部品を集めて真空管ギターアンプを作ってみる
〜フェンダーChampをベースに日本の部品で作る〜
歪み系エフェクターとしても使える6V6GTギターアンプヘッドの製作


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4 配置と配線を考える

部品配置を考える

部品がそろったら、まずすることは、シャーシーに取り付ける大物部品の配置を考えることである。今回は、次の図のような配置にしてみた。これが気に入らなければ、あるいは自分の好きな位置に配置してやってみてもいい。しかし、今のところ、部品の位置関係はだいたいこの図の通りにしたほうが無難である。先にも言ったが、配置が悪いとトラブルの元になるからである。


部品配置(上面図)


さて、そういうわけで、部品配置について守った方がいい原則を説明しておこう。それは、電源トランスなどの電源回路の部分と、真空管や出力トランス、ボリュームなどの信号部分をなるべく位置的に分離して離すことである。作例では、電源部分が向かって右、信号部分が左に集められている。

(a)伏型電源トランスの磁束の大きさ (b)立型電源トランスの磁束の大きさ
電源トランスの向きも重要である。今回使った図の(a)ようなトランスは伏型と呼ばれるタイプだが、この場合、AまたはBの方向が信号部分を向くようにする。一番悪いのはCの方向が信号部分を向いた場合である。実は、トランスに流れる交流電流が、トランスの回りに交流磁束というものをまき散らすのだが、その大きさがC→B→Aの順に大きいのである。この交流磁束が信号部分に入り込み、交流(関東なら50Hz、関西なら60Hz)の誘導ハムという「ブーン」というノイズを発生することがあるのだ。また、立型と呼ばれる(b)のようなトランスでは、A、B、Cは図のようになるので、AまたはBが信号方向を向くように配置する。

(a) 電源トランスと出力トランスが接近しすぎた時 (b) コアの向きを直行させると誘導が少ない
それから、電源トランスと出力トランスはあまり接近しないように注意する。「接近って言っても実際どれくらいなわけ?」と思うかもしれないが、この辺は一概には言えないのだが、まあ「常識的に」という感じだろうか(余計分からないか 笑)。今回使うトランスの大きさから言って、コアの中心どうしの距離が10cm以上あれば、まあ大丈夫だろう。ちなみにこの件に関しては、前述の漏れ磁束の方向と事情が違う。図(a)のように、それぞれのC方向が磁束線で結合して、電源トランスの交流が出力トランスに入り込み、ハムを発生するのである。これを避ける一番確実な方法は、図(b)のように、コアの方向を直交させることである。

以上の配置原則は「保険」のようなもので、こうしないと必ずノイズを発生する、というわけではなく、色々な要因が絡まりあって発生することが多いものだ。ただ、いったん発生してしまうと、配置を変えるしかなく、配線が終わって配置を変えるというのはトランスが大物なだけにほとんど作り直しになり、最悪である。

もっとも、このハムやノイズというのはオーディオアンプの場合は割りと致命傷な感じだが、ギターアンプの場合は人によってはあまり気にしない、という場合もある。と、いうのは、ギターアンプは結構音量を上げて使うことが多いので、ノイズもハムもマスクされて聞こえないことも多いからである。実は、近年のギターアンプではそういうことはほとんど無いが、オールドの真空管ギターアンプなどでは平気でハムが出ていたりして、わりとおおらかであった。


実体配線図を作る


部品を取り付けたら、今度は回路図にそってどうやって配線するかを考える。要は実体配線図を作るのである。ここで、実体配線図がなく回路図だけの場合は、実際に配線する前に、まずは実体配線図を描くことをお勧めする。私はこんな風にやっているので紹介しよう。まず、ちょっと大き目の紙に、真空管ソケットやトランスなど取り付けた部品を原寸大で、ボールペンでラフにスケッチする。これに、鉛筆で結線を書き込んで行くのだ。抵抗やコンデンサーなどはもう購入して手元にあるので、実際に紙の上に乗せて大きさを確かめながら配線プランを練ることができる。鉛筆と消しゴムでひたすら、ああでもないこうでもない、と実体配線図を作って行くわけである。

さて、以下は、すべて配線が終わったものをスケッチした実体配線図の完成形である。30年も昔の電子工作本には、すべての作例にこのような手描きの実体配線図が載っていたものである。今回、ちょっとそれを真似して描いてみた。


6V6GTギターアンプヘッドの実体配線図(クリックで大きくなります)

配線の基本


回路図とその結線方法(どれも同じ)

