぱいだ
あれこれの嫌なことで俺の心がいっぱいだ
あの子とは別れなくちゃ あいつはあまりにひどい仕打ちだしね


WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND

一緒にずっといてくれる、いい子ができたなら
一緒にずっといてくれる、いい子ができたなら
空いてる時間は全部彼女に使って、愛して、ちゃんと、正しく扱うもんだ

俺はあの子にひどいことをしたけど、なんでそんなことしたのだか理由がわからない
俺はあの子にひどいことをしたけど、なんでそんなことしたのだか理由がわからない
そのときのことを考えるといつでも俺は、ただただ両手をもみ合わせて泣きたくなるんだ

俺はいまからでも謝れるかなって思うんだ、それとも彼女は俺に情けをかけてくれるかな
ああ、彼女は俺を哀れにおもって許してくれるかな
彼女は茶色の肌の女、ほんとにやさしいいい女だったよ

ああ、おまえ、俺が正しいかどうかはわからないけど
お前の考えでは、俺はあってるか間違ってるか、どうだろう
一番親しい友達にくっついていなよ、そうすればお前の敵だってお前をひどいようにできないはずだよ

すぐそばにずっといてくれる、いい子ができたなら
すぐそばにずっといてくれる、いい子ができたなら
空いてる時間は全部彼女に使って、愛して、ちゃんと、正しく扱うもんだ


COME ON IN MY KITCHEN

俺が愛したあの女は、親友から奪った女だった
で、またどこかの悪党が運をつかんで、彼女を奪い返したとさ
俺のキッチンへ入れよ、外は雨が降りそうだからな

ああ、女はいっちまった あいつが戻って来ないのは知ってるさ
もっとも俺は女の最後の5セント玉まで、一切合財取り上げてやったけどね
俺のキッチンへ入れよ、外は雨が降りそうだからな

(ああ、あの風の音が聞こえるかい?)
(ああ、あのびゅうびゅういう音が聞こえるかい?)
俺のキッチンへ入れよ、外は雨が降りそうだからな

それで、女がトラブルになるとな、まわりはよってたかって女を放り出す
女が味方になってくれる友達を探したって、誰もいない
俺のキッチンへ入れよ、外は雨が降りそうだからな

冬がやってきた、ゆっくりとね
おまえもそんな干上がったような有様じゃ、この冬はとても越せないぜ
だから俺のキッチンへ入りなよ、外は雨が降りそうだからな

訳注:
  • Come on in my kitchen ― 俺のキッチンへ入れよ、という言葉に特段のスラング的意味は無いようである。「俺のキッチンへ入れよ、外は雨が降りそうだから」というのは何のことはない状況描写のようなものだろうけど、とても強い詩情を感じるから不思議だ。

英語オリジナル

TERRAPLANE BLUES

ひどく寂しい気分だよ、あんた、俺の嘆きが聞こえるだろう
ひどく寂しい気分だよ、あんた、俺の嘆きが聞こえるだろう
俺のテラプレーンを走らせてるやつは誰なんだ、俺がいなくなってから

あんたのヘッドライトをフラッシュしてみたけど、クラクションも鳴りゃあしない
(どっかの誰かがマシンのバッテリーをあげちまったんだろうよ)
ヘッドライトをフラッシュしてみたけど、クラクションすら鳴りゃあしない
コネクションがどっかでショートしてるんだな、ずっと下のあそこのあたりで

あんたのその覆いをめくって、オイルをチェックしようとしているところ
あんたのその覆いをめくって、オイルをチェックしようとしているところ
アーカンソーを下ったあたりに俺の愛してる女がいるんだよ

さあ、それ、そのコイルすらぶんぶんいわず
小っちゃな発電機はスパークもしない
モーターの調子がひどく悪いんで
バッテリーをチャージしないとだめみたいだ
それで、俺は嘆きっぱなし
ああ、頼むからオレにひどく当たらないでくれ
俺のテラプレーンを走らせてるやつは誰なんだ、俺がいなくなってから

ミスター・ハイウェイさんよ、道をブロックするのは止めてくれ
ああ、だから、頼むから道をブロックするのを止めてくれないか
俺は彼女をかろうじて時速100マイルで走らせて、とにかくそこへ行かないといけないんだよ

ああ、ああ
あんた、いったい、俺がこうして嘆いて泣いているのを分かってるのかい
俺のテラプレーンを走らせてるやつは誰なんだ、俺がいなくなってから

俺はあんたと深くつながって、あんたのそのワイヤーに絡み合っていたいんだよ
俺はあんたと深くつながって、あんたのそのワイヤーに絡み合っていたいんだよ
それで、俺が、その可愛いスターターをぶちこむと、その引火プラグが俺に火をつけるのさ

訳注:
  • テラプレーンは当時の大衆向きの車の名前。読むと分かるように、女を車にたとえた内容で、ロバートの曲の中ではもっともセクシャルな歌詞だと思う。

英語オリジナル

PHONOGRAPH BLUES

ベアトリス、あいつの持ってる蓄音機、切ない声ひとつ上げやしない
ベアトリス、あいつの持ってる蓄音機、切ない声ひとつ上げやしない
いったい、俺がどんなひどい事をしたっていうんだ どんなひどい事をあの哀れな女が聞いたっていうんだ

