目指せロバート・ジョンソン!

ネットをあさってみると、ブルースギター講座なるものはいくらでも出てくるが、ボーカルについては皆無に近いようである。だいたいが、ちまたにあふれる教則本や教則ビデオにしても、ギターものは山のようにあるのに比べて歌についてはほとんどない。たまにあったとしても、発声法とか、発声練習、それで、つまらなーい歌が課題曲かなんだになっていて、あまり役に立ちそうな気もしない。

それから、ギターにはアドリブという見せ場があるわけで、即興をどれだけカッコよく決めるかは大課題である。ロックギターやブルースのギター教則は、このアドリブの解説が多いわけである。たしかに、歌でアドリブをする、というのもあまり無いかもしれない。ジャズにはスキャットという即興パートがあるけど、まあ、ロックやブルースでアドリブで歌うことはそれほど重要視されなかったりする。

でも、やっぱり、たとえばブルースの歌で、その場で即興でメロディーや歌いまわしを変えて歌うことは、これは実はブルースの基本である。むかしのロックバンドなんかは、ライブでは主旋律を崩しまくり、レコードとライブで歌も演奏も全然違う、というのが普通だった。それこそがブルースやロックのダイナミズムを形づくっているわけだから、ボーカリストがアドリブをとれることは実はものすごく重要どころか、基本中の基本なのである。

と、まあ、能書きはいいか(笑)

ここでは、これまでおそらく誰も試みなかった「ブルースボーカルの講座」をやってみよう。これを見て、ブルースがうまく歌えるようになるかは、まったく定かではないが、まあ、自分の楽しみのためにやってみようというわけである。自分も、ブルースをカッコよく歌うのにずいぶん苦労してきたので、まあ、その苦労談の代わり、とでもいったところか。

課題曲

課題曲はCrossroadにしてみようか。クラプトンがその昔クリーム時代にライブ録音して、その演奏があまりにすばらしく有名になった曲で、オリジナルはかのロバート・ジョンソンである。クラプトンのほかにいろいろな人がカバーしているが、みな、オリジナル旋律を自分なりに変えて歌っている。

オリジナルのロバートジョンソンは難易度が相当高いのでちょっと後回しにして、まずは有名な、クラプトンのクロスロードから検討してみよう。この演奏は、ギタープレイとサポートのリズム隊があまりにすばらしく、歌についてはあまり語られていないようである。たしかに、ちょっと添え物っぽい歌い方をしているが、よく聞き込んで真似してみると、そうそう簡単には行かない仕掛けが随所随所にあって、実にクラプトンらしい軽い感じが出た、個性的な歌い方なのである。

クラプトンのクロスロードはこちら: https://youtu.be/MF5fQXVZGug

最初の4小節の歌をちょっとラフに音階を取ってみるとこうなる。

   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8-5-----------|----------------| 
 G|----------------|--7-5-7---5-----|--------7-7---5-|----------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 

ここでお断りだが、僕がギタリストなせいで、譜面はタブ譜である。ギターの人は、このままギターでメロディを弾いていただきたい(ピアノしかできない人ごめんなさい)。歌わずにメロディだけ弾くと、破壊的にダサいフレーズに感じられないだろうか(笑)では、ギターと一緒に歌詞をつけて歌ってみよう。

   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8-5-----------|----------------| 
 G|----------------|--7-5-7---5-----|--------7-7---5-|----------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
             I   down   the   road     fell  on    knee
               went   to  cross          down  my  
			   
(歌をつけたいところですが、サンプル歌唱は難しく、ご勘弁!)

