ハレルヤ
(キング・ヴィダー)

初の黒人しか出てこない映画で1929年に作られたとのこと。当時ほとんど表舞台に出てこなかったアメリカ黒人の生活を撮った映画としてかなりの資料的価値があって、また、登場人物たちの歌や演奏がそのまま入っていて音楽的にも貴重なのだそうだ。うん、この分野、大学時代の大半を黒人ブルースにはまって暗く過ごした僕としてはわけ知りである。見る前に、当時の白人がスーパーバイズして撮った映画なら、まず間違いなく音楽は、ゴスペル中心で、加えて当時のポピュラー曲のブラック節、少しのエンターテイメント系ジャズだろう、と思っていたらその通りで、そして予想通りブルースは出てこなかった。でもね、筋書きはたいしたものじゃないんだけど、主人公の男が、きれいな褐色の肌の女(ブラウン・スキン・ウーマン)に一目惚れして、女にだまされて賭博で金をすって一文無し、やけになって酒場でピストル撃ったら弟が死んじゃって、牧師になって真人間になって、優しい心の女(カインド・ハーテッド・ウーマン)に結婚を申し込んだと思ったら、あのよこしまな女(イーブル・ウーマン)がまた現れて、誘惑されて牧師を放り出して女と逃げて、そしたら女が浮気して裏口から逃げようとしたところを見つけて、ピストル撃って、どうのこうので、疲れ果てて何もかも失ったところで、貨物列車(フレイト・トレイン)に乗って、故郷のママのところへ帰って行く(ゴーイング・ホーム)、ってねえ、この物語がそのまんま「ブルース」なんだよねー。ゴスペルやポピュラー、ジャズなんかの、みんなで歌ってみんなで楽しむ系の音楽から、こんな個人的な体験を、ギターを鳴らして独りで歌うブルースが、こんな風に生まれたんだなあ、と感慨しきり。しかし、1920年代の彼らの歌はホントすごかったよ、どんな曲歌ってもほんとに3度と7度の音がフラットしてるんだから(笑)

 

注釈
ところでカッコつきの英語は、ブルースの歌詞で、もうさんざん出てくる定番フレーズ。ふるいつきたくなるセクシーないい女はbrown skin womanで、kind heartedがいてevil heartedがいて、そんでback doorから女が逃げ出して、そんで金の無い彼らはfreight trainに乗ってgoing homeそしてmotherの元へ、というノリです