ベアトリス、俺はその俺の蓄音機が好きなんだ、でも、お前はネジ巻鎖をぶっ壊したな
ベアトリス、俺はその俺の蓄音機が好きなんだ、あんた、ネジ巻鎖をぶっ壊したな
それで、お前は俺の愛を取り上げて、そのまま他の男にあげちゃうんだな

そう、俺たち、そのソファの上でもやったし、その壁のところでもやったよな
でも、俺の針は錆びてしまって、ああ、もうぜんぜんできないよ
そのソファの上でもやったし、その壁のところでもやったよな
でも、俺の針は錆びてしまって、もうぜんぜんできないよ

ベアトリス、このままじゃ気が狂うよ、すっかり正気をなくすよ
ああ、このままじゃ気が狂うよ、すっかり正気をなくすよ
俺の家にまた着るもの持って帰って来てさ、俺ともう一回やり直してくれよ

あいつの持ってる蓄音機、切ない声ひとつ上げやしない
あいつの持ってる蓄音機、切ない声ひとつ上げやしない
いったい、俺がどんなひどい事をしたっていうんだ。どんなひどい事をあの哀れな女が聞いたっていうんだ

訳注:
  • レコードの溝にはまってトレースする針を、女性と男性にたとえたセクシャルな内容である。

英語オリジナル

32-20 BLUES

彼女を呼びにいっても無駄だよ、来ないから
彼女を呼びにいっても無駄だよ、来ないから
ホット・スプリングズじゅうの医者を集めても彼女はもう助からないね

もし、お前の彼女が手に負えなくなって、もうやりたくないなどと言い出したら
もし、お前の彼女が手に負えなくなって、もうやりたくないなどと言い出したら
俺の32口径20型ピストル持って行って、そいつを真っ二つにしてやれ

あいつは38スペシャルを持ってるけど、それじゃぜったい役不足
あいつは38スペシャルを持ってるけど、それじゃぜったい役不足
俺のは32口径20型、俺の陣営はもう完璧ってわけだ

女を呼びにやっても無駄だよ、来ないから
女を呼びにやっても無駄だよ、来ないから
ホット・スプリングズじゅうの医者を集めてもあいつはもう助からないね

俺はピストルをぶっ放すよ、マシンガンもぶっ放すよ
俺はピストルをぶっ放すよ、マシンガンもぶっ放すよ
夢中にさせたのはあんただろう、そら、その男が、あんたの所へお出ましだ

おい、お前、昨晩はどこへ行ってたんだ
おい、お前、昨晩はどこへ行ってたんだ
髪の毛はぐちゃぐちゃでまともに口もきけないありさまじゃねえか

彼女の持ってる38スペシャルも、ああ、なかなかのもんだよ
彼女の持ってる38スペシャルも、ああ、なかなかのもんだよ
でも俺の32口径20型はこれは、もう、地獄の業火ってやつだ

女を呼びにいっても無駄だよ、来ないから
女を呼びにいっても無駄だよ、来ないから
ウィスコンシンじゅうの医者を集めてもあいつはもう助からないね

おい、お前、昨晩はどこへ行ってたんだ
おい、お前、昨晩はどこへ行ってたんだ
陽がすっかり上がるまで、お前は家に帰って来なかったな

ああ、ぜんぜん休まるときがないんだよ
ああ、ぜんぜん休まるときがないんだよ
32口径20型を胸の上に乗せて、横になっては落ち着かず


THEY'RE RED HOT

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
女を一人モノにした、彼女ひょろっと背は高く
キッチンで寝てるけど、足はホールにはみ出てる
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので、そう
つまり それが彼女の売りものね そう

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
2個で5セント、4個で10セント
もっと売っちゃいるけど、そっちはオレんじゃない
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので そう
つまり それが彼女の売りものね そうそう

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
部屋の女から手紙が来たよ
彼女いいもの手に入れて、それ持ってもうすぐうちへ来るって
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので そう
つまり それが彼女の売りもので そう

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
(それ、熱過ぎだろ!)
ビリーのやつ、花蜂の巣に戻ったって
それ以来、やつには休む間もないときた
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので つまり
そう それが彼女の売りもので

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
(よお、熱いタマーレと戯れ過ぎんなよ、だってホントはそいつら真っ黒で、もしもタマーレやり過ぎりゃあ)
背骨はひっくり返しちまうわ 腎臓は眠らせちまうわ 肝臓はちぎれちゃうわ 心臓なんかタマーレのせいでバクバク鳴っちゃっうわ
だって 真っ赤でホットで それが彼女の売りもので つまり
そう それが彼女の売りもので

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ほら、婆ちゃんいなくなって、それで爺ちゃんも
残った子供たちいったいどうすりゃいいの
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので つまり
そう それが彼女の売りもので

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
オレとベイビーの買ったV-8フォード
オレたちステップの上でアレを全部くるくる巻きあげて
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので つまり
つまり それが彼女の売りもので そう