 

うーん、やっぱりダサい・・なぜでしょう。ひとつずつ解明してみよう。

クォータートーンについて

クォータートーンはその名のとおり半音の半分の1/4音のことで、ブルースの旋律がこの12音階から見ると中途半端な音程を取ることは良く知られている。ふつう、こんな風に説明される

「3度の音と7度の音がフラットする。これを黒人ブルース独特の音階としてブルーノートと呼ぶ」

これが、教科書的記述なのだが、この解釈は少なくともブルース歌いにとって良いとは言えないと思う。だって、こう言われると

「ふーん、とにかくフラットするんだ、それで悲しい感じになるんだな。そうだよな、ブルースは暗い音楽だしな、奴隷の音楽だもんな、悲しい響きを出すためにどうしても音程をフラットにしてしまうんだな、うんうんなるほど」

と思わないだろうか。ちょっと待った! こういうことを言う人がいたら「そういう、短調民族的考え方はいけませんよ、アナタ!」と注意してあげよう。では、どう解釈するべきかというと「ブルーノートとは、3度と7度の音がシャープする」と、こう考えましょう。もちろん、ここでいう3度、7度は、短3度、短7度のことでマイナーの響きを持った音である。つまり、明るい感じのメロディーをフラットぎみに歌って暗くするんじゃなくて、暗い感じのメロディーをシャープに歌って明るくするのです。これは生き方の問題とも言えるのではないでしょうか。「明るく振舞ってるけどさ、あー、悲しい暗い・・」といってフラットして行くのではなく、暗い旋律から這い上がるようにシャープして歌うのである。そこに生きるパワーと喜びを見出す、そういう風に、みんな生きようよ、いや、歌おうよ、な! ・・と、そういうことである。

まあ、というわけで、先ほどの旋律の3度と7度の音をシャープ気味で演奏して、歌をつけてみよう。ギターの場合、シャープするのは、ちょっと弦をチョーキングするだけなので簡単にできる。

(斜体太字文字の音をクォーターチョーキングで1/4音ほど上げる)
   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8-5-----------|----------------| 
 G|----------------|--7-5-7---5-----|--------7-7---5-|----------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
             I   down   the   road     fell  on    knee
               went   to  cross          down  my  

   (ちょっと分かりにくいけどこんな感じ)
   

もうちょっと追求しよう。実は、これは、今までほとんど誰も書いていない気がするのだが、ブルースの場合、実はほとんどの音階をシャープ目に歌っていいのである。ただし、原則として、1度と5度はシャープすると音痴に聞こえるのでダメで、あとの2,3,4,6,7は別に構わない。もちろんむやみにシャープするんじゃなくて、カッコ良くなるようにシャープするのである。えー、ホントかよ・・と思う人は、たとえばロバートジョンソンの歌を徹底的に聞き込んで、できれば一緒に真似して歌ってみよう。え? これって呪文?? と思うほど正規の12音階から奔放に外れている様を発見するであろう。

あと、これはボーカル全般に言えることだが、人はテンションが落ちるとどうしても音程がフラット気味になるので、常に高めのラインを取る気持で歌ったほうが結果が良くなる。高めに音程を取る人と、低めに音程を取る人を聞き比べると、仮に音痴でも、高めの人のほうが気分が高揚した感じを受け、逆にフラット気味の人の歌は聞いていて暗い気分になる。暗いからダメだ、と言っているのではなく、もし力強い感じを求めてるのに暗くなってしまう人は、意識的に音程をシャープ目にとって歌ってみよう。

さて、というわけで、先のクロスロードの1,5度以外をシャープ目に演奏するとこんな感じになる

(斜体太字文字の音をクォーターチョーキングで1/4音ほど上げる)
   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8-5-----------|----------------| 
 G|----------------|--7-5-7---5-----|--------7-7---5-|----------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
             I   down   the   road     fell  on    knee
               went   to  cross          down  my  
			   
	(かなりよれてますが雰囲気のみ。ほとんど全部太字ですね 笑)
	

こうやって単独で取り出してしまうと分かりにくいかもしれないが、ブルースはこれを繰り返し繰り返し歌うので、全体としての印象が変わって行くのである。それにしても、まだまだクラプトンが歌っているみたいな味わいは全然出ていないのも分かるだろう。順を追って追求するが、その前に、ボーカルの発音と発声について触れておこう。

