立ち食いソバ

立ち食いソバはすでにわれわれ大衆の食事情にしっかりと根付いていて、とても重要なものである。ここでは歴史は語らないが、少なくとも五十年以上は続いているはずである。

かけそば

それでは、まず、超基本の「かけそば」から紹介しよう。

立ち食いそば屋のかけそば

立ち食いそば屋のかけそば。掛け値なしのネギのみ。ネギに混じる緑が郷愁をそそる (*)

七味唐辛子

七味唐辛子 (*)

そばに熱いつゆをはり、刻みネギが乗っている。それだけである。食卓に乗る薬味はふつうは七味唐辛子のみで、好みでこれをかけて食べる。

次に作り方だが、まず、そばを湯に入れて暖める。ほんの数秒ほどだ。これを椀に入れ、そこに寸胴で煮立っているつゆをかけ、ネギの乗せて終了。時間にしてほんの30秒ほど、非常に速い。

立ち食いそば屋の厨房

立ち食いそば屋の厨房 (*)

そばはすでにゆでて火の通っているものを使う。これはスーパーに行ってもふつうに買える。つゆはここは東京なので濃い口ショウユが大量に入ったかつおだしの黒い汁である。汁として全部飲むには塩辛すぎるぐらいの濃さなので、つゆは残してしまうことも多い。店舗でだしをとることはなく、業務用の濃縮液体あるいは粉末を湯に溶かして使っている。ネギは東京の白ネギ。節約のため青みが入ったところまで刻んであることが多い。完全に青いところは固くて辛くてさすがに薬味にならず、使わないのがふつう。

立ち食いそばのかけは決してうまいとは言えないが、これぞ大衆食の原点といった風格がある。

そして、かけそばのそばをうどんに替えれば次のかけうどんになる。

立ち食いそば屋のかけうどん。これは少しのわかめがサービスで付いている。

立ち食いそば屋のかけうどん。これは少しのわかめがサービスで付いている。 (*)

うどんも蒸してすでに火の入ったもので、暖めるだけで食べられるものである。

店舗

立ち食いそばの店舗はいたるところにあるが、駅のホームにはかなりの率であったりする。そのためこれを「駅そば」などと称することもある。あとは商店街や、あるいは競馬場や遊園地のようなイベント会場の近くにあることもある。

立ち食いそば屋の外観。これは駅そば

立ち食いそば屋の外観。これは駅そば (*)

店内はだいたいこんな感じである。立ち食いなので基本はカウンターで、スツールが置いてあり座れる場合もある。昨今の立ち食いはほとんどが券売機式である。ただ、トッピングやイナリのような追加品についてはお店の人からそのまま現金で買えることもある。水は給水器でセルフサービスが大半。椀やコップ、箸などの食器はだいたいがチープなプラスチック製である。食卓調味料はカウンターの七味唐辛子のみが多い。

立ち食いそば屋の店内。なんとなく侘しい。

立ち食いそば屋の店内。なんとなく侘しい。 (*)

値段はもちろん年月によって変わり、店舗によっても変わるが、2013年現在で言うと、基本のかけが280円、たぬききつねが350円ていどである。

メニュー

以下は典型的な立ち食いそば屋のメニューである。

メニュー 説明
かけ ネギのみ。サービスで少しのわかめが乗ることあり。
たぬき 揚げ玉、ネギ、(わかめ)
きつね 甘辛く煮た薄い揚げ、ネギ、(わかめ)
玉子 生卵がひとつ、ネギ。月見そばとも言う
わかめ わかめ、ネギ
山菜 山菜の水煮、ネギ
コロッケ コロッケ、ネギ。安いジャガイモコロッケが乗る。
かき揚げ かき揚げ、ネギ、(わかめ) かき揚げは、タマネギ、ニンジン、ゴボウ、桜エビあたりが入る。
えび天 えび天、ネギ、(わかめ) このほか、イカ天、キス天、ゴボウ天、チクワ天などがある。
カレー カレー、ネギ。カレーライスのカレーがかかっている。簡易カレーうどん的なもの。

トッピングの基本は「たぬき」と「きつね」である。たぬきは、かけに揚げ玉を乗せたもの、きつねは、かけに薄い揚げを甘辛く煮付けたものが乗る。店舗によってサービスに少しのわかめが乗る場合もある。よく知られているが、このたぬきときつねの呼称は関東と関西で異なっている。ネットのたとえばここを参照のこと。

たぬきそば。揚げ玉が乗る。

たぬきそば。揚げ玉が乗る。業務用の人工揚げ玉が使われている。 (*)

きつねそば。揚げが二枚。サービスでわかめが乗っている。

きつねそば。揚げが二枚。サービスでわかめが乗っている。 (*)

この二つは古い伝統が残っているもので、昨今ではあまり存在感はなく、古くからのメニューがそのまま残っている観が漂っている。ただし、この二種とわかめは前述の「かけ」の次に安いことが多い。

メニューにあるように、たぬきときつね以外にいくつかの定番がある。これらのトッピングは複合で乗せることもできる。もっとも券売機では複合技チケットが買えないことが多く、そのときは店員に直接言って現金で払わないといけない。このメニューで分かるように、立ち食いそば屋では、かけに乗せるトッピングを替える以外の調理バリエーションはほとんど無い。

以上のメニューはすべてうどんでも注文可能である。両者の値段は同じなので、券売機ではそばうどんの区別なく買ったチケットをお店の人に渡すとき、そばかうどんかを伝える場合もある。

冷やし

特に夏場になると冷やし系がメニューに入る。もっとも、「もり」と「ざる」はそば屋の定番メニューとして通年で供給することが多い。

もり。刻み海苔が無いのでもりであろう。

もり。刻み海苔が無いのでもりであろう。 (*)

もりとざるの違いは、調べるといろいろあるが、現代のそば屋では「もり」はそばだけ、「ざる」はそばに刻み海苔が乗っているという違いしかなく、ほとんど同じである。

夏場定番で現れるのが「冷やしたぬき」であろう。

冷やしたぬき。練りわさびは容器の上になすりつけてある。 (*)

冷やしたぬきは、冷やしたそばに、ネギ、揚げ玉、わかめを乗せ、冷たいつゆをかけ、練りわさびを添えたものが定番である。

その他

そばうどんに添える食べものとして、おにぎりやいなり、あるいは白飯が用意されている店も多い。小さなショーケースに入っていて自分で取ってその場で現金で払う場合もある。

いなり2ケ。

いなり2ケ。 (*)

最近の立ち食いそば屋は、以上のそばうどんのメニューに加えてご飯ものをおいていることが多い。立ち食いでは調理手順の多いものを供することはないのが基本で、そのため、そばうどん以外のメニューは少ない。定番としてはカレーライスである。それ以外には、カツどん、天丼(そばのかき揚げを飯の上に乗せ、そばつゆをかける簡易ものも多い)、とろろ丼などあるが、例外であろう。ただ、特に腹いっぱい食いたいという人のためにご飯ものは重要で、何かしらご飯ものがある店が多い。その場合、そばうどんとのセットを出していることが多い。

飲み物はふつうは水だけだが、ビールをおいている店もある。


(*) 画像はGoogleサーチで持ってきた無断転載である。写真撮影次第差し替え予定。