大衆食堂の食

■あぶり焼き肉、塩漬け肉、香辛料煮の類 (焼臘鹵類)


各種肉類をあぶり焼きにした焼烤味(シァオ・カオ・ウェイ)と腸詰や塩漬け肉などの干し肉の臘味(ラ・ウェイ)は、食堂および肉屋の店頭に常時十種類ほどは鋼鉄の鉤に吊り下がっており、香辛料を利かせて煮込んだ鹵味(ル・ウェイ)はやはり食堂の店頭のぐらぐらと煮え立つ黒いタレの中であらゆる内臓類が煮上がって用意されている。

焼烤味

アヒルの干し肉(油鴨)

(シァオ・カオ・ウェイ)は、鴨の皮に水飴などを擦り込んで竃で焼いた焼鴨、豚肉を砂糖や香辛料に漬け込んで焼いた叉焼、皮付き豚バラ肉を香辛料に漬けてこんがり焼いた焼肉などがあり、すべて飴色にきれいに焼けており 非常に旨そうである。店頭の料理人は注文に応じて鉤から外して、丸太を切り出した俎板の上で、巨大な中華包丁を降り降ろして骨ごとぶつ切りにして皿に盛る。これには甘いジャムのような甜酢醤というタレが小皿に添えられることが多い。焼烤類は、脂が乗って、甘いといった感じで味わうものらしい。

また、これは焼きものではないが、鷄をまるごと水煮あるいは蒸して表面に油を塗った白鷄(パイ・ヂ)はどの店も必ず吊り下がっている。香港の鷄の旨さを十分に味わえる一 品だが、これには塩辛く濃厚な油が小皿についてくる。これはネギ、ショウガのみじん切りにきつめの塩、ショウユなどを加え、そこに熱い油を流し込んで作ったもので、かなりきつい味だが、白鷄をつけて食うと非常に美味である。

臘味
ミニレシピ  〜白鶏のタレ〜

ネギを荒みじん切り大匙2、ショウガみじん切り大匙1/2、塩小さじ1/2、ショウユ少々を金属の器に入れ、ここに200度以上の高音に熱した油大匙3を一気に入れ、そのまま放置する
(ラ・ウェイ)は、鈴なりになってぶら下がっている腸詰の臘腸や、家鴨の類の内臓と骨を抜き頭付きのままぺしゃんこにのして干した油鴨、豚のバラ肉をショウユ漬けにして干した臘肉などがある。臘腸あるいは香腸はいわゆるソーセージだが、一般に中指大のこぶりのもので、赤いもの、茶色のもの、血の入った黒いものなどいくつか種類がある。いずれも香辛料が強烈に 利いていてなかなかハードである。赤い腸詰は、食紅で色つけされていて、噛んでみると半透明で真っ赤で、非常に甘く、かつ塩辛く、使われている香辛料はまるで漢方薬をそのまま食べているような感じだが、しばらく食べていると病み付きになる。もっとも中指一本分で十分満足でき、西洋のソーセージのようにばくばく食うとと腹をこわしそうである。干し肉の類はかなり塩辛くまた堅い。腸詰も含めこれらは一般に蒸して食べる。

鹵味 (ル・ウェイ)は、鹵水(ル・ シェイ)と呼ばれる、ショウユ、酒、砂糖をベースに香辛料を大量に加えたタレで肉や内臓を煮込んだものである。日本の中華料理店でも供されているが本場のものは香辛料の量が比較にならぬほど大量である。この鹵水は毎日毎日同じタレで肉類を煮込み、古いものほど良いとされていて、色々なエキスが溶け込み複雑 な味になっている。一般に、タレの味が落ちぬよう、ぐらぐら沸騰させず、こまめに濾したりあくを取ったりする必要があるが、ただ、大衆食堂のものはあまり気にせず物凄い火力でお構い無しにぐらぐらと煮立っている。香辛料の量が大量なので多少の臭みはすぐに消えてしまうらしい。また、この煮え立つ香辛料の蒸気が香港の町中の臭いのかなりを占めている。

煮込むものは、牛、豚、鷄の肉および内臓である。よく目につくのは、牛の胃、大腸、心臓、舌などで、適当に切り分けられ、そのまま食べたり、御飯や麺の上に乗せたりして食う。見た目は少々グロテスクだが香辛料のせいで内臓の臭みはほとんどなく歯触りもよくうま い。使われている香辛料は、中華料理のスパイスとして日本でもおなじみの八角(スターアニス)、花椒(粒山椒)、桂皮(ニッキ、シナモン)、陳皮(みかんの皮を干したもの)のほか、小茴(フェンネル)、干した生姜、ナツメグの実、薬として有名な甘草(カンゾウ)、丁香(チョウジ、クローブ)などが入る。西欧ともインドとも異なる調合で、混合した臭いは古い薬のような感じである。