発音の仕方について

ここでは英語の正しい発音については解説しない。というか、これって英語教育の話であろう。とはいえ、これは英語の歌を歌う場合の基本中の基本なので、重要ではある。もっとも、最近思うが、第3世界の英語の歌を聞くと(たとえばボブ・マーリーやフェラ・クティほか多数)、決してBBCイングリッシュでも、カリフォルニアのニュースでもない、独特ななまり英語で堂々と歌っているので、別にイーグルスの面々のようなきれいなウェストコースト発音で歌う必要もないと思う。英語は言葉なので、発音より言いたいことを伝える方がずっと重要というわけである。

で、結局、重要なのは英語で意思疎通をすることだろう。ま、これは英会話教室マターなので、これも追求はやめておく。でも、自分の経験で言うと、僕は英会話は遅咲きで、三十過ぎから仕事の必要に迫られて勉強したが、英語がそこそこしゃべれるようになって英語の歌は確実に上達したのは確かである。まあ、これって一朝一夕で出来ることでも無いのでおいておいて、もっと安易な方法などをここで紹介しよう。あ、もちろん、英語ができる人は何の問題もないので読み飛ばしてください。

日本語は母音中心の言葉なので、子音がどうしても苦手なところがあると思う。例えば、Crossroadという単語だって、「クロスロード」と日本語読みすると母音は5つ、「四つ角」と翻訳したって母音は4つだ。英語では母音はたったの2つなので、この言葉はほとんど子音で出来ているのである。ということで、英語の歌を歌うときは、わざと子音を誇張するような感じで歌うといい。よく、単語の語尾の子音をちゃんと発音しなさい、というアドバイスがあるが、あれは実際はどっちでもいい。「Crossroad」だったら「d」の発音だが、スローバラードだったらともかく、別に最後のdをほとんど飲み込んでしまうことはしょっちゅうある。それより「Crossroad」だったら最初の「k」と「r」を強めに発音する方がずっと重要である。明治時代だかの英語の教科書に「Red」の読みがなに「ウレ」と書いていたのを見たことがあるが、確かに聞いたままだとレッドではなくウレである、語尾は聞こえない。

うーん、やっぱり発音指導みたいになってしまうが、仕方ない。あえて日本語読みで強調するポイントを示すとこんな感じだろうか。

(イ) ウェン(ト) ウン ゥ ザ クロスロード ェ(ル) ウン ン (イ)

ところどころカッコに入ってるのは弱くてあまり聞こえない音である。あるいは次の単語の頭とくっついてリエゾンしている場合もある。ウェントのトとダウンのダがくっつくなどである。まあ、こういったことも英会話マターですが。とにかく、こんな風にちょっと子音を誇張して歌って、崩すのはその後、という風に練習するといいと思う。

ここで、どうしても、もう一点だけ注意を書くと、子音を誇張すると今度は、例のよくあるやたらと「チャチュチョ」が聞こえる日本人的英語発音に走ってしまう可能性(桑田啓祐の日本語のような)があるが、あれはブルースでは避けよう。この例では例えば、「ダウン」を「ディヤウン」と発音してしまう、などのケースである。あれは実は子音を強調しているだけでなく、「無い音」まで発声してるからああなるのである。この例では「イ」の音で、これはdownの発音の中には無い。ホンモノのブルースマンで、あのチャチュチョ発音している人はいない

発声の仕方について

ブルースやロックは感覚的な音楽だから、理論や基礎なんかよりハートが大切だ、という考え方もけっこう根強い。これは、たしかに、そうだが、これって、生まれつきそういう感覚を持ち合わせている人に限りで、そうでない人がこの感覚至上に陥ると、聞くに堪えない自己満足ボーカリストになることが多い。ブルースの場合、たいがいガナリタテル系になることが多い。しかし、ホンモノのブルースを聴いてみると、ガナッて歌っているブルースマンは非常に少ない

