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8 発振対策


発振の原理

発振そのものについての原理的な話はこっちの原理編に詳しく書いてあるので、そちらを見てもらうとして、ここでは、その発振によってどんなことが起こって、そして、どういう風に対策すればいいかについて、書いておこう。なお、ここでの記述は、アメリカのケンドリックというブティックギターアンプ会社のGerald Weberさんの「Tube Guitar Amplifier Essentials」という本をいくらか参考にしている。

さて、まず、発振とは何なのかを知っていないと、対策もへったくれもないので、原理編での説明と同じものをここで繰り返そう。右の図のように出力の信号が入力に戻って来るような回路を発振回路と言う。ここで、いま、図のように入力になんらか信号があったとすると、それが増幅されて出力に出て来る。で、この出力が入力に戻って、さっきの入力よりそれが大きかったとする。そうすると、これはまた増幅されて出力にさらに大きな信号が出る。これを繰り返すと、出力は瞬く間に増大して(普通、これは一瞬で起こる)、入力に何も加えなくても、最大出力が出続けることになる。これを「発振」という。

発振するとどうなるかというと、一番ダイレクトな現象は、エレキを弾いてないのに、ピーッとかヒューッとかすごい音量で鳴るケースである。特に、いろんなツマミを右に回して行くと、あるところでこのようにピーっと鳴ったりすることが多い。

ピーっと鳴ってくれればすぐに分かるが、これに対して厄介なのが、発振の周波数が可聴周波数を超えた高い周波数(たとえば30kHzとか)で起きている場合である(20Hzより低くて聞こえないタイプもあるが特殊)。これは耳にはまったく聞こえないけれど、ギターの音に色んな形で影響する。しかも、その影響の仕方がかなりさまざまで、ある条件でしか分からなかったり、いろいろなのである。このケースの場合のよくある症状を以下に列挙しておこう。

以上のように、現象が不安定でなかなか分からないことも多く、そのような場合は発振を疑ってみることである。


発振の原因

発振がなぜ起きるかというと、前述の発振の原理で分かるように、出力が入力に戻ることで起きる。で、どうして戻ってしまうかと言うと、出力の線が入力に線に近づくと、線と線が近寄ることで小さなコンデンサ成分を形成して、そのコンデンサを高周波が通って信号が戻る、というケースが一番多い。したがって、入力と出力の線や部品が接近しているところが怪しい、ということになる。つまり、発振は、配線の仕方やレイアウトのせいなのである。

これは、市販のアンプでも実は同じことで、プロが作った市販のアンプでも発振しているケースはある。特に、ビンテージのアンプで、まだ配線技術がしっかり確立していなかった頃のものなどに多い。Weberさんによれば、フェンダーのブラックフェイスのアンプには発振しやすいものが多いし、ツイードのDeluxeの10台に1台は発振を起こしているし、プレキシグラスフロントのマーシャルもツマミの条件によって発振する、だそうである。ちなみに、ずっと新しいBlues Juniorであっても、やはり条件によっては、わりとマイルドだが高域発振を起こしていることがある(ココを参照)。プロでもこれなのだ。発振というのがいかに厄介なものかが分かるであろう。

対策

まず、発振しているかしていないかは、前述のように音だけで判断するのは、なかなか難しく、なんといってもオシロスコープで見るのが一番いい。可聴域以上の周波数での発振も、目で見えるのですぐに分かる。最近は、液晶画面の簡易デジタルオシロがわりと安値で売っていたりするので、買っておいたらいかがだろう。

発振の対策には、次の4種類がある。

  1. 配線やレイアウトを変えて発振しないようにする
  2. 高域を抑えるような位置にコンデンサなどを追加する
  3. ゲインを抑える
  4. 発振を止めるための回路を追加する
もともとの回路が出すトーンをまったく変えずに発振を止めるのは、(1)の配線やレイアウトを見直す方法で、これが一番よい方法であるが、往々にして大変な場合が多い。(2)から(4)は回路自体を変えることになるので、多かれ少なかれギターのトーンに影響するので避けたいところである。

(1)については、さっき書いたように、入力と出力の線が接近しているところを探して、そこを対策する。電源を入れて発振している状態で、例えば、ショートしないように注意しながら割り箸のようなものでビニール線の位置を変えたり、抵抗やコンデンサの位置や方向をいじったりして、発振の様子が変わるかを観察する。怪しいところがあったら、発振がなくなる方向で配線や配置を見直す。たとえば、図のようにビニール線を並行させずに交差させるとか、あるいは、コンデンサや抵抗などの部品の向きを変えてみるとか、なるべく空気を介して結合するコンデンサ成分(浮遊容量という)が小さくなるようにする。


