中国料理の作り方あれこれ

中国家庭料理入門を出版した後、相変わらずときどき新しい料理を試してみたり、古くから作っている料理を再検討して作り方を変えてみたり、のろのろと研究を続けている。そこで、ここではそんな最近の試行錯誤の中から、作り方を紹介できるものを選んで掲載することにする。

だから、ここに載っている料理は、中国家庭料理入門に載っていないか、あるいは載っていても作り方が異なるものである。あの本を書き始めてもう3年くらい立っている。調理というのは年齢とも関係あるのか、同じ料理でもだんだん作り方が変わってくるものだなあ、とつくづく思う。

それに加えて、中国料理を長年やっていて、気が付いたことや、経験談やその他もろもろ雑多なことをエッセイ風あるいはコラム風にして散りばめてみることにしよう。


目次

 ◆棒棒鶏  〜バンバンジー〜
 ◆回鍋肉  〜ホイコーロー〜
 ◆宮保蝦仁  〜小エビとカシューナッツのトウガラシ炒め〜
 ◆魚香肉丁  〜豚肉角切りの魚香味炒め〜
 ◆干烹蝦球 〜エビ唐揚げの甘酢からめ〜
  コラム 中国料理を始めた頃
 ◆芙蓉蟹 〜カニタマ〜
  コラム 調味量の配分
 ◆拌猪耳  〜豚耳のあえもの〜
  コラム 味付けの工夫

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棒棒鶏 (バン・バン・ヂー)

〜バンバンジー〜

 ゆでた鶏肉にゴマ風味のソースをかけるこの料理は、もともと四川料理としてポピュラーなものである。ゆで上がった鶏肉を棒で叩いて柔らかくすることから、この名前がついた。日本の鶏肉ははじめから肉質が柔らかいので叩く必要はないだろう。ここでは、同じゴマ風味でも、棒棒鶏ソースに似た四川独特のソースである怪味(グァ・ウェイ)ソースを使ったものを紹介しよう。
 

◆材料と調味料

・鶏の胸肉1枚
・キュウリ半本
・怪味ソース─芝麻醤大2、豆板醤大1/2、ニンニクソース大2、ゴマ油大1、油大1、ネギ、ショウガ
 

◆下ごしらえ

 適量の湯を沸かし、ネギ5cm、ショウガ1片、老酒大1、塩少々を入れ、沸騰したら鶏胸肉を入れ、弱火で15分ゆでる。
 火を止めたらネギ、ショウガを取り出し、ゆで汁の味を見ながら塩を加え、スープとして飲める程度、しっかりと塩味を付け、そのままの状態で冷ます。
[注]ここで塩味を十分にきかすのがポイントである。スープが鶏肉にしみこみ易くなり、肉が柔らかくなり、また適度な下味が付き、おいしく仕上がる。
 十分冷めたらそのままボールに移し、冷蔵庫で冷やす。だいたい全体で2時間以上鶏肉をスープにつけておくことになる。
[注]このスープはとてもおいしいので、あとでネギのみじん切りをいれるなどしてトリスープとして飲むといい。
 

◆タレを作る

 ニンニクソースはたくさん作って保存しておくといい。冷蔵庫で2、3カ月は保つ。
作り方 ショウユ2、砂糖2、老酒1、水少々の割合で鍋に入れ、10分ぐらい弱火で煮る。火を止めたら熱いうちにニンニクのすりおろしたものを入れてかき混ぜ、そのまま冷ます。ニンニクはソース150ccにつき一粒ていど。
[注] このまま保存すれば、日が経つにしたがってニンニクの香りが強くなる。これを嫌う場合は一度漉してから保存する。
 中華鍋に油大1を熱し、ここに豆板醤大1/2、芝麻醤大2を入れて焦げないように軽く炒める。ここにニンニクソース大2、酢大1/2を加えて味を見ながらこれをのばし、ボールにあける。これにゴマ油大1、ネギのみじん切り大1、ショウガのみじん切り小1を加え、軽く混ぜると、怪味ソースができる。
[注] 怪味ソースは、調味料それぞれの味が強くもなく、弱くもなく、複雑で不思議な味がする、というところから来た名前である。これはどろっとしていて濃厚であるが、棒棒鶏ソースは芝麻醤を控え、もっとさらっとした感じである。
棒棒鶏ソースの作り方 中華鍋に油大1を熱し、芝麻醤大1を入れて焦げないように軽く炒める。ここにニンニクソース大3を加えて味を見ながらこれをのばし、ボールにあける。これにゴマ油大1、ラー油大1/2、ネギのみじん切り大1.5、ショウガのみじん切り小1を加え、軽く混ぜると、棒棒鶏ソースができる。
[注] ここで示した調味料の量はあくまで目安である。全体に甘みがかなりきつくなっているので、これを嫌うときはニンニクソースとショウユを半々で使う、あるいは山椒粉や八角などを加えて香りを付けるなど、味を見ながら自分のソースを作って頂きたい。
 

