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11 発振回路


発振とは何か


発振回路

まずは発振というのはどういう事態なのかについて説明しておこう。上の図を見ていただきたい、これが発振回路である。まず、信号を大きくする増幅器があって、その出力が、信号を小さくする減衰器を経て増幅器の入力に戻っている。入力はなく出力だけである。

ここで、下の図のように増幅器の入力に@のような小さな信号があったとしよう。この信号が増幅されてAになり、それが減衰して増幅器の入力に戻ってきたときにBのようになったとする。ここで、この信号Bが先の@の信号より大きかったとすると、この信号はさらにまた増幅されてCになり減衰してDになり、増幅器の入力に戻って来たときは信号はBよりさらに大きくなっている。そして、これがまた増幅し減衰し、という風に繰り返すので、信号は毎回毎回どんどん大きくなって行くことになる。実際には無制限に大きくなることはなく、あるところで増幅器の性質によりEのようにクリップするが、いずれにせよ一度こうなってしまうと一番下の図のように入力に何も加わらなくてもEのような出力が出続けることになり、これを称して発振と呼ぶのである。

発振の原理


ここで、増幅器と減衰器のうち減衰器の方が減衰が大きくて、入力に戻ってきた信号が始めの信号より小さければ(つまり、増幅器と減衰器を合わせた利得が1より小さければ)、今度は信号は繰り返す毎に小さくなって行き、限りなくゼロに近づいて行き、発振することはない。

実は発振には、あともうひとつ条件がある。減衰器を経て入力に戻ってきた信号が入力の元々の信号と同じ位相であるということである。逆相の信号(反転した信号)が戻って来たときは発振はしない。なぜならこの場合、信号が増えようとすると、それを下げようとする信号が戻ってくるので、結局、発振にはならないのである。実は、この逆相で帰還する場合が以前出てきた負帰還(NFB)である。これに対して、発振の場合は正帰還(Positive Feedback)と呼ぶ。

以上により、以下の二つの条件がそろったとき発振することが分かる。

(1) 増幅器と減衰器を合わせた利得が1より大きい
(2) 帰還した信号が同相である

これら(1)と(2)を、発振条件と呼ぶ。

アンプにおける異常発振

ギターアンプにしてもオーディオアンプにしても、入力信号を増幅するのがアンプの役目なので、入力がなくても勝手に信号が出続ける発振というのはあっては困る現象である。なので、もちろん、アンプの回路には前の図のような発振回路は設けられていない。ところが、意図的に設けることは無いのだが、意図しないところでこの発振回路が期せずして形成されてしまうことがある。いくつか紹介しよう。

(1)配線の浮遊容量によるもの

次の図のような配線の取り回しにおいて、増幅回路の出力の線と入力の線が接近していたとしよう。線と線が接近するとそこに小さなコンデンサ(容量)が形成される。つまり点線のような小さなコンデンサで出力から入力に帰還がかかった状態になる。これが先の発振条件を満たしたとき、回路は発振する。

配線の浮遊容量による発振


(2)真空管単体での発振

これも(1)の一種だが、真空管はその形状から言ってプレートとグリッドはそれなりに近い位置にあるので、配線の引き回しなどの原因でコンデンサ成分が形成されて、プレートの出力がコンデンサ成分を通ってグリッドの入力に帰還し、発振することがある。特に、5極管など増幅率が高い真空管の場合よく起こり、これを寄生発振と呼んだりする。これを防ぐために、図のようにグリッドに数kΩ、プレートに数十Ωの抵抗を挿入することがある。これらの抵抗は、真空管のソケットにリード線を短くして直にハンダ付けする。

寄生発振予防の抵抗


(3)電源回路からの回り込み

図のように電源回路も出力と入力の間に入っているので帰還路になり、発振条件を満たして発振の原因になることがある。

電源回路の回り込みによる発振


以上、3つほどあげてみた。(1)と(2)は高い周波数の高域の発振に、(3)は低い周波数の低域の発振になることが多い。高域の発振は時には可聴範囲を超えた発振(20kHz以上)になることも多く、発振していても耳に聞こえないことがある。ギターの音は鳴ってるんだけど何か音がヘンだとか、音が濁る、とかいうのは高域発振のことが多い。逆に低域発振は、モーターボーディングと呼ばれる「ボツボツボツ」というエンジン音みたいなのや、トレモロがかかったように周期的に音が強弱したりする。あるいは可聴範囲を下回り(20Hz以下)、ギターの音は出るんだけどスピーカーのコーンが前後に振動しているのが見えたりすることもある。

