JAMES BLOOD ULMERは、オレが、超敬愛かつ尊敬するジャズギタリストそしてシンガーである。

完全なアバンギャルド系なので、日本では基本的にほとんど受けない。だって日本は音楽的に韓国と並んでエモーショナルなんちゃらのお国だもんね。

では、あちらではメジャーかというと、あちらでもあまり知名度は高くないみたいだ。かのフリージャズの大御所のオーネット・コールマンの名と共に語られることが多いぐらいか。

初めてウルマーを聞いたのは、何十年も前だけど、友だちのギター弾きから存在を教えてもらったのである。最初に聞いたのがウルマーの3作目だかの、Are You Glad To Be In America? というアルバムであった。

このLPをターンテーブルにかけて、その最初の音が出てきたときのことを今でも思い出すな~ それは

なんじゃこりゃーー! コレ  デタラメだろ~~~~!!!

というものであった(笑) 1曲目はLAYOUTというワンコードのファンクビートのインストだが、ウルマーのこのギター、どう考えてもデタラメである。世の中のギターソロで使われているスケールはあまたあるが、そのどれともまったく、まったく、まったく全然違う音階なのである。

ウルマーの凄いのは、この曲を吹き込んだのが今から30年前なのだが、いまだにこの彼の発明したスケールが世の中に存在しないことであろう。

って、いうか、あまりアホくさいスケールというかメロディーで、誰も真似をしないのであろう。いや、まあ、できない、とも言うが。

とにかく、この1曲目を聞いてワケが分からず、そして2曲目のPRESSUREというせわしいワンコードも意味不明、3曲目のINTERVIEW という曲も、やっぱりせわしくて意味不明、と、まったく唖然として聞いていた

そして、ようやく4曲目のJAZZ IS THE TEACHER (FUNK IS THE PREACHER)という曲が始まり、ここでウルマーが突然沈黙を破り、歌い出すのである。

ギターの意味不明さとは異なり、歌はぜんぜんヘンではない。ジミヘンのようにしゃべるようには歌っているが、しかし、これには黒人音楽に親しいメロディーがついている。もっとも、ここでもギターのフレーズはやはり意味不明である。

しかしだ、聞いている自分としては、この歌入りの曲が決定的で、これを聞いてようやく

あ~~~、こういうことをやろうとしてたのか!!!

と一気に悟り、それから一気にウルマーのそのデタラメギターのフレーズも分かるようになってしまったのであった。そうなってから聞くと、1曲目のデタラメにしか聞こえなかったギターのフレーズの「歌」が突然はっきり聞こえるようになり、今に至るである。

それにしても、なぜ、こんなデタラメが心に響くのであろうか、自分でもいまだにその理由がまったく解明できない。

結局ウルマーのデタラメは、実はデタラメの正反対だった、ということなのであろう。まるで「賛成の反対なのだ」みたいなギターである。

オレに言わせると、ロバートジョンソンそしてジミヘンドリックス、そしてジェームズブラッドウルマー、とこういう系譜になるのである。それほど感動的に響くのだから、まことに不思議としか言いようがない。

ちなみに、ウルマーのギターは一応、弦が6本ついているふつうのギターだが、そのチューニングは独自のもので、かなり変態的だそうだ。しかも、調弦も440Hzの通常チューニングからあれこれずらしているらしい。ただ、実際にどうやっているかは全く分からない。アホ臭くて誰も聞かないのかもしれない。

そんなわけで、あのギターをコピーして弾く、というのはほとんど不可能である。

さて、このLPだけど、B面の最後にAre you glad to be in America? というタイトル曲が入っている。

これは数少ない歌モノで、きちんとした構成がある曲である。ギターはあいかわらずであるが、全編にわたって、テンションをまったく加えないトニックコードだけみたいなヘンな和音をじゃかじゃかとかき鳴らしているだけで、その上に乗ってウルマーが歌う。

残念ながら歌詞はほとんど聞き取れないが、タイトルどおり、「アメリカよ、ああアメリカよ」、と言い続けているのだが、最後の最後それまでヘンなコードをかき鳴らしていたウルマーが突然、ひとまとまりのフレーズを弾くのである

メロディを文章で書けないのが残念だが、ダイアトニックスケールで作った、たった2小節のメロディーで、彼はこのフレーズを馬鹿みたいに何度も繰り返すのである。

そして、なんと、このメロディーが鳴り響いたとたん、自分は号泣してしまったことがある。

実は、それは、そのとき突然、自分がむかし読んだ黒人民話集の中の好きだった話を思い出したからである。いや、思い出した、というより突然、自分の心の中で共鳴して共振したのである。

それは、こんな話である

「ある黒人奴隷たちが働くプランテーションに一人の魔術師がやってきた。そして彼がある呪文を唱えたら、奴隷の一人が腕を広げたかと思うと宙に浮き、そのまま飛び去っていった。魔術師は次々と呪文を唱え、こうして畑で働いていた奴隷たちは一人残らず故郷のアフリカへ飛んで帰っていったのです」

という民話で、当時、青年だった自分は、この物語を涙無しでは読めなかった。

そして、そう、そのとき、自分にはウルマーのこの2小節のメロディーが、この魔術師の呪文に聞こえたのであった。

なぜだろう、本当に不思議だ。

ロバートジョンソンもジミヘンもそうだが、音楽というのは果てしない、もんだな

まだいろいろあるが、長くなったし、この辺にしとくか