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
(もう熱すぎだろ、なあ!)
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
サルとヒヒは草の上で転げ回って
サルはヒヒのグッド・ガルフ・ガスに指を突き立てた
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので そう
つまり それが彼女の売りもので そう

ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので
女を一人モノにした、ひょろっと高くて
キッチンに寝てると、足ははみだしホールの上
ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので つまりさ
それが彼女の売りものってわけ

訳注:
  • タマーレ (Tamales)は、メキシコの伝統的な食べ物で、トウモロコシの生地をバナナの皮に包んで蒸したもの。ここでは、熱くて辛いタマーレを彼女が売ってる、と繰り返し歌うが、文字通りの意味に加えて、ホット(セクシャル)な女を意味していたり、売春を意味していたり、多義的なものだと思う。
  • ちなみにTamalesはTamaleの複数で、アメリカでの一般的な発音はTamalで「タマール」、でも「タマーリー」と最後をeeで発音する人もいるらしい。元のスペイン語は「タマーレ」で、ここではタマーレとしておいた。
  • 当時の戯れの歌と思われるが、原文にはたくさんの俗語や隠語が含まれていて、荒唐無稽な言葉遊びも多く、いろいろ参考に訳したが、間違いもあると思う。いずれにせよ、言葉の意味以外の意味を同時に持っているダブルミーニングで書かれているのは明らかで、それを本当に味わいたいなら英語の原文を見た方がよい。

英語オリジナル

DEAD SHRIMP BLUES

今朝起きたら俺のエビが全部死んでいた
今朝起きたら俺のエビが全部死んでいた
なあ、あんたのことを考えてたんだよ、俺の嘆きが聞こえないかい

俺が持ってたのは死んだエビ、誰かが俺の池で釣りをしている
俺が持ってたのは死んだエビ、誰かが俺の池で釣りをしている
あんたには特上の餌を差し上げたろう? ひどいことなんかできやしないよ

俺が何をしても、あんた、その口はお高く止まったまま
俺はかつて釣りをしていた穴のあたりで、立往生したまま
俺が何をしても、あんた、その口はお高く止まったまま
かつて釣りをしていた穴から、あんたは俺を立往生させたまま

俺が持ってたのは死んだエビ、誰かが俺の池で釣りをしている
俺が持ってたのは死んだエビ、誰かが俺の池で釣りをしている
やつら、俺の出目魚を捕まえてその骨をバーベキューにしてるところ

さあ、あんたは俺のエビを取って、俺をダメにしてしまった
俺はもうぜんぜんできないよ、自分をなんとかしてもらうまでね
俺のエビをつかまえて、ああ、あんた、それをダメにする
なあ、俺はもうぜんぜんできないよ、自分をなんとかしてもらうまでね

訳注:
  • 曲のテーマになっている「死んだエビ」だが、これはアメリカのどこかで読んのだが「死んでしまって、もう跳ねないエビ」というのは、エビは男性器の隠喩で、死んだエビはインポテンツを指すそうだ。これは全体の歌詞を読んでもかなりうなずける解釈だと思う。
  • 読んで分かるようにセクシャルな歌である。たとえば「俺の池」は女性器だろうし、そこで「誰かが釣りをしている」は間男であろう。
  • 4番の、Catchin' my goggle-eye perches and they barbecuin' the boneは隠れた意味が分からないので、そのまま直訳しておいた。
  • 5番の、Until I get myself unwoundは直訳では「自分自身を落ち着かせるまで」というような意味だが、unwind(unwoundの現在形)にはマスターベーションの意味もあって、その手のセクシャルな意味とダブルミーニングなのだろう。

英語オリジナル

CROSSROAD BLUES

十字路へ行ってひざまずいた
十字路へ行ってひざまずいた
天の神様、どうかこの可哀想なボブをお助けください

ああ、十字路に立って車を止めようと手を振った
十字路に立って車を止めようと手を振った
誰も俺に気がつかず、みな通り過ぎてゆく

ああ、日が沈み、闇が俺を取り囲む
ああ、闇が俺を取り囲む
俺を愛してなぐさめてくれる女は、ここじゃ一人も見つからなかった

走れ、走れ、それで友達のウィリー・ブラウンに言ってやるんだ
走れ、走れ、それで友達のウィリー・ブラウンに言ってやるんだ
神様、十字路に立ち尽くす俺はこのまま沈んでいってしまいます

訳注:
  • 4番のWillie Brownはデルタブルースのシンガー&ギタリストで、チャーリー・パットン、サン・ハウスの相棒である。ウィリーは、レコード上では2曲しか残していないが、デルタ・ギター・マスターと言われるほどの腕前だった。ロバートは若いころ、このウィリーにギターの手ほどきを受けたらしい。

英語オリジナル

WALKING BLUES

朝起きたら靴を手探り、分かるだろこのウォーキング・ブルース
朝起きたら靴を手探り、でも、分かるだろこのウォーキング・ブルース

なあ、このまるっきり一人の部屋を吹き飛ばしたい気分だよ だって朝起きたら俺の可愛いバーニスがいなくなってる
ああ、孤独な部屋など吹き飛ばしたい気分 朝起きたら俺のすべてがなくなってた