◆作り方

 キュウリを縦半分に切り、これを厚めのそぎ切りにし、皿の中央に盛る。
 鶏肉をスープから出し、皮を下にして、3mmていどの薄切りにし、これを先のキュウリにかぶせるようにして盛りつける。
 食べる直前に怪味ソースをまんべんなくかけて供する。
[注] 棒棒鶏ソースの場合、鶏肉もキュウリも細切りにすることが多い。棒棒鶏ソースはタレと油が分離しているので、始めに油とネギをすくって鶏の上からかけ、その後タレを上からかけるようにすると、材料から水気が出にくくおいしく食べられる。

回鍋肉 (ホェイ・グォ・ロウ)

〜ホイコーロー〜

 豚肉とキャベツを辛ミソ味で炒めるこのホイコウローもすっかりポピュラーな中華料理だが、元は四川の家庭料理である。いったん茹でた豚肉を薄切りにし、これを再び鍋に戻して炒めることからこの名前が付いた。だから生の肉を直接炒めて作るとこの名前は付けられないことになるのだが、そう厳密にならなくてもよいだろう。もともと四川の家庭では、豚肉の塊とダイコンなど季節の野菜をたっぷりの水でまずは茹で、茹でた豚肉を薄切りにして各種の料理にし、最後に茹で汁をスープとする連鍋湯(リェン・グォ・タン)という家庭料理があり、回鍋肉 はその中で生まれた料理と思われる。この合理的で楽しい料理はスープ料理の章で紹介しているのでそちらを参照のこと。
 

◆材料と調味料

・バラ肉塊を茹でたもの、あるいは生のバラ肉塊を150g 豚の脂身を鍋で炒り出して味を出す料理なので、バラ肉など脂身の入った部位が向いている。
・キャベツ、ピーマン適量 本場四川ではニンニクを青ネギ状に育てた青蒜苗(チン・ソァン・ミァオ)が使われるが、日本ではほとんど手に入らない。この料理にキャベツを使うのも、もとは四川料理を初めて日本に紹介した故陳建民が青蒜苗の代わりとして試行錯誤を繰り返した結果が定着したものと言われている。
・白ネギ半本、ニンニク1粒
・調味料─豆板醤、甜面醤、豆鼓、ショウユ大1、老酒小2、砂糖大1/2、コショウ少々、ゴマ油少々
 

◆下ごしらえ

 豚肉は厚めの薄切りにする。
 キャベツは乱切り、ピーマンは種を取り縦4つ割り、ネギは5cmのぶつ切りを縦割りにし、ニンニクは薄切りにする。
 豆鼓大1を水でもみ洗いし、荒く刻んでおく。
[注]豆鼓は省略してもよいが、入れると味に深みが出る。
 