さて、今回は、すでに実体配線図が載せてあるので、いきなり配線に入れるが、ここでは回路図だけから配線することを想定して、配線についてごく基本的なことを説明してみようと思う。

まずは、ものすごく基本的なことだが、回路図と配線の関係の話である。今、右図のような回路があったとする。これを配線するとき、この回路図と同じ形に配線しなくてはいけないわけではない。図の(a)から(c)までのようにいろいろな配線の仕方があり、これらはすべて電気的には同じである。というのは、配線に使う銅線は理想的には抵抗がゼロなので、どう引き回しても同じというわけだ。

というわけで、同じ回路図でも配線の仕方は無数にある。では、どんな風に配線しても結果はすべて同じか、というと実はそうは行かないのがアナログのアナログたるところで、まずい配線をすると、最終的にノイズやハムや発振に悩まされるということが起こる。


いい配線とまずい配線


では、まずい配線といい配線とは何か、というと、これが実はかなり奥深く、一言で説明できるものではないのが厄介だ。電気的に同じ、と言いながらなぜそのようなことが起こるかと言うと、現実の配線では銅線といえども抵抗はゼロではなく、いくらかは抵抗分が残っている。普通は0.1Ωとかのごく小さい値だが、場合によってはこれが悪さすることがある。あと、銅線と銅線が接近すると、小さなコンデンサーを形成する。これもごく小さな値だが、これも原因になりえる。まだある。銅線が一周すると、これは一種のコイル(巻き数が1)を形成し(実際には一周しなくともコイル成分は発生する)、これも原因になりえるのだ。つまり、現実の配線には、回路図上に出てこない、小さな値の抵抗、コンデンサー、コイルがいたるところにぶら下がった、ほとんど何じゃこりゃ、という事態になっている。つまり、回路図と現実はニアリー・イコールだが、電気的に完全に同じではないのである。

では、これらが回路の動作にそんなに影響するか、というと、これはケース・バイ・ケースで、ギターアンプやオーディオアンプのような低周波用のアンプなどでは、ほとんど無視できて、まるっきり影響しないことの方が多い。実は、配線の仕方がノイズや発振に影響する「勘どころ」のようなものがいくつかあり、それを避けさえすれば大丈夫なのである。この勘所は、次の「配線する」のところで紹介したいと思う。

ただ、ここでいくらかは配線のガイドラインについて述べておこう。第一章に載せた本機の回路図だが、これは、だてに適当に描かれているわけでなく、信号の流れに沿って整然と配置されているのが普通だ。この回路図で言うと、左から信号が入ってきて、増幅され、右から出て行く。そして、電源部は信号部と分離されて下側に描かれ、電源部と信号部の間は、プラスの線とマイナスの線(マイナス側は、アース記号で共通になっている)の2本で結ばれている。


結線のしかた
実は、回路図上の結線のされ方は割ときれいに整理されていて、配線するときも回路図の結線に沿って配線して行くことをお勧めする。例をあげると、いくら物理的に配線がしやすいからといって、右図の(a)のようにはせず、ちゃんと(b)のように順々に配線した方が無難だ。ただ、実際にやってみると、そう簡単には順々に配置できないもので、けっこう悩むと思うが、上記は原則として守っておいた方がトラブルが少なくなる。

あと、信号系の配線でもう一つ注意点がある。これは回路図の順に配置して行けば起こらない道理なのであるが、入力周りの配線と出力周りの配線はあまり接近しないようにする。例えば、入力のギター信号が通る線とパワー管から出て行く信号の線が2本並んで配線されたりなどすると、まずたいていの場合、発振する。つまり、出力の大信号が入力に飛び込み、それがまた増幅されて出力に現れ、という循環が続いて発振するのだ。

発振したとき、スピーカーから「ギャー!」と分かりやすく鳴っているときはまだ、「あ、発振してる!」と分かるのだが、これが、人間の可聴帯域(20Hz〜20kHz)より高い(あるいは低い)人間に聞こえない音のところで発振しているときはけっこう厄介である。スピーカーからは、なーんにも聞こえないのに、音がつぶれたみたいにひどい、などということが起こることがある。つまり、超高音の発振で回路が占有されたみたいになり、当のギターの音をダメにするのである。

以上、2つほど紹介したが、この辺の配線テクニックはいわゆるノウハウに属するもので、経験しだいでだんだん身につく、という感じのものである。しかし、まあ、おしなべて、オーディオ系のアンプでは、それほど神経質にならずとも大丈夫だったりもする。