Mar 172012
 

ここさいきん、いろいろなところでミニアンプの話題を聞くようになった。本番のライブやスタジオで練習するときはいいとして、家でギターを練習しようってことになると、通常サイズのアンプじゃ音がデカすぎてかなわない。20Wだ30Wだっていうアンプのボリュームをほとんど極限まで絞って音出して弾いていても、当然、いい音がするわけがない。

というわけで、これは昔から、自宅練習用、あるいはバックステージでの練習用のアンプっていうのが売られていた。一番有名なのは、かのFenderのChampであろう。フルチューブで、出力はおよそ5W。特にUSAなんかでは、このChampの回路を元にしたいろんなブティックアンプが作られていて、デザインもカッコよく、家においてもインテリアにもなっちゃう、というのがけっこうある。

Champは6V6GTのシングルで5Wぐらいなのだが、実は家で弾いてみるとわかるけど、5Wでも音はけっこうでかい。特にChamp系はふつうワンボリュームで、あってもトーンが一つていどなので、チューブで歪ませようとしても音がでかくなりすぎ、日本の家屋事情では無理な感じだ。要は、6V6シングルでも音、でかすぎるのである。実際に音を出してみると、自宅の部屋ではパワーは1Wぐらいでも十分な音量になる。

そんなこんなで、少し前から自宅練習用アンプがあの手この手で出てくるようになった感じがする。MarshallがJCM1と称した1Wアンプを出したり、VOXからアンプシミュレータがついたミニアンプが出てたり、あるいは最近ではYAMAHAから、やはりアンプシミュレータと各種エフェクトなど機能満載なTHRという自宅用ミニアンプが発売されたりしていた。特にこのYAMAHAのは飛ぶように売れているらしい。

しかしだ。やはりチューブアンプ派としては、エレキギターの練習はフルチューブアンプでやりたいものだ。アンプシミュレータ付きVOXは自分も持っていて確かに重宝したのだが、何だかしばらく使っていると飽きてしまい、結局、売っぱらってしまった。アンプシミュレータって、自宅ミキシングでラインで録音したりするのにはえらく便利なのだが、一人静かにギターの練習をするのには、自分的にはどうも役不足である。

というわけで練習用の自宅フルチューブミニアンプを作ろう、というプロジェクトを始めたのでその紹介である。

双3極管でプッシュプル

さっき書いたように、パワーは1Wぐらいあれば十分な感じである。シングルでもいいのだけど、プッシュプルの方がハムにも強いし、ひょっとして音もギターアンプらしく本格的でいいんじゃないか、ってことでプリアンプ用の双三極管をプッシュプルで使ってパワー段とすることにする。12AU7や12BH7なんかがちょうどよさそうである。それで、結局まずは、たまたま一本ストックがあった12BH7でやってみることにした。あと、アメリカのKendrickでもこの12BH7をパワー段に使った自宅用ギターアンプが販売されていて、その記憶もあった。

さて、まずはとにかく音を出してみよう、ということで、きわめて普通な回路を組み合わせ仮組みしてみた。回路は以下である。

12AX7を2本使って、一本目でGAIN付きの普通のプリアンプを構成して、こいつをトーンコントロールに送り込む。そしてトーンコントロール出力にMASTERボリュームをつける。ここでトーン回路に、今回はオーディオ用のものを使ってみた。もちろんこの回路はいくつかのギターアンプでも使われていて、別にギターアンプで珍しいわけでもない。

トーンといえば何といってもFenderのあの見慣れた回路がポピュラーだけど、実は自分はあれが苦手である。お店や練習ではFenderを使うことが多いが、あのTreble、Middle、Bassの3つのツマミをまともに扱えたためしがない。何をどうまわしたらどういう音になるのかいまだに分からない。なので、すでにとうの昔に諦めていて、さいきんは全部5にして弾いている。若いころは全部10だったが歳を取ったのであろう(笑)

これにはいくらかまっとうな理由もあって、Fenderのあのトーン回路は全部5にしても周波数特性はフラットにはならない。中域がボコッと落ち込んだ特性になっている。で、ツマミを回しても、いわゆるグラフィックイコライザーみたいな変化はせずに、なんとなく奇怪な変化の仕方をする。それが感覚的にもよく分からないのである。