◆作り方

 鍋に適量の油を中火で熱し、キャベツとピーマンを焦がさないように炒めて、しんなりしたら取り出しておく。
[注]豚肉と一緒に炒めてしまう方法もあるが、野菜から水気が出て味がぼけてしまう恐れがあるので、このようにした方が失敗が少ない。
 続けて鍋に少量の油を強火で熱し、豚肉を入れて脂を炒り出すようにして、肉が少し色付き、少し巻きあがる程度までしっかり炒める。最後の方でネギ、ニンニクも一緒に加えて炒める。
[注](1)強火でしっかり炒めないとバラ肉の脂身の臭みが残る。
(2)ちなみにここで茹で豚でなく生肉を使った場合、正式な料理名は生爆塩煎肉(シェン・バオ・イェン・ジェン・ロウ)となる。
 鍋を傾けて鍋肌に油を集め、ここに豆板醤大1/2、甜面醤大1、豆鼓を加え、ちょっと炒めて香りを出してから全体を混ぜ合わせる。
 キャベツとピーマンを戻し、酒小2、ショウユ大1、砂糖大1/2、コショウ少々を加え、炒り付けるように炒める。
[注](1)各種調味料を炒り付けて水分を蒸発させ、豚脂身の旨みと共に味を出す調理法である。したがって焦げないぎりぎりの強火で調理すること。
(2)この料理は砂糖を気持ち多めに入れると良いようである。味見しながら加減すること。
 味が決まったら最後にゴマ油大1/2を回し入れて皿に盛る。

宮保蝦仁 (ゴン・バオ・シァ・レン)

〜小エビとカシューナッツのトウガラシ炒め〜

 宮保味は四川料理の味付けで、トウガラシを油でゆっくりと炒め辛みと香ばしさを引き出し、少し甘酢がかった味で調味するところに特徴がある。たぶん、油でゆっくりとかりっとするまで揚げたカシューナッツと油炒めしたトウガラシの香りが引き合うのだろう、この味付けにはナッツ類がよく合う。さらに柔らかいエビとナッツの歯触りの対照もよく、なかなか良い料理である。
 

◆材料と調味料

・冷凍小エビ
・にんにくの芽半束 その他ピーマン、キュウリなどでもよい
・カシューナッツ適量 この他ピーナッツ、くるみ、マカデミアナッツなど色々試してみるとよい。
・白ネギ1本、ショウガ、ニンニク各適量、乾燥トウガラシ5本
・調味料─ショウユ大1、老酒小2、酢小2、砂糖小2、コショウ少々、水少々
 

◆下ごしらえ

 エビを解凍して、殻をむき、包丁で背開きにし、背わたを取る。これを適量の塩と片栗粉を加えてもみ洗いして汚れを落とし、水洗いする。
 ボールにエビが十分ひたるくらいの水を入れ、ここに塩小1を溶かし込み、エビを入れて1時間ほどつけておく。
[注]これは省略してもよいが、こうすると臭みが抜け、歯触りよく仕上がる。
 エビをざっと水洗いし、水気をよくふき取り、塩少量、酒小2、コショウ、ゴマ油各少量を入れ、手でよくもんで下味をつける。後、片栗粉大1を加えて混ぜる。
 にんにくの芽は3cmぶつ切り。ネギは斜め1cmぶつ切り、ショウガは1cm角薄切り、ニンニクはみじん切りにしておく。
 トウガラシはへたの部分を手でちぎり、種をもみだしておく。
 ショウユ大1、老酒小2、酢小2、砂糖小2、コショウ少々、水少々、片栗粉小1/2を小腕に入れ、混ぜ合わせておく。
 

◆作り方

 湯を沸かし、沸騰したら火を止め、小エビをばらばらになるように入れ、静かにかき混ぜて火を通し、15秒ほどでザルにあげる。
 鍋に杓子2杯の油を入れ、ぬるいうちにカシューナッツを入れて強火にかけ、たえずかき混ぜながらゆっくり揚げる。薄茶色に色づき始めたらザレンですくいだす。
[注]カシューナッツは油から上げた後もいくらか色づくので揚げ過ぎに注意。
 続けてにんにくの芽を入れ、表面に少し皺がよるくらいしっかり揚げ、油ごとザレンにあげる。
[注]30秒くらい。にんにくの芽は下ゆでしてさっと油に通すという方法もある。
 鍋に油大2を入れ、トウガラシを入れ、弱火でかき混ぜながらゆっくり炒め、香りを引き出す。トウガラシが赤黒くなったら強火にし、ネギ、ショウガ、ニンニクを入れ軽く炒め、材料すべてを戻し入れる。
 調味料をよく混ぜ合わせ、鍋を返しながら少量ずつ加えて行く。調味料がまんべんなくからまったら皿に盛る。
[注](1)慣れていれば、左手で鍋を返しながら杓子に入れた調味料をたらし入れるが、左手で小腕から調味料を入れ右手で材料を混ぜればよい。
(2)片栗粉抜きの調味料を先に入れ、材料を戻し、片栗粉でまとめるという方法でももちろん構わない。ただし、この場合カシューナッツが調味料の水気を吸って歯触りが悪くなるので、カシューナッツだけ一番最後に合わせて盛りつけるようにする。