■ご飯もの (飯類)

ごはんの類は、日本と同様そのままおかずと共に食べる白飯(バイ・ファン)、焼烤味や鹵味を乗せた鹵味飯 (ル・ウェイ・ファン)、日本の丼ものに相当する蓋飯(ガイ・ファン)、炒飯(チァオ・ファン)すなわちチャーハン、砂鍋飯(シャー・グォ・ファン)という炊き込み御飯などがある。日本と特に異なるのは使われる米の種類であろう。こちらの米は、細長く、ぱさぱさして粘りがなく、かつ 強い独特の臭いを持ったインディカ米である。スーパーなどで見てみると、中国産よりタイ産の香米が多く使われているようである。この独特の香りは、中国、香港のみならず東南アジアからインドにまで広がる親しい臭いと言ってよいだろう(ちなみに韓国はジャポニカ種を食べている)。

白飯 (バイ・ファン)は、日本のおちゃわんを二回り小さくしたような椀に、山盛りに盛られて供される。ちょうど、仏前のお備え飯の形である。日本では、おかずで御飯を食うというスタイルだが、中国ではおかずの種類と量が日本よりずっと多いせいで、御飯は添えもののような感じで食べているように見える。また、インディカ米は軽いので割りとさらさらと腹に収まってしまう。

鹵味飯 (ル・ウェイ・ファン)は、 平皿にかなりたっぷりめに白飯を平らに盛り、これに前述の焼烤味や鹵味のぶつ切りを乗せ、上から少量の鹵水をタレとして回しかけたものである。上に乗せるものは一種類、二種類、あるいはそれ以上を好きなように選ぶことができる。脂っこい焼き物や香辛料のきつい鹵味と、粘りなく軽く香りの良いタイ米の組み合わせは、慣れると非常に美味である。

 
又焼飯 (チャーシュー乗せご飯)

焼鴨飯 (焼き鴨乗せご飯)



蓋飯 (ガイ・ファン)は、白飯の上に色々な料理をかけたもので、日本で言えば中華丼だが、その種類は多い。例えば、牛バラの塊を香辛料入りショウユで煮込んで青菜と共にあんにしてかけたり(時菜牛腩飯)、茄子と挽肉のミソ煮込みをあんにしてかけたりするが(魚香茄子飯)、汁気を多くして片栗粉でとろみをつけてあんかけにしたものが多いようである。香港では「外賣」といって 出前が多くあり、プラスティックや紙でできた容器に入れて配達するが、昼飯どきに工事現場の道端などで食っているものをのぞき込むとこの蓋飯が多い。さらに皆違うものを食っており、非常に旨そうである。ちなみに食うことに関してはおおらかで、例えば高級宝石店であっても昼どきになると店の中のレジの前あたりで店員がこの出前飯を食っている。日本のように隠れて食ったりはしないようである。

 
豉椒牛肉飯 (牛肉の豆豉炒めかけご飯)

炒飯
ミニレシピ  〜鹹魚炒飯〜
鹹魚を5分蒸して柔らかくしてから荒微塵にする。鍋に油を熱し、鹹魚を軽く炒め、卵を入れ半熟になったらご飯を入れて炒める。塩、コショウ、化学調味料で調味し、炒まったら、ショウユ少量と、ネギ、レタス、香菜の微塵切りを加えて軽く混ぜ合わせて出来上がり。
(チァオ・ファン)の種類はあまり多くはない。インディカ米を使っているということもあるが、味付けはかなり軽く、あっさりしていて、日本のチャーハンとは味、香り、食感ともかなり違う。日本のようにチャーハンとスープで食事にしてしまうというよりは、色々なおかずと共に食べることの方が多いようで、そのせいもあって味が軽いのだと思う。揚州炒飯という五目チャーハンの具は卵、チャーシュー、グリーンピース、エビなど日本と同じだが、ことのほか旨いのが鹹魚炒飯(シェン・ユイ・チァオ・ファン)という広東独特の塩漬けの魚を豆粒大に切ったものを加えた炒飯である。この鹹魚は魚を内臓ごと塩漬けにして発酵させたのち干したものでかなり強烈に臭い。これを油に漬けたり蒸したりして柔らかくしたものは臭くて旨く炒飯に加えると絶品である。

