リバーブを知らない人はあまりいないと思うが、リバーブとは広いホールで演奏している音を聞いているときのような、残響音のある音を作り出す効果のことである。リバーブを備えたアンプはやはりフェンダーが有名で、Deluxe ReverbとかTwin Reverbとかいろいろあり、歴史も1960年代にさかのぼり、けっこう古くからある。
リバーブサウンドといえば昔のベンチャーズやビーチボーイズのサウンドで有名で、これらを演奏するときは必須な感じである。また、昔の黒人ブルースでもリバーブはずいぶん使われていて、マジック・サムなどかなり深めのリバーブをかけて弾いていたりする。私の知る限り、黒人ブルースを演る人にリバーブ必須という人が多く、リバーブがないと裸の自分を見せてるみたいでどうもイヤだ、とまで言う人がいたりする。
現代では、リバーブは安いデジタルエフェクターで簡単にかけることができる。なので、エフェクターボックスを多用して音作りのセッティングをするギタリストにとっては、アンプ側に特にリバーブが無くとも困らなかったりすることも多い。
しかし、ここでは昔ながらの「スプリングリバーブ」の回路について解説することにしよう。
スプリングリバーブタンク
リバーブタンク |
リバーブ回路の原理 |
実際のリバーブ回路
それでは、実際のリバーブ回路の例をあげて説明しよう。図はフェンダーの1960年代に発売されたオールドアンプ「Delux Reverb AA763」のリバーブ部分の回路図である。
Fender Delux Reverb AA763のリバーブ回路部分 |
「うわ、けっこう難しいじゃん!」、と思うかもしれないが、実はわりと簡単である。流れを説明しよう。まず、ドライ信号が左からC1を通ってやってくる。これが前述の説明のとおり、二つに別れ、ドライ信号はそのままR1の4.7MΩの高抵抗へ入る。一方、分岐したドライ信号は500pFのC3を通ってリバーブタンクの方の回路へ行く。
この信号は、12AT7の中の2つの3極管を並べたような回路に入って行く。これは何のことは無い、二つの3極管を並列につなげただけで(つまり、プレートとプレート、グリッドとグリッド、カソードとカソードを線で結ぶ)、この状態で一つの3極管とみなせる。なぜこんなことをするかと言うと、12AT7に流せる電流を2倍にするためである。12AT7のプレート損失は2.5Wだが、このように2本並列(パラ)にすると5Wになる。
それで、この12AT7は何をしているかというと、ドライ信号を電力増幅してリバーブタンクに加えているのである。リバーブタンクの入力側のトランスデューサのインピーダンスはふつうのスピーカと同じで通常、8Ωなので、スピーカを鳴らすのと同じく電力増幅が必要なわけだ。したがって、当然出力トランスも必要で、ここでは25kΩ:8Ωのトランスが使われている。それから出力パワーだが、スプリングを振動させるだけなのでそれほどは必要なく、1Wもあれば十分である。実際、この回路も最大出力は0.5Wていどであろう。
次はリバーブタンクの出力側だが、ここには7025という真空管が使われているが、これは12AX7と同等の球でハイμの3極管である。リバーブの残響信号はこの電圧増幅回路でおよそ50倍に増幅され、その信号が0.003μFの結合コンデンサC5を経てリバーブコントロール用の100kΩのVRに入る。VRを出た信号は470kΩのR7を経て、R1の4.7MΩを通ってきたドライ信号とミックスされ、次の段の7025の電圧増幅器に入力される。
これで、ドライ信号と残響信号がミックスされたリバーブ音が得られるというわけである。
リバーブ回路のポイント
それでは、前述のリバーブ回路におけるポイントについて列挙して説明しておこう。
(1)リバーブタンクへの信号はローを落とす
リバーブ回路へ分岐された信号はC3とR2で受けて12AT7の電力増幅回路に入る。C3が500pFとやけに小さいのが分かるであろう。R2の1MΩと形成するHPFのカットオフ周波数を計算すると320Hzぐらいになる。つまり低音をかなりカットしているわけだ。これは、ギターの低音はけっこう大きく、そのままスプリングを振動させると共振したりして過剰に振れ過ぎ、残響音というよりブヨンブヨン音を発生してしまうからである。