しかし、いずれにせよ、スピーカーからピーッとかギョエーッとか発振音が出ている時は分かりやすいが、特に耳に聞こえない超高域で発振しているときはなかなか厄介である。Champのような簡単な回路の時は発振もそれほどないが、少し回路が複雑になり配線が入り組んできて、真空管の本数も増えてゲインも上がってきたりすると、この発振というのはわりとすぐに起こり、問題になる。複雑な回路を作ろうとしている人は、やはり、オシロスコープを持っていた方がいいと思う。オシロを当てれば発振の有無は一発で分かる。最近は、液晶ディスプレイの簡易ディジタルオシロみたいなのがわりと安値で買えるので、ふんぱつして買ったらいかがだろう。

このように異常発振については、アンプ製作のノウハウではかなり大きなもので、いろんな話題があるので、こんど、ヒマなとき書き足しときます。だいたいが、プロの製品だって発振を止めるために、いろんなところに発振止めのコンデンサを付けてズルしてたりするので、発振との格闘はふつうの事態なのである。もっとも、プロの発振止めは、大量生産したときのばらつきがひどい状態でも絶対発振しないようにフェイルセーフ的(最悪の場合でも大丈夫、というやつ)に入れることが多いのだが。

トレモロ発振回路

以上、アンプに発振は禁物なのだが、当然ながらたとえば電波を発信する送信機などではこの発振回路は必須になる。あるいはラジオ受信機などでもスーパーヘテロダイン方式と呼ばれる周波数変換の回路の中にこの発振回路が必ず組み込まれている。それからコンピュータなどのデジタル回路においてもクロックというデジタル信号のタイミングを取る信号が必要だが、これを発生するのも発振回路である。

さて、ギターアンプにも、実は一つだけまっとうな発振回路が組み込まれていることがある。それはトレモロ回路である。音が「ワワワーン」と強弱するハワイアンチックなあれである。まあ、最近はトレモロなどという古風なエフェクトはほとんど使わないだろうが、昔のフェンダーやVOXなどのアンプにはけっこうこのトレモロ回路が入っている。次の図は、フェンダーのトレモロ付きアンプで使われている発振回路の例である。


Fender "Prinston-Amp AA964"の発振回路


トレモロでギターの音を強弱させるために、その元となる周期信号を発生させなければならず、そこにこの発振回路が使われている。見ての通り、3極管一つでトレモロ信号を発生させている。SPEEDと書かれた3MΩのVRで発振条件を変えて、発振周波数を変えられるようになっている。発振周波数は数Hzから数十Hzであろう。発振出力は、パワー段やプリ段のグリッドやカソードに注入されるなどして、アンプのゲインを変化させトレモロがかかるようになっている。

発振回路にはたくさんの種類があるが、ここで使われている回路は位相型発振器と呼ばれ、上の回路をよくよく見ると次のような形をしている。ここで簡単にその原理を説明しておこう。


位相型発振器の原理図

上図の増幅器は、ここでは3極管一つの電圧増幅器になっている。したがって、入力の信号は反転して(位相が180度ずれて)出力に出てくるが、この出力をCR型のフィルタ3段を経て入力に戻している。CR型のフィルタは1つで最大で90度の位相ずれを発生させるのだが、3つとも最大ずれになったときは90×3=270度の位相ずれになる。この位相ずれの量は周波数に関係し、0度から270度まで周波数によって変化し、ある周波数の時ちょうど180度になるポイントがある。そのとき、増幅器の入力と出力の位相が同相になり前述の発振条件の(2)を満たす。このとき、さらに、増幅器による増幅と3段のCRフィルタによる減衰の合成が1より大きくなれば発振条件の(1)も満たすことになり、この回路はその周波数で発振を始めるのである。