山椒大夫
(溝口健二)
平安時代ごろの昔の物語を映画化したもので、白黒の古い映画である。溝口健二の映画はすでに何本も見たのだが、この作も、いかにも溝口健二らしい情緒が全編にあふれていて、すばらしい。この人、本当に淡々と、丁寧に、物語に沿って撮っていて、全く無駄のない、強引さのない仕上がりで、なんと言うか、僕にはとても女性的な感じがする。同じ時期の古い映画でも、黒澤明のダイナミックな男性的な感じと対局にも見える。しかし、この騒々しい現代に生活していると、この映画を見ていた時間がエアポケットみたいに思い出される。何百年か前にすっかり戻ったような不思議な感じである。もっともこれは、主役の田中絹代の、あっちの世界に行ってしまったような独特のなよなよした演技のせいも多いにあるかもしれない。映像は淡々としているが、物語自体は波瀾万丈の悲話で、次から次へと飽きるところがない。美しい映画である。