魚香肉丁 (ユイ・シャン・ロウ・ティン)

〜豚肉角切りの魚香味炒め〜

 魚香味は四川料理の代表的な味付けで、豆板醤の辛みと香りにニンニク、ショウガの香りを合わせ、少し甘酢がかった味に特徴がある。ここでは豚肉の角切りとセロリを主材料にして炒め合わせた料理を紹介する。
 

◆材料と調味料

・豚もも肉180g
・セロリ1本、ピーマン1個、タケノコ適量 この魚香味には日本ではあまり火を通して食べないセロリやキュウリなどの野菜がなぜか向いている。色々試してみるとよい。
・白ネギ1本、ショウガ、ニンニク各適量
・調味料─ショウユ大1.5、老酒大1、酢大1、砂糖大1、コショウ少々、水大1、豆板醤大2/3
 

◆下ごしらえ

 豚肉は1.5cm厚の板状に切り、肉の厚さの2/3まで細かく格子状に切り込みを入れる。これを裏返し、1.5cm角に切り分ける。すなわち1.5cmの角切りにする。
 豚肉をボールに入れ、塩適量、酒小2、コショウ、ショウユ各少々、卵白適量を加えよく混ぜ合わせ、しばらく置く。後、片栗粉大1を加えて混ぜ、最後に油大1を入れて軽く混ぜる。
 セロリ、ピーマン、タケノコはすべて1.5cm角ていどに切り分ける。
 ネギは斜め1cmぶつ切り、ショウガは1cm角薄切り、ニンニクはみじん切りにしておく。
 ショウユ大1.5、老酒大1、酢大1、砂糖大1、コショウ少々、水大1を小腕に入れ、混ぜ合わせておく。
[注]甘酢味は酢と砂糖を同量合わせるのが基本である。ここでの量は、ショウユ、酒、砂糖、酢が3:2:2:2の割合で甘酢が少しきつめである。例えば3:2:1:1にするともっとあっさりした仕上がりになる。調味料を合わせる時点でよく味見して好みの加減を覚えておくとよい。
 

◆作り方

 鍋をよく空焼きし、冷たい油を勺子1杯入れ、油をなじませて缶にあける。新たに勺子2杯の油を入れる。タケノコを入れ、下味を付けた肉を入れる。鍋を揺すりながら勺子で上から崩すようにしてほぐして行く。泡立ちながらほぐれて行き、全体に泡だったらザレンで材料をすくいだす。
 肉をすくいだしたらそのまま火にかけて油温を上げ、ここにセロリを入れ、3、4回混ぜピーマンを入れちょっと混ぜ、油ごとザレンにあける。これで材料すべてに火が通った状態になる。
 鍋をきれいにし油大1を強火で熱する。豆板醤を入れ少し炒め、ネギ、ショウガ、ニンニクを加え軽く炒めたら、小腕の合わせ調味料をよく混ぜ合わせて加える。
[注]調味料を加えてから軽く鍋肌に広げるように混ぜ、調味料を焦がして味を出す。したがって勢いよく音がするくらい鍋肌の温度を高くしておくことが肝心である。
 先の材料をすべて戻し入れ、2、3度あおり返して調味料をからめ、水溶き片栗粉大1/2を入れてあおり返し、タレを止めて皿に盛る。
[注]中華鍋のあおり返しは慣れると便利だが、あまりがちゃがちゃとせわしなくやるのはよくない。材料が壊れてしまうし(この料理ならネギがばらばらになる)、材料が空中に居る時間の方が長くあまり意味がなくなる。家庭では特に鍋肌の温度が低いので、なるべく材料、調味料が鍋肌によく当たるように気を付ければおいしくできる。