入力と出力の配線の引き回し方


一般的な配線のルール

それでは、発振が起こりにくい配線の一般的なルールを書いておこう。前述のように、出力の線が入力に接近しないようにする、というのは第一のルールである。で、それ以外に、以下のものがある。

まず、グリッドの回路の配線を短くすること。一方、プレートの配線は、入力側に接近していない限り、長くても構わない。たとえば、前段のカップリングコンデンサからグリッドに伸びる線とか、ボリュームの中点からグリッドに伸びる線とか、グリッドにつながる線は、極力短くする。これは、グリッドのインピーダンスが非常に高く、そういうインピーダンスの高い線には浮遊容量で信号が忍び込みやすいからである。とはいえ、どう頑張っても、グリッドへ伸びる線が長くなってしまうことはある。それがどうしても発振の原因らしい、という場合は、シールド線を使うとよい。シールド線は1芯のものでよくて、外側のシールド網は、片側だけ(どちらでもよい)グラウンドにつなぐようにする。


グリッドの配線


それから、パワー管の周りのバイパス用電解コンデンサがいくつかあるが、それらはなるべく同じポイントでグラウンドに落とすようにする。出力トランスにB電源を供給するところの電解コン、スクリーングリッドの電解コン、カソード抵抗に並列についた電解コンの3つである。パワー管のこれらの電解コンにはかなり大きな信号電流が流れていて、それが、ばらばらにグラウンドに接続されていると、グラウンドに流れる信号電流によって、グラウンドの抵抗値で電圧が出ることがあり、それが入力に戻って発振したりする。

三つの電解コンデンサのグラウンドへの接続


ちょっと言っていることが難しいが、「グラウンドの抵抗値」というのは本来はゼロなのだけど、グラウンドの線材やハンダ付けなどの理由で、たとえば1Ωとか2Ωとか小さな抵抗を持ってしまうことがあり、そこに大きな信号電流が流れると、その小さな抵抗の両端に小さいながら信号電圧が現れ、これが運悪くグリッドのどこかに加わると発振する恐れがある。というわけで、グラウンドの導通を良くしておくのも重要である。具体的には、グラウンドには太めの線を使う、ハンダ付けはしっかりする、シャーシーをアース線代わりに使っている時はシャーシーへのねじ止めに菊形ワッシャーなど使ってしっかり導通させる、などなどである。

コンデンサの極性


コンデンサの極性

電解コンデンサに極性があるのは当然だが、ふつうのコンデンサにも実は2本のリード線に区別がある。たとえばフィルムコンデンサとかのコンデンサは右の図のように、構造的に、金属のフォイルと薄い絶縁膜を重ねてそれをくるくると巻いて、中心側の金属フォイルにリード線をつけ、外側の金属フォイルにもリード線を付けて、計2本のリード線にして、その全体をエポキシで固めて作ってある。この外側のフォイルにつながった方のリード線が「アース側」とされるのである。

なぜかというと、外側のフォイルは、コンデンサ自体を外界からシールドする形になっているので、こっち側を回路のグラウンドに接続することで、外来のノイズの飛び込みを阻止できるわけだ。発振の場合だと、出力の信号がコンデンサに飛び込んで発振の原因になるのを防いでくれる。回路上で言うと、図のように、結合コンデンサの場合は前段のプレートに、カソードやスクリーングリッドなどグラウンドに落ちている場合はグラウンド側につなぎ、B電源に接続している場合はB電源側につなぐ。
黒丸が外側フォイル側

ここで、よく誤解のある結合コンデンサについて一言。一見、外側フォイルはグリッド側の、電位がゼロの方につないだ方が自然に思えるが、ここでいう「グラウンド側」は交流的な話なので、それは違っている。グリッド側はインピーダンスが高く(グリッドは無限大で、グリッド抵抗が入っているので、ふつう、グリッド抵抗と同じ値の200kΩから1MΩあたりになる)、プレート側の方がずっと低い(真空管の内部抵抗とプレート抵抗の並列の抵抗値で、ふつう数十kΩ以下)ので、外側フォイルはプレート側につなげるのである。