ということで、まずガナったり、シャウトしたりするのは後にして、フォークソングでも歌うつもりで軽く発声して歌ってみよう。実際、むかしのブルースマンたちの半分以上は、普通の地声で、普通に歌っている。だって黒人だから・・ というのも確かに分かるが、あの黒人独特の歌い上げ系のたっぷりした声量で歌うブルースマンは、実は思ったより多くない。代表格はBBキングだと思うけど、そっち系はたしかに日本人にはきつい。どうしてもあんな風にブルースが歌いたい場合は、発声練習などちゃんとやらないと日本人には難しいかも。日本人にもいるけどね、グッチー祐三みたいな人とか。

でも、シカゴブルースだってシティーブルースだって、割と地声っぽい感じの軽い発声でホントいい味を出して歌うブルースマンはごまんといる。そんなときは、やっぱり声や唄法に個性があるよね。ビッグ・ビル・ブルーンジー、ジミー・ロジャーズ、ジミー・リード、エディー・テイラー、とかみんな独特の間違えようの無い、その人だけの味がある。なので、僕らがブルース歌うときも、自分の声を大事にして歌ったほうがいい結果が出ると思う。

あと、これも後で話したいけど、「歌う」より「しゃべる」感じで歌うのもいい。腹式呼吸とかはとりあえず無視(笑) だって腹式呼吸でしゃべる人っているの? 確かに、英語民族の発声の仕方って日本語と違って、とっても声量が上がる発声だけど、別に腹式呼吸が原因じゃないでしょ? だいたいブルース歌うのに、なんで腹筋したり腕立て伏せしたりしないといけないわけ? 自分の気持を相手に語る感じで歌うのがブルースの基本だと思う。なので、歌うより、しゃべる、で行くのもいい。もっとも、これもあんまり勘違いしすぎると、自己満足ボーカリストになるけどね。うーん、やっぱり、こうやって書いてると精神論が入っちゃってウマくないなー。ちょっと講座に戻しましょう。

シンコペーション

さて、再びクラプトンのクロスロードを研究しよう。リズム感のいい人は既に気づいていると思うが、さっきタブ譜に書いた譜割りは原曲の歌とずれているところがあった。実はこうなのだ。

   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8--5----------|----------------| 
 G|----------------|--7-5-7---5-----|--------7-7---5-|----------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
             I   down   the   road     fell  on    knee
               went   to  cross           down my  
			   

そう。上記タブ譜の赤い音符、「fell down on my knee」の「down」は16部音符が一個分、後ろにずれているのである。いわゆるシンコペーションである。で、この時の「fell down on」の3つの音のリズムに注目して欲しい。これは、譜面に書くと

となるのだが、このリズムに聞き覚えは無いだろうか。これは、かつてフュージョンミュージックというカッコつけ音楽が盛んだった時に、多用された決めのリズムである。実は、このリズムパターンは、遠くブルースの黎明期の1930年に遡り、ミシシッピーデルタブルースのチャーリー・パットンやウィリー・ブラウンなどの歌で多用されていたリズムなのである。例えばこれ。

Future blues by Willie Brown: 

当時、フュージョンが流行った時、おしゃれと言われていたあのリズムがデルタブルース由来とは、なかなかショックな話である(ちなみに当時のチョッパーベースもそこから来ている)

まあ、それはともかく、このリズムはブルースの歌のリズムの定番で、クラプトンもこれをしっかりと自分の歌唱の中に使っている、ということを覚えておこう。そして、このリズムパターンだけでなく、このたった4小節の歌メロのほとんどがシンコペーションで歌われていることにも注意しよう。歌メロというのは、作曲の一部なのであるが、ブルースの歌メロにはシンコペーションがものすごく多いのだ。