そう、今朝には出て行くよ、もし貨車にタダ乗りしないといけないとしてもさ
これまで俺はひどい目にあってた、別に死んだって気にはしないけど
今朝出るよ、ああ、もし貨車にタダ乗りしないといけないとしてもさ
ベイビー、俺はずっとひどい目にあってた、あんた、別に俺は死んだっていいけどさ

ああ、悩めるブルースも悪かないという人もいるけど
この気分は今までで最悪だよ
ああ、なかにはオレに悩みのブルースも悪かないというやつもいるが
今回のは今までにないほど最悪の気分だよ

あの女は頭のてっぺんからつま先まで素早いエルジン時計みたいなやつで
女の行くところほとんどどこでも、男がドル札持ってる限り巻き上げる
ああ、頭の先からつま先まで(ああ、ハニー、そうだろ)
最後の一ドルまで吸い上げる、女の行くところほとんどどこでもな

訳注:
  • この曲はサン・ハウスが1930年に吹き込んだMy black mamaをベースにしていて、歌詞も、たとえば4番などはまったく同じで、このフレーズは多くのブルースマンに歌われた慣用句の一つでもある(Some people tell me that the worried blues ain't bad...)
  • 三番のRide the blindはスラングで、当時の荷物を運ぶ貨車(Frieght train)の貨車と貨車の間の隙間に飛び乗って無賃乗車することを示している。
  • 最後の5番の歌詞は意味が取りにくい。Elginはアメリカの地名で、そこでは時計産業が有名だったそうだ。そのせいで歌詞中の"Elgin movement"は「エルジン時計のように正確に軽やかに」という意味だとされているが、本当のところロバートがどういう意味でこの言葉を挟んだかは、分からない。
  • 同じく5番で、Break in on a dollarという意味も、調べるといろいろ出てくるが、ここでは、たとえ1ドルでも金に汚い、みたいな意味にしておいた。

英語オリジナル

LAST FAIR DEAL GONE DOWN

最後の公正取り引きが終わったってやつ、公正取り引きが終わった
おお、主よ、最後の公正取り引きが終わりました
このガルフポート・アイランド鉄道会社の

アイダベルさん、今度は泣かないでくれよ、アイダベルさん泣かないで
もしあんたが5セントに嘆いてたら、10セントになったら死んじゃうよ
だから泣かないだろうけど、でも、その金は俺のにはならないな

あんたのやり方が大好きだ、あんたのやり方が大好きだ
おお、主よ、彼女のやり方が大好きなんです
このガルフポート・アイランド鉄道会社で

俺の監督、俺にひどく当たる、俺の監督、俺にひどく当たる
おお、主よ、俺の監督は俺にひどく当たります
このガルフポート・アイランド鉄道会社で

飯場AとBとCへ行ってくれ、飯場AとBと、あとCだ
おお、主よ、飯場のAとBとCへ
このガルフポート・アイランド鉄道会社で

ああ、最後の公正取り引きが終わった、公正取り引きが終わったってやつ
おお、主よ、最後の公正取り引きが終わりました
このガルフポート・アイランド鉄道会社の

クニへ帰るために働いてる、クニへ帰るために働いてる
おお、主よ、クニに帰るために働いているのです
このガルフポート・アイランド鉄道会社で

そのアレがすぐに鳴りっぱなしになるなんてことはない、アレがそんなすぐ鳴りっぱなしになるなんて
おお、主よ、アレはそんなにすぐになりっぱなしになるなんてないんです
あのガルフポート・アイランド鉄道会社で

訳注:
  • Last fair deal gone downはそのまま訳すと「最後の公正な取引が落ちた」になるが、いろいろ調べても意味がはっきり分からない。アメリカのブルース研究者がこれにつき書いていたことを紹介しておくと、ガルフポート・アイランド鉄道会社が買収されて、それまで鉄道仕事は給金が良かったのに、大量に首切りをしたりしてダメになってしまった、という意味だそうだ。
  • 5番の飯場A,B,Cは、音的にそう聞こえるが、ロバートが本当にA,B,Cと言いたかったかは分からない。
  • 最後の「鳴りっぱなし」が何を指しているかは、よく分からない。

英語オリジナル

PREACHING BLUES

今朝起きたら、ブルースが人間みたいに歩いてる
今朝起きたら、ブルースが人間みたいに歩いてる
ひどく悩ましいブルース、右手を俺に貸してくれ

ブルースが頭の上に倒れてきて、引き裂かれて真っ逆さま
ブルースが頭の上に倒れてきて、引き裂かれて真っ逆さま
逃げ続けろ、哀れなボブ、振り返ることもできない

ブルースは憂鬱な、震える、悪寒
(そう、そいつらに説教してやってくれ)
ブルースは憂鬱な、震える、悪寒
憑りつかれたことがないなら、これからも無いといいんだが

ああ、ブルースは痛みの走る、ひどい、心臓の病気みたいなもの
(やれよ いま、するんだろ? 言ってみろ)
ああ、ブルースは痛みの走る、ひどい、心臓の病気みたいなもの
結核で衰弱するように、ゆっくり俺を殺してゆく