干烹蝦球 (ガン・ポン・シァ・チゥ)

〜エビ唐揚げの甘酢からめ〜

 これはエビを唐揚げにし、ニンニクの香りを生かして、ショウユを加えない透明な甘酢あんをからめたもので、京都河原町の「東華菜館」のものを元にしている。エビは中型以上のものを背開きにして調理すると、くるりと丸まって球状になる。これを蝦球と呼んでいる。
 

◆材料と調味料

・中型より大きいエビ
・キュウリ、生シイタケ少々
・ネギ、ショウガ、ニンニク
・調味料─老酒小2、酢大2、砂糖大2、塩、コショウ少々、水大1、ゴマ油少量
 

◆下ごしらえ

 エビを解凍して、殻をむき、包丁で背開きにし、背わたを取る。これを適量の塩と片栗粉を加えてもみ洗いして汚れを落とし、水洗いする。
 ボールにエビが十分ひたるくらいの水を入れ、ここに塩小1を溶かし込み、エビを入れて1時間ほどつけておく。
 エビをざっと水洗いし、水気をよくふき取り、塩少量、酒小2、コショウ、ゴマ油各少量を入れ、手でよくもんで下味をつける。
 キュウリ、生シイタケは細切り、ネギは糸切り、ショウガ、ニンニクはみじん切りにしておく。
 老酒小2、酢大2、砂糖大2、塩、コショウ少々、水大1に、片栗粉少々を加え小腕に入れ、混ぜ合わせておく。
[注]タレの量はエビの量により加減するが、あまり多くせず、エビに平均にくるまる程度とする。片栗粉の量は経験によるが、この料理の場合、多すぎるよりは少ない方が良い。小匙半分くらい。
 

◆作り方

 下味を付けたエビに、表面が粉っぽくなる程度に片栗粉を加える。
[注]片栗粉があまり少ないと、高温の油に入れたとたん衣がはがれてちりちりになったりする。適量を入れること。
 油を180度ていどに熱して、エビをばらばらに入れる。エビは瞬間的に火が通るので、衣が固まればザレンに上げる。20秒ていど。
 鍋をきれいにし、油大1を強火で熱する。ショウガ、ニンニクを加え、キュウリ、生シイタケを加え軽く炒めたらエビを戻し入れる。
 小腕の合わせ調味料をよく混ぜ合わせ、材料に回しかけ軽く鍋をあおる。ネギ細切りを乗せ、ゴマ油少量を入れて軽く混ぜ合わせて皿に盛る。
[注]ネギを最後に入れてからはすぐに仕上げること。瞬間的に火の入ったネギは、油で炒めたのともまた違った独特の芳香がある。特にショウユを使わない料理、例えばこの料理、炒飯、エビのチリソースなどにこのネギの香りは良く合うので、仕上げ前に加えることをお勧めする。