それに対してオーディオ用のトーン回路は、見事にグラフィックイコライザー的に特性が変化する。なので、低い音が欲しければBASSを右に回せばいいし、高音のキンキンを無くしたければTREBLEを左に回せばいいし、非常に分かりやすい振る舞いをしてくれる。これなら自分でもトーンを使いこなせそうな気がする。

さて、トーンの後は、ポピュラーなムラード型の位相反転を経て、12BH7のPPである。とりあえずカソードバイアスにしておいた。

鳴らしてみる

音はあっさりと出た。なかなかいい音である。実際、測定してみるとこの状態でパワーは1W強なのだが、これでも十分うるさいぐらいに鳴る。GAINとMASTERの2ボリュームなので歪み系の音も作れ、なかなか楽しい。ただ、クリーンはよかったのだが、クランチさせるとどうも歪みの質がイマイチである。なんとなく濁っていて汚い。

シンクロで見てみたら、なんとなく全体に歪みが大きく、特にクランチ状態ではかなりひどいクロスオーバー歪みが出ている。ひょっとすると有り合わせの適当な部品で作っているからかもしれない。

あと、アメリカの掲示板で見たのだが、クランチでのクロスオーバー歪みはカソードバイアスではどうしても出るものらしい。というのは、クランチ状態ではパワー管への入力が過大になり、グリッドがプラスになり盛大にグリッド電流が流れる。それでこの電流は当然プレート電流に加算されてカソード抵抗に流れるので、カソード電位が相当に上がり、そのせいで動作点が狂って歪みになるそうである。なるほど、この辺の知識になると、自分はこのアメリカ掲示板で初めて知った。というのは、僕はずっと日本のオーディオ真空管アンプで勉強してきたのだけど、そもそもオーディオにはオーバードライブにおける動作の話など当然出てこないのである。

ところで、アメリカの掲示板を見るとすごい。チューブギターアンプに関するあらゆる知識や情報がこれでもかというぐらい、しかも、微に入り細に渡り、相当に深く追求した検討が、いくらでも出てくるのである。さすがエレキの本場、というかDIYの本場である。これに比べると日本のギターアンプ自作に関する情報はホント少ない。オーディオはそこそこあるけど、ギターチューブアンプについてはアメリカとはまるっきり比較にならない感じである。

さて、というわけで、パワー段のカソードバイアスはNGで、固定バイアスが良いようである。12BH7ならバイアスは15V前後なので、ヒータートランスの6.3Vを倍圧整流すれば作れそうである。

急遽プリアンプに改造

そうこうしているうちに、2週間後の3/31に久しぶりのライブがあることを思い出した。僕のバンドは少しロック寄りのブルースバンドなのだけど、ドラム・ベース・ギターの3人バンドなんで、ギターの音がけっこう決め手になる。で、今度のライブでは、ジョニー・ウィンターがやっているIt’s My Own Faultっていうスローブルースがやりたくて、彼のデビューアルバムを聞いていたら、あの音が出したくなってきた。

ジョニー・ウィンターの音って独特で、まあ、オレはストラトなのでその時点で間違ってるのだが、あのクランチがかった、でも歪み過ぎない、ちょっとギスギスした感じの微妙なトーンがすごくカッコいい。でも、あの音ってどうやって出してるんだろう? 調べてみると、Firebirdのフロントピックアップで、アンプのセッティングは、VOLとMASTERは10、TREBLEが10でBASSとMIDDLEが0だそうだが、ありゃーすごいセッティング、でも、まあこのまま真似してああなるわけじゃないよね。

それにしても、ストラトをいつものBlues Jrに通しただけであの音になるとは思えない。やはり、真空管でうまい具合に歪ませるべきだろうなー、などと考えているうちに、以前やったSoldano型アンププロジェクトを思い出した。試作したヤツのGAINを絞って弾いた音がけっこうジョニー・ウィンターっぽい歪みだったんだ。これは該当ページの音源にある感じの音である。歪み方が滑らかでなく、コンプレスはあまりかからず音が太い。

ということに思い至り、それまでのミニアンプ構想を放り投げ、試作したヤツをSoldano型に作り変えちゃった。それで出力を、フラットにセッティングしたBlues Jrに入れて弾いてみたら、あら、カッコいい、それっぽい音になってる! これは使えそうだ。かなり歪みがひどいけど独特なエグイ感じでいい!