煲仔飯 (バオ・ヅィー・ファン) は、砂鍋と呼ばれるとっ手の付いた小さな土鍋で、生米の上に具を乗せて炊き込んだ、いわゆる中国風釜飯である。中国本土では砂鍋飯(シャー・グォ・ファン)と呼ばれる。色々な具が用意されていて、その場でひとつひとつ炊き込む。例えば、干した鴨、干し肉、腸詰などを乗せて炊き込んだものは、ふたを開けると香辛料と米の臭いが物凄く、食卓の中国ショウユをかけて食うのだが、実に満足感がある。昔の香港では冬の季節になると、この砂鍋飯が路上の至る所で蒸気を上げ、一種の風物詩のような感じであった。
店頭の鹹魚 時菜滑鶏煲 (野菜と鶏肉の炊き込みご飯)

■めん類 (麺類)


麺類の種類も非常に多く、日本のラーメンに相当する汁そばである湯麺(タン・ミェン)、汁気のない撈麺(ラ オ・ミェン)、油炒めした炒麺(チャオ・ミェン)などがある。使われている麺は、小麦粉、卵、かん水で作った、かなり細く、黄色く、多少ちぢれていて、ぱさぱさで食感の軽いものが一般的である。全蛋麺という卵だけで打った麺や、エビの卵を混ぜ入れた蝦子麺もよく使われる。その他、麺の種類は多く、麺売り場へ行くと何十種類もの麺が並んでいる

湯麺
(タン・ミェン) は、日本のラーメン椀を2まわり小さくしたような小椀で出される汁気の入った麺で、窩麺(ウォ・ミェン 窩は鳥の巣の意)とも呼ばれる。上に乗せる具の種類によって数多くあるが、街中でよく見かける牛什麺(ニュウ・シー・ミェン)を紹介しよう。スープは鷄や豚のほか魚の干ものなど海産物の乾物を入れてとった、全体的にかすかに緑色をした澄んだ汁で、始めから塩味がついている。また、上に乗せる具は、牛の大腸、胃、すね肉、レバーなどが鹵水の中でグラグラと煮立っている。さて、注文を受けるとまず麺と青菜を沸騰した湯に入れ、牛の肉、内臓類を取り出して俎板の上で一口大に切り分ける。ゆで上がった麺を小椀に入れ、その上にゆでた油菜、切り分けた肉、内臓を乗せ、鹵水を少量すくい入れ、ラードを少量かけ、そこにスープを勺子一杯注ぎ入れる。ウエイターはこれに刻んだ韮黄(黄ニラ)を振りかけて客に運ぶ。

日本のラーメン通はこの香港式湯麺をまず認めないだろう、というか、これはもう日本のラーメンとはまったく別の食い物だと思った方がよい。麺はぱさぱさで素気なく、スープはかすかに甘味があってやはり何かあくどい感じがあり、鹵水が入っているため全体に香港の街中の香辛料の臭いがし、内臓はグロテスクで、葱の代わりの黄ニラは独特の臭いを添え、何か香港の街の一部をそのまま喰っているような感がある。

このほか、よく見かけるのは、雲呑麺(ワンタン麺)や、魚蛋麺(魚ボール麺)である。雲呑麺は、麺の上にゆでたワンタンと青菜を乗せて澄んだスープをかけたものである。日本のワンタンはあんがほとんどなく、むしろ皮のつるりとした食感を味わうもののようだが、香港のそれはエビがはちきれんばかりに入ったもので、味、歯ごたえ、量ともに日本のものとは比較にならない。また、魚蛋麺は魚肉ボールの乗った麺で、黒っぽいボールは魚、白いボールは恐らくイカを使ったもので、この魚肉ボールがこれまたゴムのような弾力で食いごたえがある、懐かしい香港の味である。

牛什麺 (牛各種内臓の鹵水煮のせ麺) 雲呑麺 (ワンタン麺)


撈麺 (ラオ・ミェン)は日本ではなじみのないもので、ゆでた麺を平皿に盛り、これに各種あんをかけた汁気のないソバである。これには別に小椀にスープが付いてくる。例えば、担担撈麺なら肉ミソと青菜が乗り、雲呑撈麺ならゆでた雲呑と青菜が乗りカキ油がかけてある。使う麺は湯麺と同様の細麺である 。