雨を降らせて、この俺のブルースを洗い流してやる
雨を降らせて、この俺のブルースを洗い流してやる
醸造所へ行って一日中そこにいるか

訳注:
  • この曲は、聞くと分かるように何かしらの「叫び」のような歌で、歌詞の意味もかなり脈絡がない。ほぼ直訳で訳しておいた。
  • 最後のバースの、「I can study rain」が本当にそう言ってるかは分からないし、そう歌っていたとしても意味が通らない。
  • 同じく最後の「Going to 'stil'ry'」というのはdistilleryつまり酒の醸造所のこと。

英語オリジナル

IF I HAD POSSESSION OVER JUDGMENT DAY

もし俺が最後の審判を好きにできるんだったら
もし俺が最後の審判を好きにできるんだったら
俺の愛してるあの女なんか、祈る権利すらなくなるわけだ

山へ登って目の届く限りあたりを見渡した
山へ登って目の届く限りあたりを見渡した
どこかの男が俺の女をモノにして、孤独なブルースが俺をモノにする

俺は、床にのたうち、転がりまわって、一晩中泣いてたよ
俺は、床にのたうち、転がりまわって、一晩中泣いてたよ
それで朝起きたときには俺のかわい子ちゃんはいなくなってた

腕を組んでゆっくり立ち去って行くほかなかったよ
腕を組んでゆっくり立ち去って行くほかなかったよ
俺は自分に言った、お前だっていつかきっとつらい目にあうぜ、とね

さあ、いい子だからこっち来て俺の膝の上に座んなよ
さあ、いい子だからこっち来て俺の膝の上に座んなよ
やつらが俺をどんな風に扱ったか、あんたにぜんぶ話したいんだよ

訳注:
  • ブルースのスタンダードとして有名なRollin' and Tumblin'の歌詞がここでは3番に出てくる。
  • 歌詞として面白いのが最後のバースであろう。また別の「いい子」が現れて、その子に、前のダメになった子の愚痴を言っている。

英語オリジナル

STONES IN MY PASSWAY

行く手を石がふさいでる、俺の道は夜のように暗い
行く手を石がふさいでる、俺の道は夜のように暗い
俺は心に痛みを抱えている やつらは俺のやる気を奪ってしまった

俺にはさえずる鳥もいるし、歌う鳥も持ってるよ
俺にはさえずる鳥もいるし、歌う鳥も持ってるよ
愛している女がいるんだよ、でも別に彼女なんかどうでもいい

俺の敵は俺を裏切って、とうとうこの哀れなボブを追い越していった
俺の敵は俺を裏切って、とうとうこの哀れなボブを追い越していった
一つはっきりしてるのが、やつら俺の道にやたら石を置いて行った

あんたは俺の人生を取り上げようとして
それから、俺の愛もな
俺の道を作ってくれはしたけど
いま、あんた何をしようとしてるんだい
ああ、俺は嘆いているよ、たのむから、友達でいてくれよ
道端で泣いている俺の声が聞こえたら、ドアを開けて俺を迎え入れてくれ

俺は家へ帰るのに三本足で、なあ、頼むから道を開けてくれないか
俺は家へ帰るのに三本足で、なあ、頼むから道を開けてくれないか
俺の女には悪いと感じてたんだが、結局、あんた、俺はここを出て行かないといけないんだよ

訳注:
  • 最後のバースでなぜいきなり「三本足で家に帰る」と言っているか、分からない。

英語オリジナル

I'M A STEADY ROLLING MAN

俺は常に転がっている男、夜と昼の別もなく
俺は常に転がっている男、夜と昼の別もなく
でも、俺、可愛い女の一人も見つからなかったな、なあ、こんな風に一緒に転がれる

俺は、つららが木にぶら下がってるときでも、転がっている男
俺は、つららが木にぶら下がってるときでも、転がっている男
さあ、俺が嘆いてるのが聞こえるだろ、ああ、地べたにひざまずいて

俺は激しく働く男、これまでずっと長い間
俺は激しく働く男、これまでずっと長い間
で、どっかのちんけな男が俺の金を使い込み、ああ、あんた、そんなのはもう無しにしたいよ

あんたの女が欲しいもの全部を、いちどにあげちゃうなんてできないよ
あんたの女が欲しいもの全部を、いちどにあげちゃうなんてできないよ
なあ、彼女は出て行くつもりだし、女の心はどっかの男が占めていると

俺は常に転がっている男、夜と昼の別もなく
俺は常に転がっている男、夜と昼の別もなく
でも、俺、可愛い女の一人も見つからなかったな、なあ、こんな風に一緒に転がれる

訳注:
  • Steady rolling manはいい日本語がない。rollはたくさん意味があって、転がる、ふらつく、進んでゆく、などなどあるが多義的であろう。一番直訳な「転がる」にしておいた。
  • 4番のMonkey manは、妻の尻に敷かれている男、女の言いなりになっている男を指すそうだ。

