人からバカだと思われていることを 自慢してるうちにバカになっちゃうよ


人からバカだと思われて自慢するやつがいるもんか、と思うと、そんなことはない、けっこうたくさんいると思う。もっとも自慢する、といっても密かにである。とうぜんながら、その裏には、自分は決してバカではなく、むしろその逆で、周りのやつらより賢い、という自信のようなものがあるのだが。そうなると、これは、バカを演じることはなかなか快感になるはずなのである。おまえらはみなオレをバカにしてるけど、オレは実はおまえらより賢いのだ、おまえらは中途半端に利口だからあくせくと賢く見せようとしているが、オレは違うよ、といった感じである。これは最初のしばらくは正しく功を奏すると思う。実際、周りの人間もバカじゃないから、あいつはあんな風だが実はバカじゃない、と気づいたりしているものなのである。ところが、この状態がしばらく続くとどうなるか、というと、だんだん周りの人間が、そいつのバカに慣れてしまい、自然と、そいつが実は賢い、ということを忘れるようになってしまう。周りの人間にはこのような内的変化が起こっているのだが、彼らの接し方の外面は特に変化がないので、当人はその内的変化に気づかずに、まだ内心の優越感を保っている。それで、これをさらに続けているとどうなるかというと、もう周りはすっかりそいつをバカなやつと認知するようになってしまう。このころになると本人少し焦り始め、ときどき自分がバカでないことを思い出させてやろうと、賢いことをなにげに言ってみたりする。周りは一瞬、その意外さゆえに気に止めるが、あっというまにふだんの評価に戻ってしまう。本人はちょっとだけ溜飲を下げるが、全面的にスタイルを変えて賢い人間路線になるわけでもないので、周りはもうすっかり安定してしまい、だんだんそいつの賢こそうな言動を気に止めなくなってくる。さて、これがもっと続くとどうなるかというと、そいつはますます不安になり、何とか賢いことを言ってみようとする。しかし、もう遅い、なぜならそいつはもう賢いことが思いつかなくなっているのである。どんなにがんばっても気の利いたせりふは出てこない。すなわち、とうとう、本当のバカになってしまったのだ。
スタイルは、実は中身より重要だ、というお話。