エデンへの道
(ロバート・エイドリアン・ペヨ)
北欧の、ある解剖医の仕事と生活を描いたドキュメンタリーである。彼の一人称の語りを交えながら、映像が淡々と、整然と流れて行く、実に静かな、美しい映画である。もちろん、実際に死体を解剖するシーンも克明に映し出されていて、これは初めての僕などにはかなり気持ち悪く、そのせいでおすすめはしない。しかし、全編に流れる生と死と肉体に対する畏敬の念はすばらしいね。「解剖医は善良な人間でなくてはならない」という言葉が印象的だったなあ、仕事と家庭の長として日々、人生において自分に与えられた役割をよどみなく、正直にこなして、来るべき死に向かって生きている。最後に、この人本人が死んで解剖台の上に乗っている姿が想像できてしまうほど、自分の進む道の上を正確にいささかの乱れもなく歩み続けている感じは、この人、本当の「神の僕」という感じだね、こんな人がいるんだね。あともうひとつ、彼の言葉で「私は、不思議なことに、恋心というものを今まで一度も抱いたことがない」というのも「そんなことってあるのか」と思い、びっくりした、解剖医は天職だった、ということなのかな。というのは、こうして解剖を見ていると、恋心というのは肉体の表面への妄想なのかな、と、どうしても感じてしまうので。