中国料理を始めた頃

 中国料理を始めたのは15年ほど前、学生の頃だったが、思い出すも悲惨であった。参考資料は「中国料理技術入門」と「今日の料理、陳建民の炒めもの特集」の2冊だけ。「中国料理技術入門」はプロ用専門書で調理法に詳しいが、まず調味料の量が書かれていない。だからこの本は毎日飽かずに眺めて、中国料理の基礎知識を身に付けるためのものだった。実際作るときには「今日の料理」を参照した。ショウユ大匙何杯、などなどと初心者なのでちゃんと計量して作っていたが、そのとき家にあった小匙が2.5cc、つまり小匙半分のもので、何も分からず使っていたものだった。
 その頃の第一の課題は、いかにして鍋底に焦げ付かせずに油通しをするかだった。今では何でもないが、手本なしにあれをやるのはきつい。要は鍋をよく空焼きする事と、材料を入れてからすぐにかき混ぜずに、ゆっくりと鍋をゆするようにして、底から杓子を入れるようにかき混ぜながらほぐすのだが、これがなかなかできなかった。
 あと、もっと問題だったのは、ちゃんとレシピー通りに作っても、どうしてもおいしくできないことだった。ほどほどの味にはなるのだが、例えば高級料理店で食ったものとは似ても似つかない。なぜだろう。そこでスープのせいにしたり、ショウユのせいにしたり、隠し味を疑ってみたり、調味料の配分のせいにしたり色々やったが、どれも決め手にはならなかった。
 あの頃僕が作った料理は、見た目は中国料理だが、どれもこれもひと味足りない、というものだった。そこで僕は調味量が足りないのだろうと思ったのだった。実はこれは間違っていて、実際は、調理の始めから終わりまでのあらゆる操作の相互のバランスが狂っていたのだった。これに気付くのにまあざっと10年はかかってしまった。先生がいたらこんなことにはならなかっただろう。さて、どのように気付くに至ったかはまた項を変えて紹介しよう。


芙蓉蟹 (フウ・ヨン・シェ)

〜カニタマ〜

 おなじみ大衆料理のカニタマである。天津丼の乗せ物として出てくるが、上から甘酢あんやショウユ色のくずあんをかけたものが多い。ここでは、あんをかけない高級料理風「カニ肉入り卵の炒め」という感じのものを紹介しよう。
 

◆材料と調味料

・卵4コ
・カニ缶半分、生シイタケ2枚
・ネギ、ショウガ
・調味料─塩適量、コショウ少々、ゴマ油少量
 

◆下ごしらえ

 卵4コをボールに割り入れ、塩適量、コショウ少々、ゴマ油少量で味を付け、よくかき混ぜておく。よく味見をし、塩加減に注意する。
[注](1)あんをかけないので塩味はしっかりと付ける。なめてみておいしいなあという程度の塩加減。あたりまえだが少なくても多くてもいけない。経験による。
(2)ゴマ油は味付けというより卵の生臭さを消すために入れる。
(3)ここでの調味料は最低限に近い。隠し味の砂糖だとか、ショウユだとか酒だとか化学調味料とか入れたくなるが、入れたくなったときは入れて良い。ただし入れないでも大丈夫。要は気の持ちようである。
 生シイタケ、ネギ適量、ショウガ少量はすべて細切りにし、カニはほぐして一緒にしておく。また、カニ缶の汁は味がよいので卵汁に少量加えておく。
[注]カニ缶は値段が高いほど旨い。これは致し方ない。まあ、一缶千円程度のものなら十分だろう。調理のテクニックでかなり救えるが、最終的なカニの風味となるとこれはしょうがない。財政事情に応じて。
 スープ大1.5、塩、酒各少量を合わせておく。スープがなければお湯でよい。スープの素などは使わないこと。
 

◆作り方

 鍋に油を熱し、卵以外の材料を入れ軽く炒め、酒小1、塩少々を加えて香りを出し取り出す。
[注]これは結構重要な操作である。カニの風味などが倍加する。
 炒めた材料を卵汁に加え軽く混ぜる。
 鍋をきれいにし、油大3の多めの油を強火で熱する。煙が出始めたら卵汁を一気に入れる。回りが泡立ってくるので、これを杓子で内側に折り込むようにして、全体を何重にも折り込むように混ぜ、真ん中にひとつにまとめる。
[注](1)これは非常に言葉で説明しにくいが、ここでの炒め方は非常に重要である。今まで見たとおり味付け自体は非常にシンプルであり、最終的な味はすべて炒め方にかかっている。不思議なことに失敗するとまるで違う味になる。
(2)ポイントは卵の何重もの層を作るような感じでさばくこと。基本的には卵を四方八方から折り返すような動作になる。中国料理の場合高温処理なのでこの操作はすばやくする。ただし、ガシャガシャかき混ぜるのは良くない。
 少量の油を鍋肌から回し入れ、鍋をあおって裏返す。少し底を焼いたら合わせておいたスープを回し入れ、もう一度裏返し、皿に盛る。
[注](1)卵は中が半熟ていどで鍋から下ろす。経験によるが、杓子で押さえてみて十分弾力がある程度。
(2)表面の焼き色は若干付く程度に留める。
(3)最後に回し入れるスープは味付けというより卵をしっとりさせるため。卵が完璧に出来上がっていればなくてもよい。