(2)リバーブタンクに入力するパワー
リバーブタンクに入力するパワーは最大1Wぐらいと書いたが、これもケースバイケースで、リバーブタンクによっても違うし、どれぐらいのパワーを用意すればいいか、一概には言えない。ただ、Fenderではこの12AT7のパラ接続は定番で、長い間使われているのでいい感じなのではなかろうか。この回路のパワーは前述のように0.5W程度であろうが、これとて加えられる信号の大きさで様々に変化するわけでいつも0.5Wがタンクにかかっているわけでもない(1Wとか0.5Wとか言っているのは最大出力のこと)。また、リバーブタンクの受け側のトランスデューサの感度にも依存する。というわけで、定番回路を真似するか、あるいはカットアンドトライで様子を見ながら試して回路決めするのがよいと思う。
3)Dwellツマミ
というわけで、リバーブタンクに入力するパワーをVRで調節できるようにするモデルもある。これがリバーブのDwellツマミというヤツである。これは簡単で、図のR2の1MΩを、1MΩのVRに変えるだけである。Dwellを調整するとリバーブの音質がいろいろ微妙に変わる。
あと、余談だが、スプリングリバーブ付きのアンプを蹴っ飛ばすとスプリングがタンクの中の外壁に激突し「バッシャーーン!」という物凄い音を立てる。むかし、ディープ・パープルというバンドがライブ・イン・ジャパンの中で、アンプを蹴っ飛ばしてこれを効果音として使う、という名演をしている。もっともこれをやったのはキーボードのジョン・ロードの方で、ギタリストのリッチー・ブラックモアはたぶん昔のマーシャルを使っていてリバーブはなかったと思われる。いずれにせよ、これなど、軟弱なデジタルリバーブを使っていては不可能な技であろう(笑)
(4)リバーブタンクの出力もローを落とす
出力は電圧増幅回路で増幅されて100kΩのVRに入るがその前の結合コンデンサC5も0.003μFと小さい。このC3とVRで形成されるHPFのカットオフ周波数を計算すると530Hzぐらいになる。こちらもかなり低音を削っている。これもやはりスプリングが当の残響音よりはるかに遅い周期で振動してしまったとき(下手すると目に見えるぐらい)に発生する低い周波数の信号を阻止するためである。
(5)R1はなぜ4.7MΩとでかいか
実はよく見るとこの回路はヤバイ回路で、R1の前からギター信号を取り出して、リバーブタンクに通して、それをR1の後に戻しているのだが、この戻した信号がこのR1を通って再びリバーブタンクに戻ってきてしまう。つまり出力が入力に戻る「帰還路」があるのだ。これは発振回路のところで説明したが、条件がそろうとこの回路は発振して使えなくなる。ということで、簡単に言うと、このR1の抵抗をでかくして出力から入力へ戻る信号を阻止しているのである。
それにしてもリバーブをまったくかけなくても、ギターのドライ信号はこの4.7MΩというえらくでかい抵抗を細々と通って行くわけで、考えてみると非常に気持ちが悪い。気持ちが悪いだけでなく、これにより実際、リバーブをかけなくてもドライ信号はほぼ1/30に減衰してしまう。これを受けた8025はその1/30のゲインを補うために増幅していると言ってもいい。
悪いところはまだある。増幅回路に直列にR1の4.7MΩのようなでかい抵抗を入れると、この回路では次の段の3極管7025が持つ入力容量とLPFを形成し、ハイが落ちモコモコ音になってしまいよろしくない。
(6)C2の10pFは何?
これは、はっきりは分からないが、前述のハイ落ちを周波数補正して持ち上げるものか、あるいは、前述した発振の危険性を低減するための発振防止のためであろう。
以上がフェンダーの定番リバーブ回路の動作であるが、何となく、たとえばR1の高抵抗の弊害などいろいろ問題のある回路である。しかし、このリバーブ回路はフェンダーのリバーブ付きアンプの定番の回路で、ほぼこのままの形でフェンダーアンプのたくさんのモデルで使われ、長年親しまれ実績を作ってきた歴史のある回路なわけで、やはり素晴らしい回路である。ギターアンプというのは理屈だけでは分からないものである。ただ、前述したような事情を改良する回路はいくらでも考えられるであろう。