この外側フォイル側の見分け方だが、古いビンテージのコンデンサにはだいたい帯が印刷してあって、それがこの外側フォイルであることを示している。昨今のコンデンサでこの印がついているものはほとんどない。その場合は、自分でどっちが外側か見つけないといけない。いくつか方法があるが、以下にオシロを使ったやり方を書いておこう。

コンデンサにオシロをつないで、指でコンデンサをつまむ。そうすると、手から出た誘導ノイズが見える。ふつう汚い感じのAC100Vの50Hz(関西60Hz)である。今度は、リードのつなぎを逆にして同じことをする。両者で誘導ノイズの大きさに差があるはずで、ノイズが小さい時の、オシロのマイナス(黒)がつながっている方が「外側フォイル」である(あるいは反対に、ノイズが大きい時の、オシロのプラス(赤)がつながっている方が外側フォイル)


コンデンサの外側フォイルの見分け方。左の時はオシロで見える誘導が大きく、右の時は誘導がだいぶ小さい。

発振を止める

配線やレイアウト、シールド線を使ったり、コンデンサの外側フォイルをそろえたり、いろいろしても、それでも発振が止まらない時はどうするかというと、いよいよ、あれこれ部品を追加して止めることになるわけだ。いずれにせよ、オシロなどを使って、アンプのどの段のあたりで発振が起こっているかぐらいは追っておき、それで対策する。以下にいくつか紹介して行こう。

・グリッドに直列に抵抗追加

発振していると思われる真空管のグリッドに下の図のように直列に820Ωから10kΩていどの抵抗を入れる。この抵抗を入れる時は、下の右の図のようにグリッドのソケットに直接抵抗をハンダ付けし、リード線は極力短くしておく。これでなぜ発振が防げるかと言うと、グリッドの持っている小さな内部容量とこの抵抗がハイカットフィルタになって、出力側から漏れた高い周波数をカットするからである。ココの入力回路のところで説明している原理と同じである。この直列に入った抵抗はすごく大きくない限りトーンにはほとんど影響しないのだが、それでも抵抗値は小さい方がいいので、発振が止まったら、抵抗値を減らして行ってなるべく小さい抵抗になるようにする。この発振対策用の抵抗は、たとえばフェンダーのBassman(AB165)などを見ると6L6GCのグリッドに1.5kΩの抵抗がついているが、それである。


グリッドに直列に入れる発振止め抵抗

・プレート抵抗に並列にコンデンサ追加

発振していると思われる真空管のプレート抵抗に並列(パラ)に小さなコンデンサを入れる。値は10pFから500pFていどである。このコンデンサは高い周波数の信号を素通りさせてバイパスするので、結局、この真空管では高い周波数は増幅しないことになり、発振が止まるのである。このコンデンサは、値が大きくなってギターの音域に近づいてくるとトーンを変えてしまうので、発振しないぎりぎりのなるべく小さい値にする。この手の、信号に対して縦(並列)に入っているコンデンサは、よく市販のアンプの回路図でも見かける。Blues Juniorのこの回路図の、C9の1500pFもたぶん発振予防だと思う。もっとも、あるいは、ここで高域を少し落としてトーン調整したあげくのコンデンサかもしれない。何とも言えないが、Fenderで言えば、CBS期の回路でよくお目にかかるピコファラッドのコンデンサはだいたい発振止めである。CBS期は配線レイアウトのノウハウの後退期で、どうやら発振が頻発してしまい、そのせいらしい。

プレート抵抗にパラに入れる発振止めコンデンサ

・グリッド抵抗に並列にコンデンサ追加

前述のプレート抵抗につけるのと同じで、グリッドからコンデンサを介してグラウンドに落とすことで、高い周波数の信号をグラウンドに逃がして増幅しない、というやり方である。値としては1000pFなど。これも、小さければ小さいほどよい。FenderのCBS期の例えばTwin ReverbのAA769の回路を見ると、6L6GCのグリッドに2000pFのコンデンサが入っていてグラウンドに落ちているが、これがそれである。

グリッドにパラに入れる発振止めコンデンサ

・プレートとグリッドの間にコンデンサを挿入

プレートから、5pFから500pFぐらいの小さなコンデンサを通してグリッドにつなぐ。こうすると、これは負帰還(ココで説明)となり、そのコンデンサを通る信号のゲインを下げる方向に働く。結局、発振が起こる高い周波数での真空管のゲインが落ちるので、発振を抑えることができる。これまた、同じく、このコンデンサがトーンに影響しないように、小さければ小さいほどよい。

プレートとグリッドの間の発振止めコンデンサ