調味量の配分

 例えば炒めもの。中国料理技術入門にはショウユ3、酒2、砂糖1の割合とある。この割合もいろいろいじってみた。あるときは砂糖を少な目にしてうまく行き、そのうちあまりさえない味になると今度は砂糖を多めにし、と、どうもなかなか割合が決まらない。
 そんなことを繰り返しているころ、あるとき中華街の上海飯店に行き、ピーマントリを注文する。僕はカウンターに座り、あんちゃんが小腕に調味料を合わせる所を見ていた。杓子半杯のショウユ、べっこう色の老酒、砂糖を入れ、スープをほんの少量入れた。すぐに分かったがこの割合はやはり3:2:1だった。ふん、やっぱりそうか。
 家に帰って再び初心に返って3:2:1で作るとうまく行った。結局分かったことは少し変だが、3:2:1が正しかったということではなく、そんなに気にするなということだった。というより、調味料の配分にばかり気を取られるな、ということである。


拌猪耳 (バン・ヅゥ・アル)

〜豚耳のあえもの〜

 台湾小皿料理が流行って何年もたち、今ではすっかり定着しているようである。この手の小皿料理に内臓のあえものは付きもので、まずは胃袋や舌で一杯という風景にはなかなか幸せなものがある。台湾に限らず中国ではあらゆる内臓を食う。独特の臭みを消すために調理は若干面倒だが、何せ安い。ぜひ一回やってみるとよい。ここではあまりくせがない豚耳を紹介する。これは内臓ではないが、調理上は内臓扱いで、その他の内臓類も同様に調理する。応用の欄を参照。
 

◆材料と調味料

・豚の耳を数枚─豚の耳は問屋扱いでスーパーなどでは売っていない。肉のハナマサ(築地ほか支店多数)などでは冷凍で、あるいはアメ横ビルの地下食料品売場では生で手に入る。いずれもタダのように安い。(タダのように安いのは昔のことだった。最近調べてみたら、昔100g50円以下だったものが100円近くになっていた。昔は捨て値だったが、今は需要が増えて値をつり上げたのだろうか。豚コマより高いというのには頭にくる)
・ネギ  ・調味料─ショウユ、ゴマ油各適量、豆板醤少量
・煮汁調味料─ショウユ、酒、砂糖、塩、コショウ、ネギ、ショウガ、香辛料多数
 

◆下ごしらえ

 豚耳を解凍し、沸騰したお湯で湯通しする。水に取り、タワシやハブラシなどで、全体がきれいに白くなるように茶色い汚れをこそげ落とす。
[注](1)買った豚耳のコンディションによる。耳をばっさりと落としただけのワイルドなものは、剃刀で剃るか、バーナーで毛を焼き、湯通しし、タワシでこする。
(2)臭いをかいでみて豚舎の臭いが残っているようだったら(変な話だがこれは本当にある)、湯通しとこすり洗いを、ただの豚脂身の臭いだけになるまで繰り返す。
 豚耳がきれいになったらお湯で1時間下ゆでする。

◆鹵水(ル・シェイ)で煮込む

 香辛料入りの煮汁「鹵水」を作る。鍋にたっぷりの水を入れ、ショウユ3、酒2、砂糖1の割合で味付けし、塩を適宜入れ、ラーメンスープぐらいの塩加減に調節する。
 香辛料とネギ、ショウガを布に包んで口を縛り先の汁に入れ、そのまま20分くらい沸かし、香りを汁に移す。香辛料はありものをたくさん目に入れる。八角、山椒、桂皮、陳皮などを全部で2掴みくらい。
 下ごしらえした豚耳を鹵水に入れ、1時間静かにゆで、取り出して冷まし、冷蔵庫にでも入れておく。
[注](1)香辛料のせいで冷蔵庫で1週間ぐらいはもつ。
(2)鹵水は捨てずにあらゆる肉、内臓を毎日煮込むことで複雑なよい味になって行くのだが、まあ、家庭では毎日内臓を食い続けるのは無理だろう。
 