ちょうど翌日が金曜だったんで、このプリアンプを行きつけのバーに持ち込んで実地試験をすることにした。お店のアンプで鳴らして、ベースとドラムと一緒に演奏してみた。うーん、たしかに音はカッコいいような気はするが、実地でやるとイマイチだ。とにかく歪み過ぎていて、トップノートが出ていない。つまり、コンプレスがかかってしまっていて、ドラム・ベースと一緒に演奏すると音が引っ込んでしまう。あれー、おかしいなー。確かに独特の音ではあるんだが、今風に言うと、いい音とは言いがたく、たまたま来ていたお客もこれを弾いて、この音は俺じゃ使いこなせない! って言ってた通り。

やっぱい、あのエグイ歪みはなんかがおかしいみたいだ。というわけで翌日、アンプの動作を調べてみることにした。まずは各部の電圧を測ると、あれ? 最終段の3極管のカソード電圧がゼロだ、おかしい。よくよく見てみたら、カソードとグリッドを逆に配線していた。ありゃー、こりゃ、ダメだ! この回路でも信号は通るが、ほとんど半波整流回路みたいになっていたらしい。ああ、だからあんなにエグイ歪みだったんだ。なーんだ。

さっそく正しい配線に戻して、改めてギターをつないで弾いてみた。そしたら、なんと、まあ、ものすごくキレイなクリーントーンで拍子抜け。というか、これじゃただのどこにでもあるプリアンプだ。Blues Jrに直に入れて弾いた音となんら変わるところがない。ということは、ほとんど意味がない。それで、GAINを上げて歪ませてみたが、歪んでしまうと、これまたただの特段に変わったところのない滑らかなディストーションで、こんなのなら別に歪みエフェクターを踏めばいい話だ。

うーむ、がっかりだ。

プリの調整

というところで、回路をもう一度いじって欲しい音を追求してみることにした。まず、3つ目の3極管のカソード抵抗を33kから極端に100kに変えてみた、ちょと無茶だ。弾いてみたら単にゲインが落ちただけ。ダメか。ただ33kは小さすぎると思い、50kにしておいた。あと、初段と2段目のカソードバイパスを1μFにしてみた。これはSoldanoで使っている値である。弾いてみた、うん、ちょっと良くなった。次に、電源の平滑回路に入っている抵抗が、ミニアンプのときのままで10kだったのを1kまで落とした。ちょっと良くなった、でもGAINを上げるとどうも歪みが優先してしまいダイナミズムが出ない。

ところで、オレがどんな音を追求しているかというと、歪んだトーンなのにも関わらず、ピッキングのダイナミクスがきちんと保存されている音なのである。強くピッキングしたときの音がバキーン!と鳴って、しかも、全体にクランチがかかっている、というヤツである。これ、意外と難しいんだよね~ 歪むとどうしてもコンプレスがかかちゃうから。

というわけで、ひょっとすると終段(4段目)のところで歪んじゃうのかな、と思い、4段目を止めて、3段目から出力を取り出してみた。

これでやってみたら、うわ、すごくいい音! 上述した感じになってるし、Blues Jrで若干のリバーブをかけるとスローブルースのソロが気持ちよく弾けること弾けること。これはいけそうな音だ。

ライブはちょうど2週間後だが、この時点でこれを使うことに決定。で、本番は厚みのあるいい音で弾きたいので、2箇所から鳴らすことを考えた。以前、同じ大倉山のお店で自作のアンプで弾いたときは、アンプにマイクを立ててもらい、PAからもギター音を出してダブルにしたらすごくいい音だった。それを思い出したのである。ということで、このプリアンプに出力をもうひとつ増設して、2出力にした。本番ではギターアンプを2台使って、このプリアンプから分岐して2台鳴らすことにしよう。

ライブが終わったら、このプリアンプに12BH7のパワーをくっつけて当初の予定通り1Wミニアンプにすることにしよう。あと、2週間だ。

 

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