英語オリジナル

FROM FOUR TILL LATE

四時から夜遅くまで、手をもみあわせて、泣いていた
四時から夜遅くまで、手をもみあわせて、泣いていた
あんたのダディーのこの俺は、ガルフポートへ向かって発つところ

メンフィスからノーフォークまでは車で36時間
メンフィスからノーフォークまでは車で36時間
男ってのは囚人みたいなもの、満足することを知らない

女は化粧台、そして、男はいつもその引き出しを出たり入ったりうろついている
女は化粧台、そして、男はいつもその引き出しを出たり入ったりうろついている
それでたくさんの男が、エプロン付きのオーバーオールを前に垂らしてる

四時から夜遅くまで、彼女はろくでもない男を束にして連れてくる
四時から夜遅くまで、彼女はろくでもない男を束にして連れてくる
あの女ができることと言えば、男の評判を落とすことぐらい

俺がこの街を出て行くときは、あんたには末永く幸せにと願うよ
俺がこの街を出て行くときは、あんたには末永く幸せにと願うよ
で、俺が戻ってきたときは、おもしろい物語をたっぷり聞かせてやるさ

訳注:
  • 3番のWearing apron overallは直訳しておいたが、意味がはっきり分からない。その前の歌詞も合わせて何かしらセクシャルな意味であろう。

英語オリジナル

HELLHOUND ON MY TRAIL

動き続けないと 動き続けないと
ブルースがあられのように降ってくる ブルースがあられのように降ってくる
ああ、ブルースがあられのように降ってくる ブルースがあられのように降ってくる
そんな毎日が俺を悩ませる
地獄の犬が俺をつけ回す
地獄の犬が俺をつけ回す

もし、今日が、クリスマス・イヴだったら
もし、今日が、クリスマス・イヴだったら、明日はクリスマスってわけだ
もし、今日が、クリスマス・イヴだったら、明日はクリスマスってわけだ
(あんた、一緒にいる時間はないかい?)
俺にただ必要なのは、抱きしめられるかわいい女だ
とにかく、ただ、この時間をやり過ごすために
そう、この時間をやり過ごすために

ホット・フット・パウダーを振りかけたな、俺のドアの外の周りじゅうに
俺のドアの外の周りじゅうに
ホット・フット・パウダーを振りかけたな
あんたの男のこの俺の、ドアの外の周りじゅう
そのせいだろうよ、俺が放浪したくてたまらなくなるのは
むかし行った場所へあちこち
むかし行った場所へあちこち

外で風が強くなって来るのがわかるよ
木の枝の先の葉っぱが震えている、木の上で震えている
外で風が強くなって来るのがわかるよ、木の枝の先の葉っぱが震えている
俺がただ欲しいのは、かわいい女の子
いつでも抱ける女
そう、そんな女

訳注:
  • 3番のホット・フット・パウダーは当時の黒人の間で使われたフードゥ(Hoodoo)と呼ばれる魔術のための粉の一つで、相手をその場所から追い出す効果があるそうである。
  • 最後のバースの「木の枝の先の葉が震えている」という描写は、自然描写のほとんど無いロバートの詩の中で異色で、しかも詩的な情緒があり秀逸。

英語オリジナル

LITTLE QUEEN OF SPADES

あの女は可愛いスペードのクイーン 男らは彼女を放っておけないな
あの女は可愛いスペードのクイーン 男らは彼女を放っておけないな
彼女がその体をひらいて見せるたびに ああ、ひんやりぞくっとするものが俺の全身を走るんだよ

俺は絶対にあのギャンブル女をモノにするよ
俺は絶対にあのギャンブル女をモノにするよ
有り金を全部やっちまうはめになるような女は、なあ、あんた、結局男には必要ないんだよ

みなが皆、あの女と寝るとすごいっていうよ だってあいつアレを使ってる
みなが皆、あの女と寝るとすごいっていうよ だってあいつアレを使ってる
彼女、体の使い方を分かってるんだよ でも、もっとも、こっちにはひどく堪えるけどね

なあ、かわい子ちゃんよ 俺はずっと王様で、あんたはクイーンだったよな
なあ、あんた、俺はずっと王様で、それで、あんたはクイーンだったよな
二人の頭を合わせて使ってさ なあ、あんた、それで俺たちの金、もっと増やそうじゃないか

訳注:
  • アメリカのスラング辞典によるとQueen of spadesは、黒人男とセックスするのが好きな白人女、という意味がたくさん出てくるが、ロバートの時代もそうだったか分からないし、さすがにそれは無いだろう。ただ、もちろん読んで分かるようにセクシャルな歌詞である。
  • 3番のShe got a mojoのモージョ(Mojo)はよく知られているように、性的能力を指す。
  • 全体を見ると、女、金、女、金という順番で歌っていて、なかなか殺伐としている。おまけに最後には、その女の子とカネ儲けの算段をしているというから呆れるというか、さすがというか。

英語オリジナル

MALTED MILK

麦芽ミルクを飲み続けている、ブルースを追い払おうと
麦芽ミルクを飲み続けている、ブルースを追い払おうと
ねえ、あんた、俺と愛し合うならいまが歓迎だよ、五月に咲く花のようにね