それに対して、知っての通り、日本の伝統の歌はシンコペーションよりオンビートが多用されている。ちなみに、いま、君が代を8ビートで歌ってみたが「いわおとなーりてー」の「り」だけシンコペーションで、あとは全部オンビートであった。しかし、シンコペーションが一個だけあったんだ、すごい発見だ!(笑)

というわけで、日本人の我々がブルースを歌う時は、このシンコペーションに注意して歌うべきである。知らぬ間にオンビートに変換して歌ってしまっている場合がある。

メロディーと単語

さて、シンコペーションの音を一つ増やしたが、それでも、これをそのまま歌っても、まだ原曲の味わいはいまひとつ出ていないのが分かるだろう。これは、今のところ、英語の単語の母音一つに音が一つしか割り当てられていないからである。実際に聞いてみると、母音のいくつかは、いわゆる「スラー」になっていて(音がスライドする)、それがこれまでの譜面に無いのである。 これも、一音にひらがな一つを割り当てる伝統的な日本の歌にはあまり無い事態なのである。しかし、これが英語のブルース(だけじゃなくて一般にポピュラー音楽)がカッコよくなる理由なのである。

このクラプトンの場合、明らかなスラーになっている部分を取り出すと、「to the crossraod」の「to」と、「crossroad」の「cross」の部分、そして、「on my knee」の「my」と、最後の「knee」の部分である。譜面に入れるとこうなる。

   v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v    v   v   v   v     
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
 B|----------8-8-8-|----------------|--8--5----------|----------------| 
 G|----------------|--575-5-7-5-----|--------7-57--5-|6---------------| 
 D|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 A|----------------|----------------|----------------|----------------| 
 E|----------------|----------------|----------------|----------------|
             I   down   the   road     fell  on    knee
               went   to  cross           down my  

			   

「to」「cross」「my」は下から入って一音上げ(フレットでは5から7)、「knee」は5フレットのクォーター上から入って、6フレットのメジャー3度ぐらいまで上がる。このメジャーまで上がって行くところがいかにもクラプトンらしい。ちなみに、ここでは、「to」「cross」「my」「knee」の4つだけ取り上げたが、他の単語も微妙にスラーの音程を持っている。結局は、すべての単語が変化するスラーの音程を持っているのだ。

これは、実際かなり上級に属する話で、なかなか英単語をスラーしながらメロディーに乗せるのは難しい。ただ、これができるようになると、英語の歌の表現力は格段に上がるのは確かだ。歌っている方はあまり意識がないかもしれないが、不思議なことに、聞いている側はすぐに分かったりする。「あ、この人、歌うまい」みたいにすぐ判定が付いたりする。そうしてみると、やっぱり、Speakingより、Listeningの方が簡単なんですかね。分からないが、以上に解説したことを意識して歌を歌って絶対に損は無いので、お勧めする。

ただ、ここまで詳細に音程やリズムを追ってしまうと、収集が付かなくなるのは確かだ。僕はこれをブルースボーカルの「ミクロの決死隊」と呼んでいるが、あまりにこの追及にハマってしまうと危険だ。クラプトンにしても、ロバートジョンソンにしても、この講座でやっているミクロの決死隊なんかどこ吹く風、と鼻歌みたいに歌ってカッコいいのは、確かなのだ。ただ、僕らが彼らの真似をして歌ってみて、どうしても彼らみたいにならない、と痛感するとき、それは以上で解説したような理由による。

おわりに

さて、これまでかなり分析的に、ブルースのボーカルを追ってみた。しかも、クラプトンのクロスロードの始まりのたった4小節の歌メロだけで、この事態に発展するのだ。これ以上追及したらどうなってしまうのだろう、と不安になるレベルである。ここまでやって、はじめて最初に戻って来るのかもしれない。ブルースの歌は心なのだ。めいめい自分はこの世に一人しかいない。その自分に素直になってブルースを歌うのが、実は一番大切なのだと思う。