炒麺 (チァオ・ミェン)には、具と 共に直接炒めて味付けしたものと、麺を油焼きあるいは揚げてあんをかけたものがある。これも具やあんの種類により数多くある。特に、細くてぱさぱさの蝦子麺をネギ、ショウガ、肉、黄ニラなどと共に炒めて中国ショウユ、カキ油で味付けした姜葱炒麺は、屋台などでも日本のソース焼きそば感覚で山盛りで売られたりしていて、食感が軽く美味である。

■穀物加工品 (粉類)

粉類と麺類の区別はよく分からないが、小麦粉以外の粉で作ったものを総称して粉類と呼ぶらしい。これにもいくつか種類があり、麺と同様によく食される。

米粉
 (ミー・フェン)は、日本でもおなじみのビーフンで、原料は米である。

沙河粉 (シャー・ホー・フェン)は日本では見当たらない。やはり米を原料にして丁度きしめんのような形に仕上げたもので、半透明でつるりとした食感がある。最近はベトナム料理のフォーがポピュラーになったが、あそこで使われているのがこの沙河粉とほとんど同じものである。以上は、麺とまったく同様に、汁仕立てにしたり、炒めたりして食べる。メニューによく「麺、米、河同価」と書かれていたりするのは、この料理は麺でもビーフンでも沙河粉でも同じ値段で作りますよ、という意味である。

ミニレシピ  
〜ショウユタレ〜
ショウユ150cc、氷砂糖50g、水150ccを火にかけ煮溶かして冷ます
〜香り油〜
ピーナッツ油150ccに、タマネギ1/4個とニンニク1かけのみじん切りを入れて火にかけ、茶色になったらこして冷ます
粉絲(フェン・スー)は春雨のことで、中国のものは緑豆を原料とする。最近は日本でも春雨というと中国産のものが一般的なので同じものである。戻して、和えものやスープの浮き身に使うが、香港では粉絲をショウユやカキ油で味付けして各種具を乗せ土鍋で蒸し焼きにしたものがよく食される。
このほか、麺仕立てではないが、米をどろどろにして蒸して薄い皮状にしてこれをくるくるとまとめたものは
腸粉 (チョウ・フェン)と呼ばれ、粥と共に朝食によく食される。エビや挽肉などをアンにして巻いてあり、豚の腸にそっくりなところからこの名前がついた。ショウユタレと香り油をかけて食べるが、つるりとして美味である。 ところで、このショウユタレと香り油だが、飲茶などでは野菜をその場で茹でて、この2つをかけて手渡すワゴンサービスがある。日本でいうとちょうどおひたしの感覚で、簡単でおいしい。
 
腸粉 香り油をかけてからショウユタレをかけて供される

■おかゆ (粥類)


ミニレシピ  〜広東の白粥〜
米1/2カップ、水2.5リットル、油大さじ1を火にかけて沸騰したら中火にして常に米が踊るようにして1時間ほど炊く(日本のように弱火にしない)
粥は、朝食として、またちょっとおなかがすいたとき、あるいは夜食として、非常に一般的な食べものである。生米に大量の水を加え、強火で米粒が常に踊るように炊いたものが白粥(バイ・ズォウ)である。粘り気のない米で炊いた粥はさらっとしていてまさにライスポタージュといった感じに仕上がる。この白粥と、いくつもの小皿に乗せられたおかずという取り合わせは朝食の定番である。おかずとしては、小麦粉を練って油で揚げた油条(ヨウ・ティアオ)、豆腐を塩漬けにして発酵させた腐乳(フ・ル)、落花生を揚げて塩をまぶしたもの、皮蛋(ピー・タン)、みじん切りのネギ、糸切りのショウガ、などなど数種類が用意される。

白粥におかずというパターンのほか、様々な具を混ぜ込んだ粥が多数ある。料理店では、大きな寸胴に白粥が煮立っていて、一方、バットの上に生の魚の薄切り、肉類、生のレバーの薄切り、など色々と並んでいる。料理人は白粥を小鍋に取り、ここに注文の具を入れて一寸煮立ててから、小腕に糸切りショウガとショウユをたらした所に注ぎ入れて、ネギを散らして客へ運ぶ。具入りのお粥はしっかり味がついているので、そのまま食べる。小腕一杯の粥は量もちょうど良く、身体も暖まり美味である。

 
皮蛋痩肉粥 (ピータンと塩漬け肉のおかゆ)



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