麦芽ミルク、麦芽ミルク、俺の頭になだれ込む
麦芽ミルク、麦芽ミルク、俺の頭になだれ込む
えらくヘンなヘンな気分だよ、上の空でペラペラとしゃべってる

ベイビー、もう一杯ついでくれ、それで、このオレをもう一回抱きしめてくれ
ベイビー、もう一杯ついでくれ、それで、このオレをもう一回抱きしめてくれ
俺の気が変わるまで、ねえ、そのオレの麦芽ミルクをかき混ぜててくれないか

部屋のドアノブがくるくる回る、ベッドの周りにお化けが飛び回ってる
部屋のドアノブがくるくる回る、ベッドの周りにお化けが飛び回ってる
あったかい、なつかしい感じ、そして、髪の毛は頭の上で逆立っている

訳注:
  • Malted milkは禁酒法時代(1920~1933年)に作られた密造の酒を指している。ここでは直訳にしておいた。

英語オリジナル

DRUNKEN HEARTED MAN

俺は飲んだくれの男、俺の人生悲惨っていうやつらしい
俺は飲んだくれの男、俺の人生悲惨っていうやつらしい
生き方を変えることさえできれば、本当によかったんだけどな

ぼろ糞に言われちゃ、追い立てられてきた、お袋の家を出てからずっと
ぼろ糞に言われちゃ、追い立てられてきた、お袋の家を出てからずっと
しかし、なんでか分からないよ、こいつら性悪女を放っておけない俺

親父が死んで残った俺に、お袋はできる限りのことをしてくれた
親父が死んで残った俺に、お袋はできる限りのことをしてくれた
どいつもこいつも恋愛ってゲームに夢中だが、それで良かったためしがない

俺はみじめな飲んだくれの男、犯した罪がすべての原因だ
俺はみじめな飲んだくれの男、犯した罪がすべての原因だ
性悪女にフラフラ付いてくその日が、俺が落ちぶれるまさにその日だよ


ME AND THE DEVIL BLUES

今朝早く、おまえがドアをノックしたとき
今朝早く、おまえがドアをノックしたとき
俺は言った「よう、悪魔か、出かける時間だな」

俺と、悪魔は、並んで、歩く
俺と、悪魔は、並んで、歩く
これからあの女を気のすむまでやりに行くんだ

彼女は言うさ、あんた、私をなんで嗅ぎまわってるか自分で分かってないでしょ、と
(なあ、あんた、それはお前が俺に不実だからだろうが)
彼女は言うさ、あんた、私をなんで嗅ぎまわってるか自分で分かってないでしょ、と
それは、その、深い地の底にいる、邪悪な魂のせいに違いない

俺の死体をハイウェイのそばに埋めたっていいんだぜ
(俺が死んじまったら俺をどこに埋めようが関係ないけどね)
俺の死体をハイウェイのそばに埋めたっていいんだぜ
そうしたら、俺の、その、邪悪な魂がグレイハウンドバスに乗ってさまようから

訳注:
  • 2番のI'm goin' to beat my woman until I get satisfiedは日本ではよく「あの女を気の済むまで殴りに行く」と訳されていてまったくに暴力的で余計に悪魔的な感じがしてしまうが、これはたぶん、英語のスラングで言うところのbeat = to have sexだと思う。つまり気が済むまであの女とセックスしに行く、とした方が順当だと思うので、そのニュアンスにしておいた。

英語オリジナル

STOP BREAKING DOWN BLUES

オレが通りを歩いてるといつも
きれいなおねえちゃんがよってきてオレに向かって騒ぎだす
騒いで絡むの止めてくれ、なあ、騒ぐのは止めてくれないか
オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが

オレはもう通りは歩けないよ、心落ち着けてさ
どっかの性悪女もやって来てオレに向かって絡みはじめる
騒いで絡むの止めてくれ、頼むから、騒ぐのは止めてくれないか
オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが

あんたら土曜の夜の女ども、下品なバカ騒ぎが大好きだろう?
お前らって男の評判をめちゃめちゃにするほかになんかできんのかい?
騒いで絡むの止めてくれ、頼むから、騒ぐのは止めてくれないか
オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが

さあ、オレのかわい子ちゃんにこのナインティナインディグリーの秘薬をやったらさ
しまいには、飛び上がって、ピストルをオレにつきつける始末だ
騒いで絡むの止めてくれ、頼むから、騒ぐのは止めてくれないか
オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが

オレはもう通りを歩きに行くこともできないよ
それにしてもあんたら、オレに絡むのやめてくれよ
騒いで絡むの止めてくれ、頼むから、騒ぐのは止めてくれないか
オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが

訳注:
  • Break downはいろいろな意味があって、交渉が破綻するとか、取り乱すとかいうところから、たぶんストリートの女が突然、自分に向かって、かっとして、切れて、怒鳴って、取り乱す、みたいな情景を想像するといいと思う。
  • 毎回出てくる「オレのコイツがあんたの脳ミソ爆発させて、それで、あんた、おかしくなるんだろうが」( The stuff I got'll bust your brains out, baby, it'll make you lose your mind )は、何を指しているかはっきりした意味が分からないので、ほぼ直訳にしておいた。
  • 4番の「Ninety-Nine-Degree」が何を指すか分からないが、麻薬系を指すという指摘があったので「秘薬」としておいたが、分からない。