◆豚耳をあえる

 耳の付け根の厚い部分を斜めにそぎ切りにし、厚さを揃え、はじから2mm幅の細切りにする。白ネギも細切りにする。
 豚耳とネギをボールに入れ、少量の豆板醤と適量のゴマ油を加え、ショウユを回し入れ味見をしながらよく混ぜて、皿に盛る。
 

◆応用

内臓の部位によって堅さが違うので煮込み時間が異なる。以下は目安だが、自分で経験で割り出した時間ではなく、文献による。実際、自分でもすべて作ってみたが、まあ、あまり気を使わず適当でも良いような気がする。
・豚舌 お湯で1分、鹵水で1時間
・豚ハツ(豚の心臓) お湯で30分、鹵水で1時間
・牛舌 お湯で2時間、鹵水で1時間半
以上はできれば、1割の塩と適量の酒で3、4日漬け込んで使うとよりおいしくなる。面倒なら省略する。また以上は薄切りで供する。
・ガツ(豚の胃) お湯で2時間、鹵水で1時間
・ハチノス(牛の第2胃) お湯で30分、鹵水で1時間
以上は5mm幅の細切りで供する。

味付けの工夫

 例えば、高級中華料理屋でショウユ味の炒め物を食うと、これはもう一口で異様においしい。この味を再現しようとして色々とやってみたがだめだった。ショウユと風味付けの油を作り直しているのだろうとあたりを付けたが、どうも分からない。昔、高級中華料理屋の厨房で働いたことのある人に率直に聞いてみたら、彼の答えは、「火力が強い」と「ショウユに始めからカキ油がはいっている」というものだった。うーん、半信半疑である。実際に料理店では色々と工夫をしていて、買ってきた調味料をそのまま使いはしないようである。もっとも、世に氾濫しているプロの書いた料理本を見ても断片しか見つからず、結局今に至るも分からない。
 四川料理の味付けに魚香(ユイシャン)味というのがある。豆板醤、ニンニクにショウユ、そして酸味を加えた味付けである。ある高級中華料理屋でこの魚香味で味付けした豚肉炒めを食う。一口で旨い、しかしベースの味はあの例のうまいショウユ味で、これに豆板醤が加わっただけだった。次に、六本木四川飯店で同じ料理を注文した。出てきたのは実に素気ない味付けで、あの例の一口で旨いという感じはない。その代わり魚香味という味付けの特徴がとても良く分かるもので、豆板醤の香り良く、それが酸味と引き合っていて、ニンニクやショウガの香りも失われず、最後まで楽しんで食べた。むやみにおいしくするとこうは行かないのである。
 さて、おおざっぱに、おいしさを追求するフランス料理、素材の特徴を追求する日本料理、両方ありの中国料理と言えそうで、まあ、面白いものだなあと思うが、実際にはどんな料理も、このふたつをどううまく配分するかが大切である。これがその料理人、そして料理店の個性であろう。料理店は商売だから自分勝手にその配分は決められず、客の好みや客層を見なければ仕方ない。家で作っている僕達は色目を使う必要もなく、自分の好きに決めればいい。そんな風に考えると妙に安心してしまって、調味料そのものの追求はあるときから止めてしまった。
 さあ、そうなってみると、本当に気持ちがよい。そして不思議と本当においしいものが作れるようになるのである。何年間も試行錯誤してうまく行かなかった料理が、それこそその辺で買ったキッコーマンショウユそのまま使って、突然しっかりした味を持つようになる、不思議なものだ。では何が変わったかというと、気の持ち方だけだ。僕は日本流求道的精神論がだいっきらいなので、これをノリと言いたい。音楽と同じくノリが分かればもうOKである。


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