英語オリジナル

TRAVELING RIVERSIDE BLUES

もし男があんたに辛く当たって、自分で勝手に楽しんでくりゃいい、と言うなら
もし男があんたに辛く当たって、自分で勝手に楽しんでくりゃいい、と言うなら
なあ、フライアーズ・ポイントに戻ってきなよ、それでバレルハウスで一晩中楽しもうぜ

俺にはヴィックスバーグからテネシーまで女はごまんといるけれど
俺にはヴィックスバーグからテネシーまで女はごまんといるけれど
フライアーズ・ポイントの女は、ほら、いま俺の上で跳ね回ってるよ

何色の女かなんていう気はないが、彼女の前歯には金歯がはまってる
何色の女かなんていう気はないが、彼女の前歯には金歯がはまってる
あいつは俺の体を抵当に入れて、俺の魂を担保にしてる始末だが

ああ、俺は女を連れてローズデイルへ行ってくるよ
ああ、俺は女を連れてローズデイルへ行ってくるよ
なあ、おまえ、俺たちまたバレルハウスでお楽しみだな、川沿いの街を転々としてる限りはさ

さあ、俺のレモンをジュースが滴るまで絞ったっていいんだぜ
(ジュースが俺の脚をつたい落ちるまでさ、あんた、俺の言ってる意味が分かるだろ?)
ジュースが俺の脚をつたい落ちるまで、レモンを絞ったっていいんだぜ
(ああ、そうだ、そのことを言ってるんだよ)
でも、俺はフライアーズ・ポイントへ戻るよ、たとえ頭がロックしてくたばろうと

訳注:
  • バレルハウス(Barrel house)は、当時の黒人たちの集まる酒場で、音楽を聞いたり、踊ったり、ギャンブルしたりする所で、ジューク・ジョイント(Juke Joint)ともいう。

英語オリジナル

HONEYMOON BLUES

ベティ・メイ、ベティ・メイ、いつか君は僕の妻になるんだよ
ベティ・メイ、ベティ・メイ、いつか君は僕の妻になるんだよ
僕はかわいい優しい女の子が欲しいんだ、僕の言うことをなんでもしてくれる

ベティ・メイ、君は僕の心の琴線だ、君は僕の定めだ
ベティ・メイ、君は僕の心の琴線だ、君は僕の定めだ
君は僕の心にいつもいる、来る日も来る日も

ねえ、あんた、僕の人生はひどくみじめだよ
ああ、僕の人生はひどくみじめだよ
たぶん、僕には、愛が必要に違いない それが僕を変えてくれると思う

いつか僕は戻ってくるよ、婚姻許可証を持ってね
いつか僕は戻ってくるよ、婚姻許可証を持ってね
そうしたら、君をハネムーンにつれて行くよ、どこか遠い、遠い、ところへ

訳注:
  • ベティ・メイ(Betty Mae)が誰かは分かっていないようだ。

英語オリジナル

LOVE IN VAIN

スーツケースを持って、駅まで彼女についていった
スーツケースを持って、駅まで彼女についていった
ああ、とても言えない、とても、俺と彼女とはなにもかも終わったなんて
彼女との愛もむなしく終わった

汽車がホームへ入ってきたとき、俺は彼女の目を覗き込んだ
汽車がホームへ入ってきたとき、俺は彼女の目を覗き込んだ
ああ、とても寂しい、とても寂しい、泣き出さずにはいられなかったよ
彼女との愛もむなしく終わった

汽車が出て行った、あとに二つの光を残して
汽車が出て行った、あとに二つの光を残して
ああ、青い光は俺のブルース、赤い光は俺の心
彼女との愛もむなしく終わった

ああ、ウィリー・メイ
ああ、ウィリー・メイ
ああ、彼女との愛もむなしく終わった

訳注:
  • ウィリー・メイ(Willie Mae)はハニー・ボーイ・エドワーズのいとこで、ロバートの愛人の一人だったそうだ。

英語オリジナル

MILKCOW'S CALF BLUES

教えてくれ、牝牛さん、いったいあんたに何があったっていうんだ
ああ、牝牛さん、いったいあんたに何があったっていうんだ
あんたには子牛がいるのに、そのミルクが酸っぱくなってしまった

あんたの子牛は、きっとお乳が欲しいんだよ
あんたの子牛は、きっとお乳が欲しいんだよ
でもあんたのミルクは酸っぱくなっちゃって、その子もホントについてないね

さあ、俺は乳絞りをしたい気分だが
俺の牛は出てこない
俺のミルクを掻き回したい気分だが
ミルクが出てこない
俺は鳴いているよ
頼むから、頼むから、俺に辛く当たらないでくれ
もし、俺の牝牛を見かけたら、なあ、頼むからそいつをオレの家へ追っ払ってくれ

俺のミルク牛は放浪中、ずっと遠くのあたりをさ
俺のミルク牛は放浪中、ずっと遠くのあたりをさ
だからって、どっかの他の男の雄牛を吸うのかよ、ああ、この変な男がたくさんの街で